48話
祭壇を作った誰か……、司祭とか教祖とか知らんけど、そういった立場の奴が残した移動の痕跡を辿り、地上に出た。
一応はその痕跡自体も観察はしていて、余り頻繁に訪れたものでもないのは確認した。
此処の汚れ方の頻度が判らんので断定はできないが、多分、一年おき程度の間隔かなな推測に落ち付く。
……となると、この時期にあんなイベントをやる理由って部分も要注意か。
俺の感覚だと完全に邪教で良いんだが、そんな存在がイベントやる以上、世間様に何か活気ある行動とかしそうだし。
もし邪教じゃ無かった場合は……、人間二人の命を使うだけの価値は有るのかがネックかー。調達手段が拉致じゃなくて殉教って場合も、皆無じゃ無いだろうしなー。
……ううむ、面倒な要素が。
……まぁ、とりあえずは保留の精神で。
今のとこ、俺の仕事と絡むのかも謎なとこだし。
さて、地上の様子は。
谷の反対側とそう変わらない原生林だが、やや植物が多めか。
地下探索に思わぬ時間を使ったせいか、午後になっている。
そのせいで傾いた陽は木々で遮られ、周辺に随分と影を落としてるな。体感での日没は昨日よりも速そうだ。
谷向こうからの位置的に、此方側の登山ルートとは随分と離れているようで。
ただこの場所は地面に開いた穴を大岩で蓋する感じなので、余り隠し通路と言った雰囲気は無し。
まぁ、状況を知ってるからこその評価だが。
向こうにある移動ルートとは木々が遮っているから、そう簡単に近寄ろうって気にもならんか。
足下を確認すると、岩の附近には地面剥き出しで足跡も残っているが……少し進むと絡まった木の根と落葉に埋まる環境なので、もう追跡は無理だなぁ。
せめてもと移動した方向を見通してみるも、森の深みしか見えない。
……さて、その方向に本当に何か在るのか、それとも偽装なのか。
因みに、やっぱり近場の魔力ラインの方向とも関係無し。
……もう、別の案件でいいや。
流石に俺の行動の全てに神様の意図が働いてると思うのは、ちょっと自意識過剰だろう。
だって俺、魔王やんない宣言はしてるし。
地元の行商路はそうそう人通りが有るわけで無し。それでもMAPの情報には注意して人と遭遇しないよう、近くの村が在るっぽい方向へ進む。
今度は魔物との遭遇も無い。まだカンテラを点けっぱなしなので。
……今更だが、この魔物避けの効果も不思議なもんで。
反応を見てると一定範囲に入った魔物が、皆避けて行く動きだし。足の速そうな反応などもう一目散って感じに移動している。
……むしろこう、魔物が避けると言うよりも、俺が避けられてる感じ?
この効能もその内調べるか。絶対ハズレの無い魔道具だし、解析して複製可能なら俺の場合市場破壊規模で創造できるし。
まぁ、使用魔力が世間的に半端無いそうだけど。
進むうちに獣道然とした様相がそれすら怪しくなって来た。自然の猛威に負けて踏み固めた土すら繁茂の範囲のような。
最初は大人一人の肩幅程に道幅が有ったのが、二時間進むと半分程に縮み、更に一時間で平均台の上を渡る気分の幅と化す。
これ絶対、もう30分も行かん内に道が消える。
そんな風に焦った途端、唐突に森が消えて綺麗に刈り揃えられたゴルフ場の雰囲気な草原となった。
まだ灌木といった感じで木々は疎らに生えてるが……こりゃ完全に何かに管理されてる土地だわ。前方約70度の範囲、見渡す限りが草原。この世界のこの大地が地球と同規模の惑星だとしたら、おおよそ4kmが整備されてる理屈。
……人力だけでも大規模耕作地となればその程度はザラに在るだろうが……、それを管理するって事は、それだけの能力を有する行政機関も有る筈で。
ふむ、ここいらってまだ魔導国の版図だよな?
勝手に集まった集団が地方豪族規模にまで膨らんだか?
……嫌だなぁ、実効支配で俺の土地とか言い出す勢力。確実に魔導国と悶着になるだろうが。
そんな事を考えてたら久し振りに明確なミラテル嬢の意思が来た。
ほう……ほほう。
おそらくは、実質魔導国関係での公国扱いな公爵領とな。
[サーブワン公爵領]、魔導国初代王の直ぐ下の弟が開祖と。
基本的には、万が一に直系の王族の血統が途絶えた時の予備の血統で、平時は自領内から一生出ない影の血筋。直接の武力を有して変な旗印にされないよう、領内全体が食料生産地になっていると。
……それ、言い換えれば魔導国の食糧貯蔵庫なんじゃ?
むしろ、潜在的な脅威度は仮想敵以上に高くね?
どんな世界でも、生存根幹の資源を握ったもんが勝ち組なんよ?
……まぁ、ミラテルを含む魔導国の貴族の概念では危険性は微塵も無い身内のようで。
少々釈然とはしないものの、それがこの地方の常識なら認めとかないとか。
そしてこの土地の様子だが、状態が草原と言う事は放牧地区ではの御意見が来た。
どうも耕作だけじゃなくて酪農も半端無い規模でやってるらしい。
……ああ、此処の草っ原、綺麗に刈られてんじゃなくて牛か何かのモグモグ用地って訳か。むしろ一度は根こそぎ食われて、少し時間が経ってここまで回復したって風景な訳ね。
……と言う事は?
何気に、まともな食用家畜の登場か。
なんとなく野趣過剰な家畜擬きの肉じゃなくて、蕩けるような霜降り肉の登場とか……有りか?
……おおうっ
なんか一気に脳内がすき焼きモードにっ。
視線に魔力を込めて視力の強化っ、とか試みてみる。
残念、裸眼で望遠鏡覗いたような変化も無いし、牛も確認できない。
そもそも。この近郊には家畜も魔物も反応が無い。
ちくしょうっ!!
……いや、駄洒落じゃないぞ。
と言うか落ち着け、俺。
[収納]の中の玉葱の在庫確認だ。よし十分、何時でも戦える。
しかし春菊は無い。
シラタキも欲しいと言えば欲しいが……この世界でのコンニャクとか地球の諸外国で探すより難易度が高そう。
コンニャク芋の栽培してる地域は日本より外国の方が圧倒的に存在するくせになっ。
と言うか、何故有ると確信して考えてんだ、俺。
多分絶対、自分で創造するしか正解は無いぞ。
そして血迷うな、俺。
コンニャク創造した挙句、この世界の敵認定されて戦いの生涯突入とかアホ過ぎるぞ。
せめて師匠の結界の中の戻ってからハッチャケロ。
理性、理性を保つのだ。
そう、理性とは、目の前に肉ぶら下げられたワン公が直進した落とし穴に嵌る愚行を想像し、回り道をして肉に齧り付く本能の一形態。
目的を忘れろとは言わない。
権謀術を巡らせろ。理性によってずる賢く、己の本能を効率良く機能させるのだ。
……いや、ミラテルさん。
俺にとっての霜降り肉は、そういった重要な立ち位置のもんなので。
高級肉とか食い飽きてる人種とは、因果律の地平程も離れた別の次元の話なので。
ちょっとその、心底呆れた心象が伝わって来るのが……地味に厳しい精神なので。
ああっ、過去の現物の食事風景とか思い出さんでいいから。
と言うか、忘れろ。
どうせブロック塊をサイコロ肉と勘違いする感じのもんだろうし。
すき牛の薄さから来る感触とは真逆であるからに。
……ううむ、ここ連続で食い気の待ち惚けを受け続けてたミラテルの意外な反撃。
彼女がホームの立場の食材に、理論武装も忘れて欲求駄々漏れさせた俺の未熟が敗因か。
ちくしょう、今回ばかりはぐうの音の出ねえ。
ともあれ、今の優先度は依頼より食い気。
例の村が肉の園の中に在ると言うなら、是非行かねば。
そして肉を狩る。
合法的に。
なるだけ、穏便に。
……まぁ、手段はあくまで手段なんで拘らんが。




