47話
洞窟内は横穴を数m進んだ後は階段状に登りへ。最初は天然の通路っぽいのに直ぐに舗装された感のある人工物と化した。もう完全に偽装物件。
と同時に、いわゆる隠れ里に近い地下都市の雰囲気も出してきた。
予めの洪水対策なのか、とにかく急な登り階段が長く続く。
地下の亀裂を活用したらしい移動ルートはたっぷり、谷の半分近くを登ってようやく枝道と小部屋を増やして行く。
掘り出された段差が家具の役割をし、壁には所々に掘られた窪みは戸棚だったりランプ置きだったり。
実に見事な岩窟住居の様相。
その幾つかに油の切れた皿と焦げた先端付きの紙縒り紐。どうやら魔術に頼らない生活環境の場所って事と、呼吸に問題は無い安心感の情報を得られた。
因みに、洞窟に入る時点で俺は自分用の明りを用意済み。何時もの魔物避け機能つきのカンテラで。
今回、今朝からの道程では魔物の対応も取ろうと敢えて魔物避けを使わなかったのだが、流石に暗い場所での其れは馬鹿だし。
MAP内には遠巻きに魔物の反応は出ている。しかし直の視認はできん距離なので、残念ながら推定でも選別が無理な状況也。
……まぁ、多分。コウモリっぽいやつとは思うが。逃げてく移動速度が凄い速いし。
と言うか。
居住環境に普通に魔物が居る時点で廃墟決定だなぁ。
居住区画らしき一帯を探索してみて、残念ながらハズレのルート確定かな気分に。
いわゆる洞窟式の集団住居が、如何にも普通の生活を営む感じの其れだったせい。
前回確認した儀式魔術の要素を置くような環境とは思えない。
しかし廃墟の要素の部分は気になる。
それは、前回の寺院風の廃墟の部分と重なる要素だし。
ミラテル関連の問題が彼女が生まれてから用意されたのなら、各地の廃墟が利用された仮説も立つ。
それにしては前回の作られた舞台の仕掛けが大掛かり過ぎな気もするが、多分作ったのは実践系の魔術士って思うと……なんか当然って気分にもなる。
むしろ、あの地下施設を人力で掘り抜いたとか無理過ぎる展開とも思えるし。
確か土属性の魔術なら、自由に地中や岩に穴を通せるのか有った感じ?
その属性はまだ練習してないから、少し記憶が怪しい。
……まぁ、その想定が当ってたとしても、今のとこ状況は棄てられた地下都市なんだが。
地球で言えばカッパドキアの遺跡とかに近いのか、丁寧に掘られていても明らかに手彫りの仕上がりの内装。あちらは確か掘りやすい岩質と思ったが、此方は随分と硬めの岩質。労力で言ったら雲泥の差だろう。
そんな隠れ住むのにも苦労する場所にこの施設。ちょっと背景は気になる。
少なくとも面倒な追手は居そうな過去を感じると言うか?
……カルト宗教の巣窟とかだと嫌だなー。
例え痕跡しかない場所でも。
と言うか、異世界で迫害受ける信仰とかもう、確実に邪教の類じゃね?
俺と系統同類の魔王とかも結構居るようだし。異世界の常識を無無自覚に振り回せば確実に異質な評価を受けるだろうし。
だからこそな魔王な扱いだろうし。
あれ、もしかすると同郷人の痕跡発見な可能性も有り、か?
ちょっと興味が湧いて来たかも。
軽い探索でも、此処の環境が盗掘に漁られた感は余り無い。岩のベッド台の他とかに木や布製の物も少しは有るが、どれも自然の劣化で崩壊気味の物。
今回の岩製はどれも同素材で、しかも完全据え付けのやつ。何かしらのギミックが隠されてる様子も無い……と。
今のとこ、色んな意味で怪しい部分も無い。
安心が半分、残念が半分。
……何か、未知の魔道具が欲しいのが正直な気分。
……いやいや、違う。
本題はミラテルの魔術関係の情報だった。
と、そうだよ。
魔力のラインって判りやすい痕跡が有るじゃないか。
MAPにて確認すると、現在は右斜め後方を指している。今までの行程だと……枝分かれは有ったが虱潰しで確認したので隠し要素も無い。進む方向は緩く段差を上がる感じの登りのみの傾向。
発見としては魔力ラインの終端が見えた事。
残念な事実は、どうもこの場所は全く無関係だったらしい事。
だって俺のMAPの端で出た反応だ。何キロ先の話だって事で。
対してこの廃墟。谷の中を螺旋の掘った構造で縦に長いもんだし。どうやっても接点が無い。
……残念。
ミラテル成分、確認できず。
……となると、残るは未知の魔王の痕跡探しか?
……あ。
何か意識の外側で不満を思われた御方の反応が。
いやいや、未知の世界の探索なんて、本来ハズレが九割九分が普通なんだし。
むしろ、今までが都合良く行き過ぎた行程なんだからして。
と言うか、それが本来の冒険だ。行動の保証有りでしか動かんもんは欠片も冒険じゃない。
前世の仕事関連でも保証保証と五月蝿い自称投資家が山程居たが、あの業界は体の良いカジノ業界と変わらないのだからして。胴元以外は全員、得した気分で微妙な損に甘んじるのが正解なのだし。
投資は投棄と同意に思え。
個人の金を使って世界平和の夢を買えな精神が大事。
……出張費の項目にも自衛用の武器弾薬とか、結構必須な地域も有ったんよ。
解るか? 平和ボケした株主。
……と、おや?
そろそろ地上も近いかと感じた当りに嫌な痕跡が。
人は気配……と言うか反応は無かった。
生きた人間の反応はな。
食事中の方はスミマセン。
ゴアな腐臭の参加表明が来たよ。
換気が効いてる場所なのにこの臭気となると、この事態が起きたのは極最近。少なくとも数週間か其処らのもんか。
俺基準で臭いと言うより「嘔吐く」の感覚は、腐敗が進んで全体的にアミノ酸化した状況が想定できる。これで一応、状況が継続的じゃなくて単発的なもんだったな想像。
やたら間隔が開く継続型ならハズレだが。それならそれで、今臭う状況なら後からのトラブルは起き難いとも言える。
ついでに雑多な腐臭で無い……具体的に言うと消化済みの汚物が混ざる何かの巣穴的な場所っぽく無いのも良い情報。
もしかしたら単なる通り魔的な現場かもだし。
まあ、そもそも遭遇しないのが良いって話は置いといて。
歩調の静かに、自分の気配を消して進む。
臭気の強まりで現場に近づいてるが判り過ぎる程に判る。隠蔽や穏形している魔物対策にMAPの気合を入れてみる。効果が出るかは知らんが、とりあえず敵の反応は無し。
そしてとうとう、対面。
……うあぁ……
判りやすくとも実に嫌な……。
カルトとか考えるんじゃなかったよ。
其処は祭壇だった。
しかも何となく自分も知ってる感のある、サバト風味が満載の。
家畜に人間、あと魔物も。其れらをパーツに分割して組み合わせたキメラの彫像。それが崇拝の偶像的な対象なのかは知らんが、実に丁寧に縫い合わされた仕事っぷりから、気まぐれな行為とは思えない。
パーツ構成は随分と違うが、基本的にはバフォメット風の獣神似なのかね?
若い女の上半身なのは確か。首から上は子牛の頭部で、しかもその牛の眼窟には蟹の鋏腕付き。
素の女の両腕の脇の下には、多分男の腕がもう一対追加されてる。
下腹、骨盤辺りからは人間と同サイズらしきトカゲの下半身。しかも前後逆で尻尾が前にきてる。膝から下は、此方は正の方向で子牛の脛から下。
余った部分は無駄にしません敵に、四本の腕の手首から先には頭部が四つ。男、女、トカゲ、鳥。地味に全部のサイズに統一感が有るのが気持ち悪い。
ああ、鳥の成分は背中から翼が生えてるとこにも有り。
無秩序のような整合性の有るような、一応はこのままのデザインで魔物か魔神が居ますと言われれば納得する風のもんだった。
そんな本尊の前には供物がどっさりと。
普通の食材に混ざって、繋げるのに邪魔っぽかった他のパーツが有るのには少々……ほんの少し笑えるかもなとこも。
此処で笑ったら狂う前兆だし、気をつけよう。世間と隔絶して生きるなら別段困るとこじゃないが、他人と共有できる感性を必要とするなら引いとく一線だし。
状況をなるだけ冷静に見たお陰で一時の気分の荒れも落ち着いた。
まだ生々しい現場とは言え、時間的なもんが十分に経てばこれも遺跡の一部とも思える。問題は、この廃墟と連続性が有るかは怪しいとこだが、其処も冷静になると疑問になる。
この祭壇が此処の廃墟と無関係と考えるのも、また危険か。
此処が住居としての機能を終えたのは確かとしても、元々存在した理由で今も誰かが定期的に訪れての……この祭壇って可能性も有るし。
流石にこのオブジェを回収して鑑定する気は起きなかったので、供物の中から食材を選んで調べてみる。傷み具合から俺の想像に近い期間に作られた物と確認。
そしてこの附近には、自然に積もった土埃と血糊付きの足跡が有るのを発見。
どうやら此処から最短距離で外に出れるルートを得たらしい。
……もう出るか。
放置状況なら掘り出し物の可能性が有るかもだが、こうした人の出入りが有るからそれも怪しいし。
なんかもう、すっかり宝探しな探索の気分も消えたので、地上へと向かう事に決めた俺である。




