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45話

到着した村の名は[エルチゴの村]。

由来はこの村を興した初代山賊村長の名と言う事で。

人口57人。この地を中心に僅か十数km範囲の周囲を勝手に版図と称する自治社会。

勿論、同時に魔導国の版図内。しかし特に魔導国との利権的な約定は結んでも居ない。

開拓村ではなく、自然発生した場所と言う訳だ。

体裁としては……魔導国がその存在を黙認している感じ。代わりに外界と生じるあらゆる障害から庇護する義務も無い。

事前の情報での概要はこんなもの。魔導国周辺ではそういった非管理の集落が数多く点在している。

大半は周辺国からの難民集団が起源とか。其処に『過去は』か『現在進行形』で野盗活動と兼任する物も加わる。

エルチゴの村は、一応は過去は、に属する所。

自称の割合が大きいので信用するには覚悟が必須だったりなのが重要。

……なに、地球でもそんな地域は散々赴任したので今更感。

要は姿は人間でも野犬の群れに混ざったと思えは良い。最初に自分の立場を最強と示してやれば後は平和だ。


到着寸前で丸太一本を縦割四分割、簡易の材木にして、これまた簡易の轌(ソリ)に組む。形はアルファベットの[A]の形。材木三本をロープか蔓で結べば良いだけの、大物を狩って現地調達式の荷運び手段では定番のもの。

俺のは地球産のもんだが、山越えの一件でこっちにも同様の技術があるのは確認済み。

地面との接点をAの下の部分の二点に減らす事で摩擦軽減。重量物を載せても軽い労力で物が運べる車輪無しの荷車とも呼べる。

西部劇なんかじゃ馬を駆るインディアン側の移動でよく使われた演出で有名……かな。

むしろサスすら無い荷車より構造が簡単な分、壊れ難い。

実際、俺がくたばる寸前でも荒野の多い地域では現役だったし。


そういった示威行動のお陰で、初対面の村訪問でも難無く逗留は決定。

轌に積んだ荷が十分に威力を発揮したんだろう。総重量トン越えの迫力。そしてそれを轌使ってでも単身で引く俺。

はっきり言えば、化け物を見る視線だったり。

……でも冒険者なら普通だよな?

今回は参考にした先輩冒険者に習った形だし。しかもその先輩、一応は妙齢の女でもあったし。具体的に名を上げるとマリアン。例の山越えの際に狩りの技術を見取りさせて貰った大先輩。現状、あの射撃技能に至れる気配は微塵も無いが、ちゃんと記憶は記録のようにしたので「何時かきっと」の精神である。

良い手本、良い手本。

その狩人の行動の手本を忠実に再現したはずなのに……何故に?


……ああ、理解した。獲物の一頭、村人5~6人掛かりで運んでた。

そうかそうか、一般人規格だとあれが基準と。

今更だが、冒険者の身体能力は別規格で考えんとな訳か。

と言うか、魔術方面も含んで俺の生きる業界の先達って基本的に参考にしちゃいけない人外と思っておこう。今後も似たような齟齬が大量に出るだろうし。


ともかく、今日獲って来た演出の獲物は全て村人に解体を頼む事にして一部を御裾分けの段取りで。それで俺がお客様といったスタイルを取れる。

もし御裾分けで満足できないな行動を起こしたら、「今日の獲物分に等しい命の数が村から消えるよ」の例えでもある。

……まぁ、事実上、消えても誰も気にしない村が一つ、滅ぶよ。の宣言と同じ。


因みに、これ既に前世で経験済み。

地球にも普通に有る環境なんで。

自分の命と小さな集落全員の命、自分自身にとってどっちが重要かくらいは誰でも判る状況でしょう。

……こういう時は、別に女子供がどうのこうのって感性も働かない不思議。


獲物の毛皮は全て適正価格で譲渡。こういった環境では貴重な日用素材なので。骨材も同じに。人里にとってはいい道具用素材なので。

肉類の三割も買い取り。残りの半分は今夜の宴会用で使い、もう半分が俺の回収用となる。簡単な塩漬け保存処理もしてくれるので損という訳でも無し。

また買い取りは物々交換で、この村で作られた様々な物となる。村の維持に必要そうな保存食は程々にして、村の奥方たち渾身の力作っぽい日用小物を中心にした。毛織製品が多い。

地味に貴重品っぽかったのが[身代り人形]。正式な魔道具では無いが、それに近い機能を発揮する呪具とも呼べる物。獣毛をフェルト地にして5cm程度の人型に成型した物に装飾を加えただけなのだが、日本の女子高生には確実にアクセサリー認定されるクオリティ。

ふむ、掘り出し物だわ。

前に同じ系統の物をミラテルの装飾品で見てるが、基本的には同じ機能のものだろう。こちらは劣化版な評価となるが、それでも結構な大怪我を無効化してくれるっぽいと。


作成工程を聞いてみると発端はただのお守り。身内が何時事故に遭うかもな環境だし、純粋に心配の気持ちが魔術的効果を得たって感じだと。

魔術に関しては既に体系化したものに加えて、新たな技法がポっと湧いたりもする。それ故に全ての手法の把握は難しい業界なのだとか。

因みにこれ、そっと俺の意識越しに状況を覗いていたミラテル情報。

物が魔術に関する内容だった事で興味を反らせなかったらしい。

……ふむ、この意思疎通の魔道具、複数人の意識で管理しあうから機能の誤作動も出やすいってとこか?

……ふむふむ、一品物の多い事もあるし、使用に関しての安全基準も怪しいって思っといた方が無難か。



さて、宴会自体は問題無く準備が進んで行く。

日常は変わりばえの無い日々らしいが、自然に近しい生活は何かと突発的なイベントも起きやすいらしいから対応力も高い。

それでも、大物を仕留めての祝いの席とかはよく有るイベントだろうし。段取りに慣れすらある感じに進むようで。


肉の下拵えには特に変わったものも無し。

周辺から集まってきた石でBBQに近い感じの炉も組まれる。

大鍋を置く用の竃も組まれ、其処には驚きの蒸し蒸篭ががががっ!

どうやら保存用に乾燥させた野菜類を短時間で蒸し戻すための物らしい。

時間が有れば水に漬けて戻すんだそうだが、こんな状況では時短でこの処理と言う事で。


蒸し物の話で出た乾燥野菜。其処に興味が出たのでちょっと現物を。

すると有ったよ、乾燥モロコシ。

保存食として小麦粉代わりに使ったり、次の季節での種としたり。土地によって育てる面倒さが変わるが、色々な地域で育つ適応性の高さも併せ持つ。


今回は蒸し戻して煮物の具になる予定だったが、少し分けて貰って種と芯を分けておく。どうやら食用油の貯蓄は少ないようなので、[収納]にある物を活用して一品追加と行こうか。

まあ、勿体ぶる必要は無い。

単に素材を見つけたからポップコーンが食いたくなっただけとも言う。

例によって使い捨て上等の素焼き鍋を用意。ただし今回は蓋付きなのが重要な部分。

確実に弾けるので。


異邦人が何か変な事を始めると大概地元の子供が寄って来る。

作る物が物なので好都合な感じか。

鍋のサイズの比べて入れたモロコシの量の少なさに案の定、予想通りの反応を返す。

しかし油を塗して熱し始めて弾けると、これまた予想通りの驚きの反応にニヤリ。

更に、自分判断では少なめにと思ったが実は多かった中身のせいで蓋が持ち上がり、モッコモッコとポップコーンが飛び出し始めたら歓声が湧く。

それを二~三度繰り返したら傍の子供にバトンタッチ。手順は見てたろうし、親が許す量の分、遊んで食えな精神で。

勿論、自分の食う分は[収納]に突っ込んだ後で。


野の幸、山の幸な感じだろうか、モロコシの他にもドングリや栗の原種に近い物も有ったので、別の鍋にてカリカリに煎ってみたり。殻の割れたドングリには塩を振ったり原料色々の辛し粉を振ったりで完全な酒のアテと化す。

栗の方も一度煎って殻を剥き、軽く水気多めの水飴に絡めていくと野趣のあるスイーツに。

これで村の男衆と女衆共々に好印象の洗脳完了である。


後は単純に、夜の宴を楽しもう。

提供された謎の地酒は案外美味い。感じる風味としては一応穀類の系統っぽいやつで。素の糖分の多さから連想すると、多分、栗酒ってとこか?

当りだとしたら手間の要る隠れた銘酒ってとこか。


予想外な部分としては……、宴会の終わりがほぼ夜明けだったとことか、即興料理の登場にミラテルから御不満の心象が届きまくりなとことか。

……うん、ちょっと彼女の居る環境じゃ再現し辛い御預け確定な品揃えだったしなー。

帰還したら作るので我慢の精神で。

もう二日は帰らない予定なのでー。




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