44話
あけましておめでとうございます。
隠し通路となる縦穴は体感で三階分は続いていた。
特に高所恐怖症と言う訳では無いが、狭い穴なのが気分的に楽さを感じた不思議。
梯子を下る間、ずっと握力と足裏の一部で身体を支えるのは精神的に疲れるし。多少でも背中に何か当てて体重の分散が可能ってのは地味に大事だったり。
内部の状態には異常さが目立ってきた。
流石に梯子本体は金属製だが、相変わらず周囲の岩盤は継ぎ目すら無い一枚岩。
どんだけ巨大な岩をくり抜いたのかと言う代物。
そして到着した場所は……、まるで上の階へと転移したのかと疑うくらいにそっくりな内容の物だった。
ただし、台座に当るものには違和感ありまくりだが。
天井の穴を抜けて部屋の中心に降りたち、その正面。
壁際に上階の蓋となっていた台座と同じ作りの物があり、その上に安置されてる物を確認。
今回は魔石ではなく、物体。
より詳しく言うなら……死骸。
いや訂正。正確には即身仏な感じか。
しかも複数だよ。両隣りの壁際にも各一体ずつ。視線を背後にやれば正面のと向かい合うようにまた一体。
合計四体の即身仏が、壁を背にして座禅の姿勢で俺を注目するように配置されていた。
この世界ならゾンビ系の魔物登場とも思ったが、どうも返事もしないただの屍のようで。魔力に満ちてはいるが動きそうな気配は感じない。
それでもしばらく様子を見つつの待機をし、更に動き出したら即座に対応をと武器を片手に調査再開。
とりあえず、最初に視認した正面のやつからで。
空気は淀んでいないので何処かに換気システムは在るのだろうが、それで死骸の腐敗が進んだ様子は無し。適度に乾燥して縮んでるが、それをミイラと呼んで良いかは少し悩むところ。衣類や装飾品には時代の感じる劣化があるんだが……死骸の状態を診るに数年前に死んだ物と言った感じにしか見えない。
ふむ……、まぁ、魔力による腐敗防止って線だろうか?
正面のから始めて残る三体の確認も終えて判った事は、まず全員が冒険者だったらしい……と言う事。
初老、成人の男二名、若い女と年代での統一性は無いが、全員、冒険者としての証明証を所持していた。
全員、身に着けている衣類は複雑な文様付きのローブに統一されてるし、それは死んだ後に着せられた物と考えて良いだろう。しかし、それで証明証を残したって事を考えると、その部分はこの即身仏モドキを作った奴が敢えて残したと推測するのが正しいと思う。
まぁ、死骸からの情報は置いといても、この状況から考えると完全に儀式の様相だ。
全員が冒険者ってのは、単にこの舞台を作るのに丁度良い材料だった感じか。
特に戸籍も無さそうなこの世界でも、定住する存在が突然消えれば気にする隣人は居るだろうし。しかし冒険者なら、そんな展開でも余り気にされない。
何時死んでも可笑しくない人間の代名詞だもんなあ、冒険者。
とりあえず、冒険者証は内容の記録をメモって回収は止めておく。
これが偶然遭遇した遺体ってなら回収も有りだが、魔術のある世界での儀式の場となったら下手に環境を変えたく無いし。
しかも、実際に厄介な呪い紛いの魔術を行っていた現場なのだし。
もしミラテルのトバッチリで俺まで不老不死のショタ化とか誰徳な話だし。
状況分析には鑑定が便利だろうが、死骸を[収納]に回収しての行為は同様の理由で避けたい。だから代案として、接触状態での鑑定にて確認。「なんまんだぶ、なんまんだぶ」と念仏を唱えつつ触診の形で調査した結果、予想通り、これ等の死骸は生体構造を魔術回路の一部に利用された物と判る。
地球でも死骸を活用した魔術や信仰の形は存在する。いやむしろ、原始的な信仰には必須な物と言う部分すら有る。
俺が最初に連想したような即身仏は、その集大成的なもんでも有るし。
象徴的な意味は時代で結構変わるが、基本は死んだ存在を生きる者のために活用する形ってとこだろうか。
この四体の死の形が永遠に残る事で、誰かが生き続けるための下支え……もしくは生の状態への固定を即す呪いと化す感じに。
この場合、その対象はミラテルなんだろう。
地球ならただの妄想を形にした形だけのもんだろうが、この世界では魔力がそれを有効化もするようで。
鑑定で読めた部分に推測を混ぜると、巨岩という自然内でも単一属性の魔力に満ちやすい環境で、死と生の双極性を持たせた魔術回路を内包した死骸をその魔力に方向性を与える変換器にし、上階に安置してた魔石を通してミラテルに届けた。
魔石にミラテルへのパス回路の機能が付与してあった部分は俺の想像だが、魔石の回収と共にこの遺跡の機能が停止したなら……そう外れたもんでも無いだろう。
そうなると問題は……、この儀式魔術の現場をどうするかか。
魔力を送る魔石を無くした以上、此処の価値は既に無い。
と言うか、それでも魔力の性質を変換し続けるって部分に危険性しか感じない。
それでもなぁ……。稼動中の儀式魔術に何も防衛機能が無いってとこが信じられん。
俺みたいな奴が現れて状態を破壊する可能性とか……、今、現実に起きてるもんだし。
結局のところ、意思伝達の魔術道具越しにミラテルに通信。
そういった解析に秀でた人員の要請を頼む事にした。なんなら冒険者の誰かに依頼してもいい。貴族の特権で皆が稼げて幸せってネタを提供してくれの精神で。
大雑把な段取りを組んだ後はもう一度、この部屋の全員に念仏を贈って俺は帰路に着く。
……なんとなく線香が欲しくなった。
流石にこの場で創造して地下の室内で使う気は無いが。
まぁ、依頼を終えたら試作してみようか。
遺跡から出てみればまだ日は高い。
しかし、これから魔導国に戻るってのもちょっと……な微妙な時間。
なにより、二・三日は出かけると言って出た私塾に戻るのが気まづい。
と言うか、帰ったら確実に主夫業が待っている。
もうちょっと、久しぶりな孤独の時間を満喫したい気持ちがー……。
貰った地図によると附近に山村が幾つか在るようなので、とりあえず其処を目的地に。
[収納]の中には狩ったままの獲物も複数有るし、遠征狩りしてる冒険者でも装って宿を取るのもいいだろう。
ミラテルからも調査隊の手配が済んだ等、返事も来た。
仕事の初日にして有益な結果も出た事だし。今日はもう自由時間の精神で山野をキャッキャウフフの狩猟モードで良いと思うのだ。
……ほら、俺の中で反対を唱える理性とか別人格も居ないし。
…………うん、遠隔地から「ずるい」な意思が伝わったりするが、そこは無視で。
もうちょっと意思伝達が漏れないように注意しよう。
と言うか、あんまり盗聴じみた反応が来るようなら「今日の下着の色は?」的な疑問を延々考えよう。その内絶対、答え的な誰某の思考が届くと思うから。
自衛自衛。
まぁ、流石に魔道具の装着を外すのはトラブル防止で避けたいが故に、の妥協で。
……こら淑女。
あっさり答えを送って来ないように。
ハシタナイで御座いますよ。
王族レベルの貴族な上に、今でも立派に乙女でしょうに。




