40話
状況が動く予定の翌日。
肝心の眠り姫が起きるより先に、外部要因の襲来で俺の周囲が五月蝿くなった。
[C3]、武人気質と行動を全身で表現していた金髪女。知的行動に関してはポンコツそうで要注意な印象。
[C2]、探査能力は人並み以上に有りそうだが、終始[C3]にボコられてた印象しかない残念男子。
共に、俺が昨日撒いた追跡者たちで。
なんでも昨夜の内に師匠からミラテルの実家へと状況を伝えていて、その報にて朝も早からやって来た流れ……と。
貴族の朝は午前10時頃が日の出。
少なくとも師匠の生活態度ではそう。
その常識に照らすと、朝の6時頃に来たのは、随分と貴族らしくないこの二人の行動。
しかし昨日の夫婦ドツキ漫才を観賞していた俺からすると、あくまで静かに理性的でと装っている部分は確かに貴族っぽさも有ったりな。
何にしても、朝飯の仕度で独り早く起きてた俺にしてみれば、いい迷惑な訪問者でしか無い。
とりあえず、「女子爵の起床までお待ち下さい」の塩対応で充分って事で。
……電気ガスに電波時計の無い環境での生活って、長閑だよね。
時間に追われるって基準が無いから、4時間くらい「ちょっと待つ」で済むし。
因みに、塾生共の朝飯は8時頃には飢えた凶獣と同意なんで。
不思議と連中の暴食の臭気が師匠の健やかな目覚ましになってるんで最近は……やや早め?
……まぁ、予定時間の前後二時間は誤差範疇内。
何処かの国では真面目にそう言われた事ある。
その辺り、五分前行動が普通と言い張る日本人は世界的視点で狂人。
そんな感性持ちを自分の人物評価をする上役にしようって時点で、将来がまともじゃ無いのは確実。
面接ってのは、向こうが此方を品定めすると同時に此方も相手を品定めする場。
都合の良い自社宣伝に釣られて縋るだけじゃ、体よく利用される道具認定も当然なのだし。
何にしても、ギリで外面を整えてるポンコツコンビを待ち惚けでキレさせても面倒なんで、簡単な軽食セット込みで控室に放置。
俺の感性だと、形だけでも応接室で接待案件なんだがな。
でも教育機関な私塾と言う、国政絡みの役職持ちの貴族は上位下位の区別無く勝ち組対応のようで。
使者として来訪するような存在には、常に上位者的な対応が必須とか何とか。
そういう常識と仕込まれたので。
まぁ、そんな事より。
俺には戦場が待っている。
「ほらたーんとオアガリ!」と、全身で生肉抱えてワニ園に飛び込む覚悟が要りそうな飼育員の気分に似た其れで。
最近、本当に良く食うな。
うちの塾生、プラス詐称老婆。
成長期のガキ共には良質のタンパク質が良かろうと、最近はタマゴ料理を朝飯の中心にしている。
また都合良く、冒険者ギルド経由で市場に良いタマゴが入る時期だそうで。
市場に行く前に一定量、リーズナブルに回して貰えるよう個人依頼を通して定期的に入手している。
……最初の納品時に、実はそのタマゴが[ウザー]の地上爆撃弾と知ったのは小さな驚き。
そっかー……タマゴだったんだ。
変な誤解してたなー。
思い込みでも小さな友情を築けた気になってたりな妙な奴に、また小さな親近感。
うん。魔物だけど人間のため、主に俺のために美味いタマゴを産み続けてくれ。
それで地上にクレーターを作らずに。
……と言うか、どういう原理で食材にそんな効果が?
あ、いやいや。食材の解釈は二次的なとこか。
と言うか、あんな高空から投下されるタマゴをどうやって回収してんだ冒険者?
爆発するのに。
……謎の多い業界だよ、全く。
ともかく、一個がダチョウのタマゴサイズの其れは、うちに限ってなら使い勝手が非常に良い。生での味も濃厚だし。
此処で登場するミンサーも活躍し、ブロックミンチにした野菜を混ぜ込んでのオムレツは簡単でバランスのいい栄養素の万能食に化けるのだ。
肉用機器を野菜にと言った部分は……気にしない。
溶いたタマゴの大鍋に直接砕いてぶち込むのだから、多少汁が散っても困らない。
後は鍋のタネを全てオタマ分割にて焼ききるだけ。
毎回撹拌して中味の偏りも避けてるよ。隣の子のオムレツの方が大きいとか錯覚。
愚図る前に食え。
ああ、因みに黒糖入りで甘めなので。
子供仕様ってのも有るが、全員が将来の頭脳労働担当の予定なんで、脳が活性化しやすいようにの精神で。
汁物はブイヨンで下味を付けた物に追加加工でポタージュ化。
朝の軽い脱水症状を粘りのある水分で潤わそう。
洋風文化だな。スープが出たらパンは必須。
皿を綺麗に拭う用で。
食器洗いが楽になるので此方にしても当然の配置。
果物は全体に[浄化]をかましただけの丸ごとをボールに山盛り。
色んな種類を好きなもん選んで食えの体裁で。
……これで、一応は朝食の献立が完了である。
今日の師匠の目覚めは8時ちょい過ぎ。
婆さんでも女性の身支度付きなら、まぁ、何時もどおり10時には女傑モードになる筈。
実は一番糖分で覚醒するタイプだろうか。
食い始めは寝惚けてるが、徐々に匙の動きに残像が増えるし。
……あれ?
師匠の隣に見慣れぬ塾生が?
いや塾生と言うには幼すぎで。
いやいや、一瞬見間違えただけで正体は判る。
そうかそうか、もう目覚めたか。ミラテル嬢。
初めて見た彼女の瞳は碧眼。
中々に、絵に描いたような美の付く童女で。
俺の視線に気づいたか、目の前の料理から此方に視線を移す。
軽い会釈の後に食事に戻る。
……ふむ、特に、俺への関心が特別と言った反応では無い、と。
ならば昨日の行動の理由は……益々謎だなぁ。
まぁ、さて。
俺も朝飯を食っちまうか。
おさんどん兼任なんで、厨房で立ち食いになるが。
「お嬢様あぁぁぁぁっ」と、テンプレな従者プレイを披露した[C3]、もとい、[シーディス]と名乗った推定騎士。
エーデルワイス公爵家の陪臣騎士爵と、正解とは言えずも遠からずな立場と解る。
事実上は公爵家の私兵貴族な解釈で。
ついでに言えば、ミラテルが先々代から解放されてからは侍女ポジに収まっているそうで。
[C2]改め[トニアス]という男の方は、シーディスとの長期雇用状態の冒険者だそう。
職能は都市型スカウト、いわゆるシーフとして魔導国内の依頼で暮してるらしい。
俺の予想どおり、脳筋のシーディスのサポートとして活動中。
備考としはシーディスの幼馴染のようで。ガキの頃から公私共に良い様に使われる宿命持ち。
うん、昨日と今朝の様子で良く解った。
強く生きろ、特に応援はしないけど。
さて、肝心の二人の主なミラテルだが。
そろそろ気の触れたシーディスに抱き潰される感じだろうか。
彼女が朝飯の大噴出前に止めようか。
勿体ない勿体ない。
ようやっと覚醒中なミラテルとの対面になった訳だが、残念な事に対話は無理だった。
どうやら、先々代公爵様は幼子のかん高い声が嫌いだったらしい。
成長の他にも声を封じられてた彼女とは、直接話す事すら縁遠いと。
……なにが、曾孫への庇護欲なんだか。
ただの生き人形が欲しかっただけの老害じゃねーか、な人物評価。
間違ってないよな、俺。
幸い、時間と金をかけてテレパシー的な意志疎通を可能とした魔道具を開発し、今はシーディスが受信役となっての会話は可能。
残念な部分は、その機能が作成時点で特定個人を指定しなきゃな制限付き。
従って現状全ての対話はシーディス越しにと言う訳だ。
通訳付きの手間がある対話なんで要約しよう。
ミラテルが俺に関心を持った始まりは、冒険者ギルドでの救出の件。
基本、ボランティア活動だったのだが、個人行動で事故に遭いやすいのを自覚していた公爵家では、個人的な感謝として多少の礼金を払ってたのだとか。
しかし、俺に関してはその機会に恵まれない。
時期的に魔術士ギルドと兼用で動いてたからな。
両方のギルドで情報を共有しない質なのは……俺も実感してるので、長々と俺の情報を知る術が無かった訳だ。
それがやっと繋がったのは、あの冒険者ギルド総出撃での一件。
またも俺が救出手続きの当人になり、そして俺自身が魔術士ギルドへの情報も流した。
公爵家自体は魔術士ギルドにもパイプがあるので、そこで俺の情報が補完され……例の魔道具と謎の味覚テロの情報までを得る。
その時点で、どうも俺の扱いが変わったそうで。
「私でさえ気付くのだしね」な師匠の呟きはスルー。
通訳のシーディスが言葉に詰まりつつも言ったミラテルの言葉。
『この呪いごと、世界の理を壊す魔王の御業に縋りに来ました』
貴族らしい飾りに塗れた言い回しも無しに、率直に自分の願望を言うミラテル。
其処に貴族の傲慢の意志を確かに感じてはいたのだが……
……子供の姿の其れは、ちょっと反則な慟哭だろうと捉えてしまう、俺だった。




