39話
エーデルワイス公爵家。
今も血統としてはこの国の王族と肩を並べる由緒在る名家。
現当主は摂政として30数年の実績積みで活躍中。
正に中枢貴族だわな。
そしてミラテル・エーデルワイスは、その現当主の実妹として今年23歳を迎えた成人だった。
……さぁ、ここで違和感だ。
子供状態はこの際置いといて、女性状態の記憶を復帰させる。
せいぜい、14~15の印象だよなあ。
初の印象も追加するともう少し年代が上がる感じもあったが、今にして思うとその時とはまた外見の年齢が変わっていたとか?
さて、一般でのエーデルワイス公爵家は「とても偉い貴族様」で済む存在。
だが、多少でも国政に関わる貴族の間では、少々違った情報が追加される。
それは、「先々代が致命的に困った貴族」と言うもの。
公的な立場では有能だったらしい。しかし、人格としては……な感じで。
特に顕著だったのが曾孫となるミラテルに対して。
とにかく異常な庇護欲を披露し、しかもその庇護に等しい容姿をミラテルに強要した。
基本的には不老不死の系譜に当る魔術だったらしい。
詳しくは解明されていない。
先々代は、結局その魔術の真髄を秘めたまま寿命を終えた。
彼女の普段の姿は、俺が最後に見たような5歳児程度のもの。
ただ、本当の年齢通りの人生を重ねて内包する魔力を増やし二十歳となった頃に、外見を成長させれるようになる。
それは、自分の魔力量の高まりで魔術の効果に対抗できたからでは? な推測。
ただし、制限時間つきだ。
長時間成長したままでいると身体が自壊する兆候を生む。
制限時間は一週間程度。その間に一度、魔力の完全放出をする必要性が生まれた。
そうして、一定期間毎に子供と大人の姿を繰り返す人生になった訳だ。
巨塔にて魔力の要の役に就いたのも、魔力放出の都合に合致したため。
成長と若返りを繰り返し寿命が存在するかも怪しい現在、本来なら期間を設ける役目も無期限な扱いになったそうで。
成長とは言っても、その姿が良いとこ15歳ならその心配も有るか。
せめて年相応まで変化ってなら、人生百年未満の安心度も有るだろうが。
彼女の遭難……もとい、冒険活動の理由は魔術の解除手段を探す手段。
どうも魔術の形態は儀式系の疑いが有るらしく、魔導国近郊にその痕跡が残ってるらしい。
単身行動での無謀さは、移動手段が彼女自身の魔力を介する転移で現地に跳ぶため。どうも護衛役となる同伴者を設定する余裕が無いらしい。
つまり、少しでも生存性の高い大人の姿で居られる一週間内に、魔術解除の手がかりを探し続けて、結局のところ遭難劇も繰り返してたと言う訳だ。
魔力充填の間隔は二週間から一ヶ月。
この三年近く、大体一ヶ月おきにする探索活動でどれ程失敗を披露したかは師匠も把握してないが、いまだに続けているのは一度も成功していない証拠。
……正直、今までよく無事で済んでたなぁな感想で。
まぁ、現実的な想像を加えると、完全武装済みで尚、あの結果だったとも思えるが。
師匠側の情報を聞いた後は、ミラテルと俺の関係の話に。
と言ってもそう多くは無い。
魔術士ギルドで言った内容と同じだ。
流石にミラテルが魔物に食われた部分には驚いてたが。
数回の救出を通しての邂逅がこの追跡劇の理由になるかとの疑問は、俺と師匠共に判断に迷う部分。
一応はもう二人の追跡者の情報も出しといたが、「おそらくはミラテルの護衛役」な推測を貰っただけ。残念ながら貴族繋がりでの都合の良い情報は無しで。
師匠の「その辺り、ミラテル様が起きたらの事に……」の言葉には同意。
しかし「予定じゃ起きるのは明日だがな」と返したら無言の凝視で非難された。
しかたねーじゃん。
状況的に切羽詰ってたし。
既存の魔術を咄嗟に思い出して最適で使うとか、まだ無理無理。
発動させた直後に「あ、こっちの方が良かったのに」的な後悔は既に日常の一部也。
さて、まあ期待どおりじゃ無いが状況の進展は有った。
待ちの姿勢しか無いなら待つしかない。
なら今、俺ができる事をした方が建設的。
……と言うか。
雑用に時間取られて午前の予定が吹っ飛んだ。
大急ぎで昼飯の仕度をしないと飢えたガキ共の反乱が起きる。
どうやら……育ち盛り特有の「幾ら食っても食うための消費エネルギーで腹が減る」な状況を発動させてしまったようで。
視線を隣に移して、「育ち盛りなど一世紀は昔に置いてきた」な人物の食欲の謎の疑問は……とりあえず先送り。
実に頻繁に再考が必要って事態に直面はするが、先送り。
下拵えした料理が全て消えて足りないと嘆かれる五月蝿さ回避に、過剰に余剰を作る事で対応していた最近。
しかしそれで余る料理の数々は、どれも中途半端な量になり、逆に不良在庫として[収納]に残る破目に。
収納への許容量に限界は感じんし、そのまま放置でも良いのだが気分的には勿体無い精神ががが。
そしたら、何故か収納内で妙な変成が可能になってたり。
料理の種類に構わず余剰分が全融合。
いわゆる「闇鍋」状態に。
ある意味[恐腐の産物]だが、幸い、現物のごった煮化では無く、栄養素の融合体へと化けてくれた。
[固形ルー]、[ブイヨン]、[デミグラ系ソース]。そんな感じに。
なにより、収納内で錬金系魔術が発動できた事に驚き。
そしてその産物が忙しい時の手抜き料理に活躍するのも、大助かり。
そんな訳で、ブイヨンを水溶化プラス加熱して簡易のスープにする工程を収納内でしつつ、手元では大量のバゲットを輪切りにして具材を挟むだけのバゲットサンドに。
具材は薄切りオーク肉を蒸し加熱したロスビー風、もう作成手順を語るのも面倒臭い異世界定番のマヨを軽くピリっとなマスタード風味追加で盛る。
付け合わせは見た目ピクルス風にはしたが、実はただの酢絞めの浅漬けな丸ごとキュウリっぽいウリ科の何か。これは塾生達に錬金魔術の練習で本人達に作らせたので味の保証は無し。
ただし、自分で作ったという意識は最高の調味料と化すので全員文句無く食う魔法の食材でもある。
好きなだけ食えと言える程に在庫もあるから心配要らない。
教材の再利用。
若しくは成果と実用性が見える教育。
身近で味わえる学びは大事だよ、の精神。
……何とか、オカワリ前の準備は間に合った。
……続けて、束の間の休憩時も、収納内で本格的にデミグラシチューの煮込みしてはいるんだけどな。
流石にこの手の煮込みは、簡易でやると具材の角が抜けんで食感も悪い。
時間を要する料理には、それだけの理由がちゃんと有る証拠也。
「本当に便利だな、魔王種」とかな感想は要らん。
と言うか師匠、貴族の飽食したいなら高級食材と専門スタッフでも調達してこいや。
現状、此処の食事事情は作業的には難民キャンプの炊き出しとそう変わらんのだからして。




