32話
改めて、ミラテルなる人物を思い出してみよう。
……銀髪らしき黒ローブの女。
……以上。……待て。
えーっと、ほら。自分でも言った筈だ。「名は知らんが顔は知っている」と。
確か……そう。印象はジナに似ていた感じだ。南洋無国籍風味の容貌だが肌の質感は白人風という謎仕様。年代はまだ二十歳前、筋肉少なめの痩せ気味、しかし全体的にちょっと浮腫み気味でもあったから絶対処女……じゃなくて、成人したてって感じの年頃の少女だろう。
気絶状態でしか対面してないので瞳の色や声は知らない。何度も担いだお陰で身長と体重は推定で言えるが、これこそ言わない方が誰もが幸せ。
と言うか、俺の寿命が縮まる心配が無い。
魔術士らしいといった推察は彼女の外見的な装備にて。
黒ローブに彼女の身長の半分程の長さの杖。情報はその程度で、実は実際に彼女が魔術を使っていたとこは見ていない。
確か、最初は下半身にみっちりと蛭を貼り付かせて倒れる寸前だったし、二回目は誰かの仕掛けた吊り罠を踏み抜いたかで逆さ吊りになってた上に、下からタヌキかアライグマっぽい魔物に頭を齧られそうになっていた現場。
三回目は狒々猿っぽい魔物の集団に拘束されてお持ち帰られる途中で出くわし、横から拉致……もとい救出な感じだった。
……あれ?
既に致死危険度の上限ぶっちぎってね?
もしかして、頻繁に死にそうな目には合うが、間一髪で助かる体質の子だろうか?
周囲から何か汚物を見たような視線を向けられる不思議の中、俺はミラテルと仮定する少女の情報を纏めてみた。
一瞬、緊張感を醸す空気に染まりかけたが、なんか今回も終わってみれば平気そうな感じだろうか?
ともかく、指名依頼な感じで言われた以上は詳細を聞いてみた。
まず発見者は名も知らぬ冒険者三名。
なんでも、俺が彼女に遭遇した経緯のバリエーションな感じで発見。今回も魔物相手に危機一髪な。
相手は肉食植物系の魔物で、名称は[ルツボン]。外見を聞いた感じ、ウツボカズラに似た生態らしい。ただし、魔物だけあって自分で歩く上にアクティブに獲物を捕獲に行くが。
連中が彼女を見たのは、ちょうどルツボンが腕のようなツルを伸ばして捕獲中の現場。ツルは何本も有って連中自身も捕獲されそうな状況のため近寄れず、とうとう「トポン」と本体の中の溶解液に放り込まれた所で撤退してきたのだとか。
……手遅れじゃねーかっ。
と思いつつも訂正が入る。
なんでも、溶解液とは言いつつも獲物を即効で溶かすのでは無いそうで。
中で獲物が生きてる内は魔力を吸収。衰弱して死んだ後に身体を溶かして養分にするのだとか。
生存猶予の時間の平均は二日。不安定なプールの中で無理な姿勢で居続けるのだから体力の限界はそんなもの。当然、溶解液で呼吸の問題が出て窒息死のパターンもあるから、猶予は短くなるのが前提らしい。
俺が詳細を聞く内にも何組かの冒険者が出発しているようで。
なんか随分と、若い冒険者一人への対応としては逼迫してね?
理由を聞いたら情報は二つ。
ルツボンという魔物は極端に合理的だそうで、獲物を一体捕獲したら、その獲物の魔力を分析して似たような反応の方向へと移動するのだとか。
今回の場合はミラテルと言う人間の魔力からこの魔導国を目指して移動って事で。
因みに、発見時のルツボンの大きさは縦20m、横10m程との事。
……地味に怪獣災害レベルの代物だった。
そりゃ大勢が戦闘準備を始めてた訳だ。
もう一つの情報に関しては……何と反応していいのか。
なんでも、ミラテルの生家はこの魔導国の中枢貴族の一つなのだとか。
即効で生存確認、と言うか救出の方向性で成功しないと、国内情勢的に色々困った事になるらしい。
当然、その元凶になる冒険者ギルドの立場も……。
何かスゲー、生臭い。
血相を変えた反応にも納得しきり。
と言うか、そんな危険人物を単独行動させるなやっ、と突っ込みたい。
ともかく俺も救出部隊前提の魔物討伐隊の一人な感じで、その日の予定全潰れの行動になったのである。
さて現着。
魔導国から徒歩で二時間程の位置。ちょっと嫌な爆撃の記憶が蘇える地域に近い、草原と森林部の入り交じる辺りだった。
ふむ、ルツボンにしてみれば森林で移動制限されて進み辛いな地形効果か。
対して冒険者連中には広域魔物ヘイトが発生してる感じで、ルツボンへの戦闘に集中できないデメリットが出ている感じ。
流石に地元の冒険者だけあってか、対応負けしてる気配は無いが。
俺としては、この状況をMAP情報で確認した時点で魔物避けのカンテラを起動している。日中なので灯りの効果は欠片も無いが、そこは無視して。
ちょっと遠めの位置から俯瞰な感じでの確認中だが、両者決定打無しのこう着状態って現場だ。
ツルの捕獲可能な範囲が5m前後。数は八本なので単純にそれだけの対応人員が割かれる。斬り飛ばしても数分で再生っぽく補充されてて、キリが無い。
移動用の根っ子脚も似た感じ。斬っても再生で、直ぐに意味が無くなる。しかもこっちは一目じゃ数えられない程の本数だし。
確実に有効なのは遠隔攻撃なんだろうが、流石にあのサイズじゃ弓の類で必要なのも攻城兵器の規模が要る。個人の持つ弓じゃ完全に効果無しだわ。
となると、ファンタジーの主役たる魔術の出番なんだろう。
が、致命的に数が足りていない。
二人……か。しかし一人は武器に魔術を付加する感じで近接攻撃と大差無しだし。遠距離で活躍できてるのは実質一人だ。
図らずも、その実戦の様子がルキシス女史の攻撃系魔術の効果を思い出させるものだったり。
座標指定での魔術発生効果。その命中性と威力貫通性能とか。
どんな生き物でも、自分固有の魔力をオーラな感じで身に纏っている。
これが攻撃系魔術へのバリアのように作用するそうで。
攻撃の効果を与えるには、それを貫通させれる威力を生む必要があるのだとか。
方法は大きく二種類。
単純に相手の防御より大きい威力で圧し通す。
若しくは、相手の魔力の属性への上位属性を活用する。
火属性には水属性が上位属性で有利な感じで。
俺の感覚だと、バリアの内側に魔術を産めば防御されなくて楽な……裏技を想像するのだが、そこは無理らしい。
壁のように遮ってるんじゃなくて、全身に満ちて詰まってる感じと言う事で。
……ならなんで貫通という疑問も有るが、其処を問答してれる程に知識も無いし。
要は相手の防御を貫く感覚は絶えず必要って訳だ。
ただし、今回の実例を示してくれてる魔術士は其処までの威力が無いようで。
植物相手なんで火系統の攻撃は体表を軽く炭化はさせてるのだが、其処が皮膜のように剥がれるとやはり再生で損傷も治ってしまってたり。
ふむふむ、ツルや根っ子には効果が出ているのだから、胴体部だけは防御性能が高いって感じなのだろうか。
あ、因みにルツボンと重なるようにミラテルの生存反応が有るのはMAPにて確認済み。捕食されてからここまで半日程度の時間が経過してるらしいので、まだ一日は余裕が有るだろうな算段。
と言うか、攻撃の位置を調整せんと確実にヤバい状況なのは、誰か気付いているのだろうか?
ゲームじゃないんだから巻き添えダメージとか有るよな?
さて、俺もそろそろ参戦しよう。
周囲にリンクして来そうな魔物の確認もしての試し撃ち。
火系統が有効なのは解ったが、残念ながら俺が修錬してたのは風のみなんで。
火は誤爆した時の被害が怖いし。
あと、胴体の直狙いも止めとこう。やっぱり巻き添えも怖い。
ツルの根元に集中して切断のイメージ。真空でのカマイタチって「実は局所的な気圧差で破裂させての効果で切断じゃないよね?」な疑問は極力避けて。
水風船みたいな柔い対象のみに有効なもんだよね、な疑問も考えないようにして。
案の定と言うか。
チートの出力は貫通効果充分だった。
と言うか、雑念が頑張ったせいか切断にならんかった。
ツル自体がパンと弾けたその威力。
やっぱり魔術士としては新米未満の俺に、実戦で開花する主人公補正の成分が致命的に足りないようで。
下手に胴体部を的にしたら、中の彼女への巻き添え確実だこれ。
せめてもの救いは、破壊した部分の雑な壊れっぷりのお陰で再生の手間が出てる感じか。
とりあえず、それを根っ子に集中する事で移動は確実に遅くできた。
また魔物避けも機能してるらしく俺個人へのリンクは発生してない模様。
この微妙に有利なとこを活かして、何とか有効打な手段を考えんと……。




