31話
何処かの雑学で仕入れた知識だと思う。
人が集う場所が国と呼ばれる事を切っ掛けに命を増やし文化の多様性を生む、と言う事。加えて有りえない速度で、物理的に国土を広げて行く、と言う事。
ここで言う意味は、支配的な版図を広げる事じゃない。純粋に生活環境が、ただ人が集う事で拡大していく事を言っている。
意図しない埋め立て拡大とか、そんな感じに。
その原料は、生活廃材。意外なのは物が物体な印象より汚水の方が影響が大きい部分。
人の生活に水は必須なので川の近くに土地を選ぶ。その川が排水を経由して、下流域を自然に埋め立てて行くという寸法で。
この世界の産廃は俺の感覚で言えば自然に還元可能な天然資源の塊なのだが、それでも完全に国丸ごとが都市の魔導国では結構な問題になっていたらしい。
産廃回収業界すら生まれていて、随時近隣の農家地域等に送ってるのだとか。
そんな場所に、今まで捨てていた素材の有効な利用法が伝わったとしたらどうなるか?
……なんか、突然な感じで勿体ない精神のブームが生まれたようで……
元凶はあれだよな。
ミンサーの魔道具だ。
どうも屑肉を美味い食材に変えたのが、此処の住人へのカルチャーショックだったようで。
肉以上に膨大に出る産廃は野菜屑。栄養は有ってもそのままでは食えないって部位は結構有るし。
それをミンチにしての活用法は、俺が知識チートせんでも見事に誕生してたり。
最近はどの店でもポタージュ系のスープ、及び煮込み用の素材として出始めている。
大量の野菜屑からはそれに見合う旨味が出るしな。それだけで単純に美味いし。
……ようやっと、化学薬品的な珍品が駆逐される食の方向になったようで。一安心一安心。
今度はルビアルテの二の舞を踏まんように、俺の手間無く世間の味を俺基準に洗脳しよう。
因みに、発想の元凶な立場となった俺に、その関係での特許っぽい利益等は特に無い。
と言うか、特許の概念自体が無い。
強いて言うなら、自分にしか作れない物を独占して売る権利に納得する社会構造が特許的?
人に真似されて終わり程度の発想で金を稼ぐなな精神のようで。
ただし、現物の開発者な扱いになったギルドの偉いやつ……えーと、ああ、フラリシュ氏には逆に天文学的な価格って感じで報酬を貰っている。極端な話、もう何処かの田舎で自治領くらい興せるよ、な価格で。
当然、一括は無理で分割案件。魔術士ギルドの構成員同士の契約なので支払いが滞る心配は極小。
とりあえず、俺の老後の心配は無いようで。
まぁ、一応は俺の背景を考えた結果での優遇処置だろう。
なんせ、この魔道具の元ネタが拷問道具。しかも政変も関係する対象の所有物だったり。
変なイザコザの原因になった場合、俺より魔術士ギルドの上位者が矢面になった方が危険も少ないわけなのだし。
……ただなぁ、30年ローンで支払いはこの世界でも結構長い契約なんじゃね?
その間、俺の方でもギルドとのしがらみ抱える事でもあるし。
ちょっと首輪が付けられたかなーな気分もあるが、まだ魔術士ギルドに俺の方でも用は有る。
今は互いに利用しあいましょうの精神でも良いかと納得な感じで。
働かないで良いでゴザルの環境は正直嬉しい。
しかし、今のとこ基本的な生活は変えていない。
ちょっと活動の中心が魔術士ギルド寄りになった以外は、冒険者ギルドでも素材回収依頼は受けてるし。
ルビアルテ帰還の予定が完全に白紙化したのは……、うん。冒険者は根無し草の風来坊。予定は未定と同義なのだし、アキラメロの精神で。
ああ、向こうのギルド支部宛てに「ニンニク野草の採集と発送」の依頼とかは出してある。だって、こっちの市場には何故か出物が無いのだからして。
泡銭でも「札束で相手の頬をはたき弄る」程度の小金持ちにはなったし。
いや、この世界風に言うなら「金貨袋で相手の~」か?
いやいや、それ普通に鈍器で撲殺のパターンだ。砂を詰めた革袋は立派に[ブラックジャック]な武器のカテゴリ。ヤバい危険、子供は色んな意味でやっちゃいけない行為也。
魔術関連はそろそろルキシス女史の合格も出そうで、彼女の知己の私塾へと紹介もしてくれる算段に。場合によっては住み込みの可能性もあるとの事で、今の逗留場所から引越す準備も考えておけと言われている。
今は冒険者キルドの男子寮の一室を寝場所で使ってるだけなので、そこは特に問題無し。今回はあの場所で食事テロを披露もしてないので平和過ぎ。お陰でこっちの支部では碌に同業者の印象も無い。
ああ、でも。
やっぱり魔術士関係での知人は……、いや知人らしき人物は居たか。
例によって、顔は知ってるけど名前は知らんな感じで。
確か初対面は採集依頼を受けての郊外での現場にて。
その時は異世界薬草の定番、マンドラゴラを探している時だった。
いやほら、実は地球にもマンドラゴラは有るが、あれは完全に野菜の名前。実際に叫ぶかもなファンタジーを経験したい病に負けての趣味的なやつ。
そのくらいの遊び心だったので、彼女と遭遇した時には即効でその日の予定が護衛に切り変わった。
……なんせ、彼女が魔物に半分食われかけてた現場だったし。
現場は密林な森の中。マンドラゴラが周辺の栄養と魔素を根こそぎ吸収して育つと言う事で、採集場所は森の中にポッカリ空白地帯と化した荒地となるので発見は容易い。
問題は採集時の即死避けだけなので、悲鳴で死なない冒険者には簡単なお仕事。
ただ、密林の範囲には其れなりに棲息している魔物も居る訳で。
彼女は全身の半分近くに大量の蛭の魔物をぶら下げて遭難中だったり。
貧血確実、何故気付かんな感じでフラフラ歩いてたんで即効で救助。正直、その時ですら自分が死にかけてたか自覚してない雰囲気だったり。
回復の魔術でも過度の貧血は補えないらしく、結局はそのまま冒険者ギルドへの強制帰還だった。
女を肩に担いでの状況で一悶着も二悶着もあったが、其処は男の小さい意地で語らない。
……で、以降。
採集現場で遭遇しては似たような救助劇を何度か繰り返してんだよな。
そして、大概は意識不明のままギルドに対応をバトンタッチしてるんで名前も知らない。
こういった同業者の救助行為はあくまでボランティアなので、特に後からの連絡情報も無し。
ついでに言えば俺の活動が魔術士ギルド寄りになってく従って接触の頻度も減る訳で、今思いだすまで綺麗に記憶から消えてもいたり。
いや……地雷確実の女にまで飢えてないですし。
いつも地味なフード付きローブなんで、正直ゼロから顔を思い出すのも苦労だし。
ああ、でも髪の色が銀髪なのは覚えてるか。暗めの森だと其処が目立つし。
……実は年寄り?
いや、担いだ感触は其れなりにボリュームが有ったし。
加齢臭も無かったよな。むしろフェロモン過多に醸してるのを感じれたし。
……今度の救助ではもう少し注意して見ておくか。
…………その機会も早速有るようだし?
「ショウガさんっ、緊急の依頼です! 貴方も知っている冒険者ミラテルの救助要請が出ています!」な感じで、冒険者ギルドに着くなり受付担当に言われたし。
俺より先にギルドへ待機してた連中の何人かは、随分と慌ただしい空気を纏って出掛ける準備をしてたり。
どうも、結構シリアスな状況らしい。
ただ、それでも俺は優先しなきゃならん事があったり。
状況に流されてばかりじゃ、自分に大事な事を取りこぼすしな。
だから「ミラテルとは誰?」と素直に聞いた。
俺も知ってるとか決めつけられてたが、正直、そんな名の人物に心当たりは欠片も無いのだし。
担当さんの緊迫感に満ちた表情から感情が消えた。
周囲の騒動も一瞬止まり、それらの騒音すら消えた。
いや、空気は読んでたからミラテルが誰な予想は出来てるよ。
でもなぁ、此処で聞かんと一生彼女の名を知らんままで終わる気もしたんで。
あえて空気を読まない気持ちで聞きました。
すげー後悔する状況は生んだがな。




