30話
ようやっとミンサー完成。
……と言いたいが、実のとこは実動試作1号機だそうで。
魔力での駆動部の稼動が俺の希望通りかを実験するのだと、反論許さぬ面相にて申された。
それ、ただの宣言でござるよ。
……まぁ、試す自体に異論は無いが。
俺も軽く検分し、前世の記憶の中の実物と同様に改良されているのかを確認。
特に排出口の仕様が希望通りかには注意する。
何せ、ただ挽肉を作るだけなら包丁一本有ればいい。二本なら寄り楽になる。ハンバーグまでなら、その段階でも許容範囲なのだから。
山越えする前なら、それで満足だった。
しかしなぁ、俺は山を越えてしまった。
しかも、山で運命の出会いもしてしまった。
[収納]にはその成果も入っている。
じゃあ、活用したいって欲求には正直でいた方が良い。
今此処で肉の素材を収納から出すのは無い選択。
ついでに、偽装で所持している雑納から都合良く食べ頃の生肉が出るとかも無い選択。
オーク肉ならその範疇じゃ無いが、合挽き前提ですんで。
もう一つ言うなら、オークじゃない豚肉を使いたいんで。
と言う訳で、使用する肉の調達をしてくると一度魔術士ギルドから出て、適当な場所で手元に肉を用意してから戻る。
何か非常に嫌な予感もあるので、予め目処を付けてた鍛冶屋で銅製のスキレットも用意した。
……うん、多分、挽肉から先の工程も披露せんとだろうし。
ああ、生卵もあるよ。滅菌済みのがちゃんと。
試動自体は成功。大雑把なブロックに切り分けた肉を投入すると、自動で反応し作動。ウネウネと繋ぎの少ない麺のように排出口の形状に合わせた形で完成した。
そして案の定、こうした肉をどう食するかの質問となり、用意した他素材と合わせたタネ肉作りとなった。
ギルド無いにも簡易キッチンは有り、そこで調理開始。
しかも薪の竃じゃなくて、生活系魔術の[加熱]を魔道具化した安定の火力を維持可能な魔道焜炉とも呼べる代物。
何か久し振りに前世の調理感覚を味わえた気もした。
今回はできる限り[万色の調味能]を肉には使わない方針で。
最初くらい、この世界の加工肉での素の味も知りたい精神なので。
……胡椒擬きや偽照り焼きソースの件は棚に上げた気分の上で。
最初は充分過ぎる程に加熱して、あえてボソボソ感を楽しむ。
次にレア気味にて肉の甘味が活きる感じに。
美味い美味くない以前に、物凄く懐かしい気分が大きい味に感じた次第。
……こりゃ、独りで食ってたら郷愁泣き入りましたなパターンだったかも。
その後は、俺の試食から待たされていたギルド関係者への御相伴の宴と化す。
あれぇ……。
最初は作成者のフラリシュ氏と、その監視役なロマリア女史だけだった筈なのに。
何時の間にか見慣れた女性職員一同に加えて、普段は会話すら無い男性職員まで居るような。
いや、想定内だ。
確か前にもこんな状況は有ったし。
具体的には冒険者ギルド。
偽装して持ち込んだ肉の量じゃ足りないのは確実で、結局は収納から誤魔化しつつ追加したのには誰も気づいてない様子。
それで良いならと、もう一つのテストもしてみよう。
如何にもこの日のために調達しました的な、洗浄済みの腸皮膜~。
それをミンサーの排出口わ被せて長さの分だけ折り込んで行く。後は、端を閉じた状態で中に肉を詰めるだけ。腸詰め肉、ウィンナー、ソーセージ、どっち呼びでも良いがそんな感じの加工品。挽肉作ったら当然こっちも作るよねなやつである。
今回の素材提供はロックボア。内蔵肉だけは獲りたてでないと使う気がしないので、ルビアルテに居た時点では諦めてたやつとなる。
でも、山で獲るチャンスが有ったからねぇ。解体時に捨てる雰囲気だったので、どうせならと内緒で収納しといたのであったり。
ああ、他にも袋へと加工可能な内臓肉は全てある。胃袋や膀胱のソーセージとか実にレアだよ。前世でも滅多に食わなかったし。
素人なので、出てくる肉の圧で皮膜が破れない程度に抑えるのでやっとの動き。一応は一定間隔で「くるん」と捻じる小技付き。こんなとこにチートの身体能力が活躍したのに自分でも呆れる。
何本かの内には野生のニンニクも適当に混ぜ込んだので、個人的には香りを楽しむ一品出来た。本当ならこの状態で蒸しときたいのだが、流石に道具も無しで無理そうだし……あ、いや、生活系魔術の過熱で代用も可か。気分的には破裂しない程度での電子レンジ効果をな感じで。
此れも試食に使用するのは避けられず。味はハンバーグと同じなので、火を通し表面のパリパリ感を出す程度で提供。
これこそ、味よりも噛み千切る食感優先の代物であるし。
……自分で加工しといて何だが、これも調理と言うよりは一つの命から欠片も無駄を出さずに保存食とするための技術。本来なら血や軟骨、脳や肺すらも活用する。
農村部なら普通に有りそうな感じなんだがなあ。
試食に対する反応からして、あまり身近に感じている気がしないのに妙な違和感を感じたり。
……うーん、剣と魔法の世界では通じない常識なのかねぇ?
……ん?
視界の端で「カコーン」な異音。
其方を見てみたら……、何普通に乾杯とかやってんだ。
業務時間っ、仕事中だろ、おい。
英国の証券業界じゃ昼のランチに軽く一杯も普通だったりだが、此処もそういった空気の業界か?
……いや、実は勤務中に禁酒ってのは案外少数派か。
俺、仕事のオンオフ切り替えるタイプだったからなー。
酒に関してだと都心部リーマン系で慣れちゃってたんだよなー。
酔わなきゃ呑んでないとイコールの感性は無理だったんだわー。
……まぁ、周囲の皆さん、完全にもう仕事になりません的な顔色になってるがな。
え? 「もう肴が無い?」
何か追加要求来たし。
えーと……。
………………。
………………焼くか。
うん、俺、気付いてたし。
魔術士が知的な職業に従事してるってイメージは、俺の居た世界限定のフィクションだったんだ。
なんつーか、どいつもこいつも、実態は職人気質の強い町工場の作業員だもんな。しかも田舎の。
何か食い物か酒のイベントが起きようもんなら即効で宴会が優先になるんだ。
むしろ、毎日がそうなるよう内心で念じつつ仕事をしてる感じな?
祈祷と言うか呪いと言うか。
その部分だけ抽出すると微妙に魔術士っぽいとこが業が深そう。
あ、はいはい。焼きます焼きます。
あー、そこの作成者さん。ほれ、肉出しとくからタネ肉の補充よろしく。
アンタ作成者だけあって俺の次に操作の手順知ってんだから、当然の労働だよ。
ついでだから、この試作機の運用耐久のテストのつもりでやりな。いや、やれ。
うむ、人手をゲット。
流石に全部を俺独りでとか無理だし。
……いや待て。
いいのか?
この展開に疑問は無いのか、俺?
これ、もしかしてチートが精神に機能してるってパターン?
これが世間様の常識とか上書きされてるパターン?
……うはぁ……、マジか?




