29話
魔導国、食の探訪。
初日のような無謀な冒険はもうしてない。
ある程度知人も増えたし、その内の真っ当な味覚を持っている連中からの情報を元に店選びを心がけている。
そうして決めた自分ルールは大別して三種。
[がっつり][汁物][赤提灯]。
[がっつり]は肉や魚だけで満足できる量を出す店。
客層は兵士や鍛冶職人などの肉体労働系が多い。
意外と日中しか開いていないので、これでもランチ系らしい。
[汁物]は様々な食材での煮物の他に、パスタ等の麺物も含んでいる。極少数ながらリゾット系も。
冷製パスタも無いではないが、基本は暖まる傾向が中心で。
客層の区別も無い、この国のメインの食層を張る感じ。
母数が多いので結果的に俺の食事の中心にもなっている。
[赤提灯]は……飲み屋だな。
この国には、案外飲み屋の固定店が少ない。代わりにか屋台や露店での飲み屋が多い。
その雰囲気が俺の中では、赤提灯と称するが故の由来也。
酒の種類は果実酒が中心。一応はワインの括りでの大雑把さ。季節の果物を区別無く利用してるので、逆に葡萄が少数派なのは面白い。
どの料理も食い慣れれば其れなりに美味いと言えるのだが、やはり全体的に味が薄めに感じられるのが難点。致命的に塩っ気が少ないか、逆に過剰で辛いなくらいに多いか。
調理じゃなくて、料理止まりなんだよね。素材の味を活かして食いやすくしてます的な。偶に遭遇する珍品は「どうしてそういう味にした?」としか言えない。作成者の思考を計る研究機関が必要。
結局のところ、その微調整で[万色の調味能]の活躍は終わらない。
まぁ、煮物に溶け込んだ謎風味を整える程度にだが。
魔術に関してはいまだに魔術士ギルドでの基礎鍛錬中。
ただ、生活系魔術に関しては独学での並行で色々と模索中。
以前から使っている[乾燥]系統で頑張った経験を活かし、[フリーズドライ]等を自作してみた。これで乾燥させた野菜の保存性は従来品と比較するのもオコガマシイ美品っぷり。前世のプロ業界の品質には遠く及ばない感も同時に有るが、この世界では保存食のカテゴリーには収まらない食材に化けたりしたり。
まぁ、知識チートの成功例だ。社会的には小さい小さい影響だけど。
この感性のバリエーション。[発酵]効果の思考錯誤が形になった。
いや地味に苦労した。
発酵と一言では言ったものの、それは特殊な腐敗をひっくるめて言い変えたもので、其々の対象を変化させる細菌やバクテリアも様々。流石に全部を一つの魔術で同じような発酵食品にするのは無理があった。
そこで発想の転換。
用は素材に臨む変化の結果な概念なら、一つの魔術で片が付く訳である。その概念で考え直したら魔術としての形は[変成]になった。
なんと、見事に錬金系を連想する魔術。
これ生活系で組んでて良いのか?
……まぁ、今のとこ活用すんのが食品ばかりなんだが。
その第一弾が麦芽糖の擬き作成。水飴になる程度の糖分の形にはなったので、糖度は[万色の調味能]で調整し、果汁で色と風味の変化も出して、フルーツドロップ風の飴玉が完成。
評価の方は、魔術士ギルドの女性陣には好評のようで。
山越えの際にゲットしたメープルシロップ風の在庫が厳しいので模索したが、最初から良い結果が出て良かった良かった。
また水飴状態を活用してみてペロキャンを試作。捻じり螺旋の棒キャンディ、それを巻いての渦巻キャンディ等など、形を変えるだけのは簡単に出来た。
此方は妙齢の女性陣に出すと何か背徳的なので、子供を餌付けしたい時用に保存しとこう。
……ああ、外見だけならルキシス女史には合うかも?
いやいや、自重自重。
此方の世界は14~15で成人のようだし、外見だけでもそういう少女が棒キャンをペロレロは絵的にヤバい。
結婚済みだとしたら似たような経験も済んでるかもだし。
それを公然の場で連想させたりなんかしたら、色んな尊厳が危機を迎える。
俺と世間で注目のポイントがズレてる筈だが、危機なのは確かな不思議。
本当、不思議不思議。
あ、ルキシス女史と言えば。
ミンサーの魔道具に多少の進展があったようで。
外形はサンプルを基本に俺の注文を追加する感じで試作も済んだ。後は魔道具として機能の追加のみと言われた。
……完全手動でも特に困らん器具なんだが……、多分、それを言ったら駄目な話そうなので言ってはいない。
そして魔道具と言えばだ。もう一つ、探すか作るかを考えなきゃならんやつが有ったのを思い出した。
[収納]から取り出した虹色の光沢を放つ円盤。
俺がDVDと勝手に思っている魔物からのドロップ品だ。
魔道具に対応する物があるとこから探さないとだから、面倒そうな気がしている。
……何かこれ、魔術士ギルドを経由したらヤバい気もしてるし。根拠は無いんだが。
せめい情報媒体か映像媒体かくらい区別がついたら、探す方向も狭まるんだが。
[鑑定]――[魔素収束型疑似塩基式:orthus_tyre-F_class-C]
……あれ?
……は……、初めて鑑定さんが仕事をした?
いや違う。
この鑑定の内容は完全にこっちの世界のじゃない感じか。
日本語表記の解る部分だと、塩基式。
DNA、ゲノム、多分其れらを意味しているとして……特定の魔物を作るための設計図ってとこか?
そうなると、その後に続く英単語の羅列は魔物の種類を指してるで良いよな。
orthus……、オルトス。
何かの雑学で聞いたような記憶は有る。続く「タイプF」や「クラスC」は機能か様式の区別な想像はつくがそれまでなので、今は置いとく。
ううむ、追加情報が欲しいな。
もう一枚の円盤も見てみるか。
[鑑定]――[魔素収束型疑似塩基式:troll_tyre-R_class-D]
ふむ、最初は魔物名で良いらしい。
ならそっちは冒険者ギルドの図鑑で調べてみよう。
後、重要な事も分かった。
これは確実に情報媒体。探す魔道具はPCに順じた系統のになる。
もし内容が編集可能なデータだとしたら、魔物の構成情報が解析できるって可能性もあるな。
と言うか、俺が魔道具作成のノウハウを修めてPCを再現する方向の方がいい感じ?
下手したら自分好みの魔物を創造できる技法の突端だし、これ。
……あー、本気でこれ、魔術士ギルドに出したら駄目なやつだと確信したわ。
暫くは封印。
俺と複数体が遭遇した経緯とかも気になるが、完全に管理できるようになるまで封印が賢明。
少なくとも、俺が知る魔術士ギルドの人間なら碌な結果には至らないし。
……さて、じゃあ先ずは何から手を付けるか。
情報変換が光学データと仮定して、読み取り用のLEDや感光素子からか?
……うはぁ……、先が非常に流そう。




