28話
魔導国に来てサックリと一週間が経った。
初日のトラブル以降は特に問題も無しの通常運転と言える。
生活は冒険者ギルドに依存しての日銭稼ぎ。続ける理由は、一応は依頼した形の魔道具完成待ちな感じで。
受ける仕事が錬金素材の採集中心なせいか、定期的に魔術士ギルドへも顔を出す。当初に起きた不穏の空気ももう霧散した感じか。むしろ、最初から強者の雰囲気を演出したせいか、俺の印象はベテラン冒険者な扱いな気も。
肝心の冒険者ランクはまだ低いんだけども。
意識的に特殊な立場と取られたせいか、メインの対応はロマリア女史かその直下の関係者に限られているようで。
そのせいか会話相手の女性率が多いのは単純に嬉しい。丁寧な対外事務対応でも花が有る方が気持ちはいいし。
魔術士ギルドへの登録も済ませた。
いわゆる、攻撃魔術の使い手は非常に希少で大概は魔道具職人な扱いなのだとか。
もう一つ、生活に便利な魔術の開発もあるそうだが、こちらは既にネタが出尽くした感もあっての少数派。
明確な区別では無いが、現在の魔術士ギルドは魔術の研鑽をする学術系ではなく、魔術の活用手段を模索する職人系ギルドの気質に傾いてるのだそう。
例の、外務課のような対人折衝が必要な部署も存在するが、基本的には「自分の好きな事したい」の欲求が強いダメ人間の集まりなのだと……今は理解している俺であったり。
現在の俺の心境での魔術士ギルド感は、現実の生活よりも夢の実現に盲進する駄目男共を、同類ながらも多少は現実が視える女達が支え役で頑張っている組織な感じ。
規模は違うが、非常に昭和臭が醸されるフォークソングのBGM付きな夫婦物語と言うか……。
……するってーと。
俺は生活苦に疲れた人妻に潤いを提供の清涼剤的な間男ポジ?
いや、そんなモテ期到来な雰囲気は皆無なんだが。
確かに、女性担当が固定化して以降は[万色の調味能]謹製の甘味を差し入れ提供してたりもするが。
……うーん、単純に、餌付け?
さて、登録はしたものの、この世界の魔法に関しては素人な俺。
仕事以外の暇な時間を今後の糧にな感じで、その常識で染める事に費やしている。
しかしまぁ、火を灯すや水を出すだけでも、自分の中の常識と違う感じなんで少し苦労気味だ。
一度体感の法則が決まった内容は改変が難しい事難しい事。
魔術関連の知識と常識には学校機関があるそうだ。勿論、未成年推奨。成人でも行く事は可能だそうだが、若い年代に合わせたカリキュラム的に、余り成果には結ばないとか何とか。
と言う訳で、俺のようなのは私塾等の小規模個人教育、もしくは完全な師弟関係が有効らしい。だが此方も俺が即入門とは行かないようで。
少なくとも魔術士としての素養を発揮できないと、紹介以前の話。
そしてその素養の判断が、この世界なりの常識で魔術士ギルドに決められる。
そんな初歩未満の段階で、俺は四苦八苦の最中であったり……。
大体は、魔術士用の修錬区画の一角を借りての自己鍛錬だな。
基本はジナに習った事の延長なんだが、甘味の買収が効いたのか時折ギルドの女性職員の監修が入って徐々にだが修正は出来ているらしい。
因みに、買収以外でも性別が偏っている理由はある。
なんでも魔術、特に攻撃系統に関してだと実用性のある威力を出せるのは圧倒的に女になるのだとか。理由は色々とそれっぽい物が語られるが、どれも確証は無いそうだ。
現在、攻撃系の監修はギルド唯一の実戦担当となる[ルキシス]から。生活系魔術は[エマ]と[ナンニバル]に担当してもらっている。
あ、一応、ナンニバルだけは男性で。直の実務からは離れた御意見番兼、御隠居さん。老人なのは一目で判るが、テカる頭部から下は眉毛からして増毛し放題なので正確な年齢は解らない。ついでに、表情も鼻以外は毛に隠れててよく判らない。「ほっほっほっ」と笑うのが癖で仙人系のイメージってとこは判りやすいのに。
エマは良くも悪くも女らしい女な感じ。隣に幼児を置いたら優しい若奥さんと絶対勘違いする印象。まだ二十歳前らしいので口にしたら怒られそうだが。
対してルキシスは、年齢的には女性と称するのが正しいそうだが外見は少女としか言えない。一応は異世界亜人代表、エルフの血が入っているためらしい。特に耳が長いという訳じゃ無いのだが。
ハーフより血が薄い場合は、ほぼ人間と外見は変わらないのだと。寿命も人間準拠。ただ老化の度合いは違う。若い外見のまま老衰とかが普通らしい。
世の一般女性全般からはディスられそうな感じで。
……勿論、直球で歳を聞く愚策は避けている。むしろ「若い」「綺麗」と、くどくならん程度に暗に仄めかす言動は欠かさない。これ重要。己の身を守る的に。
教師という面で言うとルキシス、ナンニバル、エマの順で信頼度が下がる感じ。
ルキシスの場合は攻撃魔術の危険度を知っているためか、魔力の強弱や操作への支持が非常に細かい。安全性を取る姿勢のようで習うのに集中できるのも助かる感じ。
ナンニバルは俺の個性を尊重と言うか放任と言うか、一通り実践してみて「此処をじゃな……」な感じの微調整に終始する。俺がある程度魔術の基礎と応用を知ってからなら効率的なと思えるんだろうが、それ以前だしね。ちょっと戸惑う感じが強い。
エマは……、おっとりな外見に反して意外に強引と言うか。例の手と手を合わせての魔力循環の手法で御手本を実践してくれるのだが、その時は無理矢理にでも俺の体内感覚を乗っ取るんだな。その後に自分也の調整を頑張らないとな感じで、結構苦労する。
ある程度三人への対応に慣れた頃に、私塾で習う手法は大別してこの方法と聞いた。
俺の好むタイプで斡旋先を選定するらしい。
一応、意味のある行為と判ったが、先に言って欲しかった気もする。
さて、魔術に関する意識改革で最大の部分。
それは、俺の感覚の基本となるゲームでの射撃のイメージは捨てろ、と言う事。
どの魔術も、基本は効果を発生させる場所に「産む」という感覚。
手元で作って目標まで飛ばすな工程は無駄でしか無いと言う事。
生活系魔術は自分の周囲を対象に効果を産んで、攻撃系魔術は相手を対象として効果の中心にする感じと。
……[火炎弾]の極小サイズを実演したら、逆に「なんでそんな風に使える?」と聞かれる始末でした。
攻撃系での命中精度は完全にイメージが優先。座標とかな概念は無し。イメージでの大多数は、視界内の注目になるか。視力が良いイコール命中しやすいな感じ。
人によっては聞き耳でって場合も有るそうだが、極少数派。
俺の感覚だと、これが空間認識による座標測定とも思えるか。
その感覚に慣れるのとは別に、ちょっとズルをしてみる。
MAP上に標的と認識して魔術の発生点に設定できるかを試してみて……、出来ちゃったよ。
MAPの操作自体が自分の意識でのもの。視界の代用には充分だった。ある意味俯瞰視点とも言えるし。
予め有る反応への意識で良いならと、この手の有りがちなやつも試してみる。複数の反応に照準をロックオン。……おお、できた。
発射……は自重して、その手前で解除。流石にギルド内でやったら騒動になりそうで。
今度、冒険者ギルドでの依頼時にやってみよう。
ルキシスから習うのでの不満は、風属性に限ったものと言う事。
どうにも、ルキシスの師事した流派ではその属性のみ免許皆伝を得てるからだそうで。
風以外は未熟なので、他人への師事は止められているのだと。
そんな訳で、俺が人から学ぶ全く新しい魔術としては、対象の口内に圧縮された空気塊を発生させ、頭部を破壊するという少し見た目が凶悪な物のみとなったのである。
……え?
違う?
「口内に空気を詰めて窒息させる気絶の魔術」と?
……え、あれ?




