27話
魔術士ギルドの四階、応接室と会議室の中間のような一室。
四人が対面に座って、向かい合えるような大きな長テーブルが有るんで印象は会議室寄り。
幸い、会わされた相手とはそのテーブルの一角を使ってなので、長い端と端で互いの顔も確認し辛いな面倒は無い。
ただ、その状況までに少し問題は有ったが。
まず最初の「帰さないよ」な威圧の肉壁をチートの怪力で摘まんで退かす、な威圧返し。その上で「お話の内容は?」とマウントを取る必要があった。
前世での特定地域の事業交渉はヤクザかファミリーの相手と変わらない。自分達の背景に幾ら力が有ろうと、それを見通せない、その場での暴力性の優劣でしか立場を判別できない人種向きの交渉術ってやつだ。
今の俺の場合はそもそもそんな背景自体が存在せんのだけど、「何処の馬の骨か解らんが上から対応で片が付く相手じゃないよ」を自覚させんと、逆に向こうが馬鹿を晒すかもな親切対応の一環で。
そして現状までの問題がもう一つ。
対面と同時に用意されたお茶に確実一服盛ってある事。
しかも俺と相手の両方に。
例え毒入りを警戒し、相手と交換する作法があったとしても意味が無いパターンのやつ。おそらくは相手が予め解毒剤を服用していてって感じだな。睡眠薬など意識をどうこうする効果の薬でって時は大概このタイプ。
「飲まないよ、知ってるから」、「信用できん相手だから当然でしょ」な態度で知らせてるつもりなんだが……、飲むまで話を始めないつもりなのか、座ってから数分、ただ互いの顔を見つめ合ってで止まってたり。
……ちょっと面倒い。
相手は年齢四十代な外見の線の細いオジサン。ちょっと若白髪が目立つし独特の疲れの表情を浮かべてたりで、意味不明の同情心が出る不思議な雰囲気の人。
自己紹介で「魔術士ギルド外務課のフラリシュです」と名乗られ「お茶でも――」「いえ結構」からの沈黙状況。
結局。「毒入りのお茶はいりませんよ」の直球でようやっと対話開始。
……何故、「え、バレた!?」な表情を返してくんだか。
あ、いや。
こうも露骨で真っ直ぐな小技ばっかだもんなぁ。
腹黒いのか素朴なのか……。
と言うか、俺が完全に上から目線で見てるなぁ。「異世界文化、原始的ぃ」な感じで。
いかんいかん、謙虚な姿勢の精神で。
とは言え、あくまで善意の協力者の立場で居たいなら、向こうから話を振ってもらわんとなんだよな。
だが毒入りの発言に何か絶句してくれちゃったんで、仕方なく「自分はどういった要件で?」と話を振るしかなかった。
さて、話題の原因はあのミンサーの魔道具。
こっちは受付での話の繰り返しでしか無いので省略。逆に魔術士ギルドの問題知らない態度を全身で醸して話題を振った。
で、ようやっと本題に。
数年前に魔導国とは別の国で政変があった。
革命な感じで国の支配者が交代したそうだ。敗者が悪逆非道のレッテルを貼られるのは当然。
で、その対象の一人が所持していた魔道具の一つが、例のミンサー擬きだったらしい。
同型の物は複数有り、用途も解析済み。それは俺が形から連想したままのものだったのだが、問題は利用用途の方。
どうも……拷問道具の扱いだったらしい。
あー……。
まぁ、完全に否定できないとこが悩ましい。
極論、人間が生みだした道具の大半は命を奪う武器の延長で、命有った物を加工するものなのだし。
日本語にもあるしな、「どう料理しようか」な嗜虐のスラング。
そんな俺個人の感想は置いといて。
その政変のドサクサに逃亡した者も少なくないようで、今は非公式な追跡劇の真っ最中なのだとか。魔術士ギルドは魔道具の繋がりで協力を要請され、俺に対するのと同じ感じで情報が出たら調査してるのだと。
だが、今までのパターンは魔術士ギルド関係者が魔道具を発見して物が流れた経緯の調査が大半。今回のように現物の持ち込みが有り、しかも作成依頼を出すのは初めてだったらしい。
……まぁ、飛び込みで拷問道具の作成依頼とか来たら、普通は警戒もするか……と納得。とりあえずは。
いや、説明が本当だな確証が無いし。
一意見としては納得できますよ、な感じで。
ギルド側の話が一段落した事で、今度は俺へのもう少し突っ込んだ質問に。
向こうにしてみれば「拷問道具を何故必要とする?」の意図で。
これで「個人的な趣味で」とか答えたら確実に危険な誤解を生むわな。
趣味の内容がハンバーグ用のひき肉作製器を求めて……には、絶対繋がらないだろうし。
仕方なしに調理器具の用途だけを強調しての説明をしていく。
ひき肉の概念は有ったようだが、それ専用の器具の概念には繋がらないようで、そこが少し苦労した。
短くない時間を使ってようやっと納得してくれたかな頃になると、今度は何か眼の中の光の度合いが変化してる感じに。
……あ、これ職人の眼だ。
どうやら、目の前の人物は魔術士ギルドの責任者とは別に魔道具職人の気質も持っていたらしい。
なんかさっきまでの疲れた表情から一辺した……マッドが付く開発者な感じのちょいヤバな表情に変貌してくれてない?
その雰囲気だと「拷問道具作りたい」と勘違いしたくなる感じなんだが。
室内の空気が完全に切り変わったと言うか、俺から得ようとする情報の内容が別物になったのは確かなのだが、当人だけが自覚してない感じ。
思わず、部屋のドアの前に立つ警備役へと視線を向けると、向こうも困惑してて役立たず。
俺が「この人どうしたの?」と態度で聞くも、無言で「分かりません」な首振り。
互いに途方に暮れる訳だが、当人はとうとう、手元の書類の裏に設計図的なもんまで引きだしてたり。
結局、警備役を近くに呼んで「誰か話のできる人呼んできてよ」で第三者の投下を促す事でしか収束せんかった。
……何か、最初のギスギス感を粉砕しきったグダグダな状態。
急遽参加の相手は[有能秘書]の雰囲気な女性さん。
普段はギルド内の事務の総轄担当でロマリアと名乗ってくれた。
どうやら途中で壊れたオジサンの直属の部下な人らしい。
「すいません、時折こうなりまして」とは謝罪されても、さて、どう返事していいかに悩む俺。
とりあえず「苦労してそうですね」と返しといたら「ええ本当に」と今度こそ返しようのない相槌が来たよ。
とり上げられた設計図……もとい報告書の内容を確認しつつの再度の内容確認をして、俺の不穏の嫌疑を取り除き、一応は情報提供者の手続きで身元の確認をとられた。
冒険者ギルドに仲立ちしてもらえば俺への面倒な無いらしいので、そこは問題無く終了。
何時の間にか依頼した体になっていたミンサーの作成に関しても、冒険者ギルドを経由して伝えられる感じに。
肝心の「作成者は?」で振られたのは……。
うん、ロマリアさの視線の先の人物だね。
名前なんだったっけ、このオッサン。名乗られたけど覚えてないよ。
「依頼斡旋料の懸念は有りませんので」と言われたので一安心。今回の一悶着での迷惑料な感じらしい。俺の気が済まないのなら後程追加で何かと、何か異様に低姿勢へと態度が変化したような?
因みに、ロマリア女史が普通に自分のお茶を用意し飲もうとしてたので、一応は毒入り茶の件での服用注意を即したらオッサンに鉄拳制裁が決まっていた。
素早過ぎる。知的なイメージなのに。
一撃でのされたオッサンが退場。
……あれ、ここって魔術士ギルドだよな。
ノリは完全に冒険者ギルドに被るんだけど。
体育会系的な? 若しくは肉体言語的な。
異世界の文化は原始的。
自分で抱いておきながら、なのだが。
これ、ある意味、正鵠を射てた感じなのかねぇ……。




