26話
魔導国に入っての初感想。
それは、基本的に現代建築だこれっ、てやつ。
芯となる骨材を硬化粘材で囲って箱にする。要するにコンクリ建築というやつ。
まぁ、原理自体は非常に古いもんで、地球では人間が石斧で生きてた時代に木の枝と泥で作る小屋にまで遡る。
ちょっと乱暴過ぎる例えだが、人間以外にまで当てはめれば更に時代は遡れるか? 特定の鳥類とか、ビーバーとか。
……いや、マジで乱暴過ぎるか。
ただ人の腕の太さ程度の丸太と日干しレンガと泥で、平気で5~6階の階層建築の都市を魔法無しで作る現実を俺は知っている。
そんな都市が数百年の栄華を過ごし、数千年後の廃墟として残っていた事も知っている。
異世界のこの都市がその歴史を直に引き継いでる訳じゃないのは確かなんだが、その基礎を共有しての高層都市なのだとくらいは、推定できる街並みになっていた。
一番近いイメージはシバームか。
外壁は土と言うより瀬戸物に近い感じだが。
と言うか、遠景で見た時は六基の巨塔以外は平屋と思ってたが、どの建物も最低で五階はある感じだな。
しかも一階一階の高さが俺の感覚より随分と高い。日本の倍近い感じか、10階建てサイズで五階な。
ここの冒険者ギルドもそう言ったビルの一つ。
正直、門番から聞いた案内と看板が無かったら発見できんかった自信有り。
中は、ギリでルビアルテの支部と共通性を感じる程度。一階全体が受付ロビーな部分とか。受付と併設してた冒険者が待機するカフェブース……いや、居酒屋ブースは二階と三階に纏めてあった。
それより上の階はギルドスタッフ関係限定のとこだと。
俺の感覚ではギルドと隣接していた冒険者宿泊施設は、此処では両隣りのビルを使っていた。ギルド正面玄関に向かって右が男子寮、左が女子寮の区別。そこは男女共用のアパート感覚だったルビアルテとの違い。
まぁ、どっちも女子の入居率はゼロに近いようで。
やはり、生活最低限の設備が不評のようだ。言っちゃなんだが、この施設で偶然見かけた方々の干物……もとい、女子力の低さは……、男の願望を極力封印した視点で視ても「ああ……」と絶句の感じだったし。
日本じゃ社会的に殺されそうだったが、こっちでは物理的に殺されそうなんで特定個人を指し示す情報は出さん。絶対。
と言うか、そう意識してるだけで危険を感じる気がしてるので、もう止めよう。
此処はお仕事を受けるとこだ。
此処は、お仕事を、受けるとこだ。
きーえーろーぉっ、オドロオドロしぃ何かしらぁぁぁっ。
……さて。
魔導国の依頼の傾向は生活生産素材よりも錬金素材が多い傾向か。
受付担当さんからの豆情報も含めるに、報酬の上限が露骨に違うので冒険者も錬金系を受ける方を優先する。だから生活素材は交易系で調達する意識に完全に寄っていて、それが偶然にも他地域の文化の流入に繋がっているとの事。
代表的な例としては、食文化の多様化とか。
どうやら、質素過ぎたルビアルテとは雲泥の差があるらしい。
……交易都市を銘打ってたルビアルテ。
ちょっと存念な評価に変動かしらん?
そんな感じに意識していた俺だったが、食の多様性を美食と同意に誤解してたとこを、真剣に改めた。
思い出せ、俺。
納豆を好む日本人、シュールストレミングを尊む欧州人。互いに尊重し合う限界値は存在するし、其々同郷人でも相容れない価値観は有ったってとこに。
美味い物を美味いと感じれる感性は実は案外、共有し辛いもんだってとこに。
……あ、でも有機溶剤系化学薬品味を美食に組み込む米国人は認めない。
絶対に絶対。
微酸性洗浄剤臭のインスタントヌードルとか何故存在するレベルの謎文化めっ。
……まぁ、そんな感じで。
この国での初の食事は、そういった形容し難い謎の味に満ちた煮込み料理だったのだ。
……なんでもな。客に錬金系魔術士が多いから何時の間にかそんな傾向が増えたとか何とか。
御贔屓の客層が好む味付けへと頑張った挙句に、世間の常識から逸脱した珍品料理店だったらしい。
料理の世界に生きてるであろう店主の味覚すら汚染した感じで。
ミ○ュラン規格の概念が有るならドクロマークを五つで評価したるわ、こんな店。
[万色の調味能]で味改変して尚、身体が摂取を拒絶する本能を働かせたとこからして業の深さは計りしれず。
アビラヒ魔導国。魔の深淵を探究する者共の恐ろしさをこんな社会の末端でさえ垣間見るとは……。
食後の気分直しにと市内をぶらつく。
一応の目的は魔道具店だが、国境砦で忠告されたように実際に買うのは魔術士ギルドで情報を仕入れてからだ。
まずは出物を見るだけ。今度こそ冷やしての精神で。
そんな意識でいたからだろうか、ウィンドウショッピングと言うよりも人間観察に近い行動になった。
魔道具店の店主の観察。其処に出入りする客層の観察。まだまだ真否眼とも行かないが。
一番最初に気づいた点は、客が買うだけで無い事か。
むしろ売りで訪れる方が多い感じ?
……ふむ、何処か知己の工房から定期的に仕入れて売る販売店な業態じゃないのか。
若しくは、それに加えて個人の販売代行的なもんもやってる感じか。
これ、店主が把握できない範疇の不具合が有った場合、知らずに不良品を売る結果になるんじゃね?
そう言った感じの店は並ぶ道具の統一感が全く無い。
ゴミを骨董品として売る店を見てる雑然さに似ている。
ふむふむ、それを要注意として意識しとけば、少しは今後の観察にも活かせるかね。
……転売目的での骨董経験は、記憶にある分だと全敗な俺だが。
冷やかしついでに、複数の店主に魔術士ギルドの場所も聞く。
これで本物のギルドとは別の、偽の似たようなギルドが存在するのかも確かめたい。
営利が絡むとそういった地下組織は普通にあるから。
土地の常識を知らん観光客とかは普通に騙される。初手から詐欺業界にご案内とかな。
案の定、魔術士ギルドの位置が三箇所に分かれた。
二つが偽物パチモノか、または全部がそうなのか。
最終的には、市内を巡回している兵士から確認。
こちらも複数人から確認し、そちらは統一されてたので信用する事に。
ああ、一応は冒険者ギルドでも聞いてる。勿論、兵士情報と合致してたので公共機関での安心度は高そうだなぁな判断にはなった。
魔術士ギルドは国内で[極星の塔]と呼ばれる巨塔に隣接するビル。その附近では唯一背の高い、八階建てだから目立つだろうとの事。
が、しかし。あまり役に立たん情報だった。
だって、下から見上げる分だと区別し難いし。高層建築ばかりで市内からだと遠くを見通すのも厳しいし。
役立ったのは巨塔の名称。魔導国の巨塔には其々固有の名称が有り、流石に派手でマストなモニュメントは住人の誰もが知ってて、誤情報にもならない。
六基の塔はどれも基本的に白い建材だが、見上げる立ち位置からだと円周を走る色付きのラインが確認出来る。極星の塔は青いラインとの事なので、流石に一度聞けば俺でも判別できる良い目印になった。
魔術士ギルドに到着。
一階の受付は随分と冒険者ギルドに似ている。
と言うか、何か共有規格でも有りそうな印象。
此方の方が内装の装飾に凝っていると言うか、全体的に植物の蔦を這わせる感じの自然感を演出していた。
受付担当さんの「登録ですか? 斡旋要項ですか?」の定例文的な対応にちょい不思議な感触。
俺の外見って露骨に物理で戦う冒険者風なんだが。
まぁ、そのあたりの疑問は後で確かめるとして、今は最初の目的を優先。ギルドが身元保証できる魔道具店と、一点物の魔道具を依頼可能な工房か職人の情報で。
魔道具店一覧はあっさりと貰えた。ただし、情報誌的に有料で。
まぁ納得の仕様。この世界にフリーペーパーなど期待しないし、有ればむしろ怪しい。
ついでに、一覧に無い店舗の情報があれば買い取りとも言われた。主観でも店の印象が加われば価格も上がるとか。
例の魔道具系詐欺業界と静かな闘争が有る様子。また、真面目な新規の個人店も常に探してるのだとか。魔術士が多いだけあって、玉石混合の新規店が分単位で生まれては潰れる状況らしい。
作成依頼に関しては、求める内容の詳細情報が欲しいと言われる。
ある程度の情報で斡旋対象も絞れるのだから当然だろう。
俺の場合、使えない現物が有るので情報の具体性も上がる。(俺主観での)ミンサーを取り出して担当さんに見せる。
「これに似た構造の汎用型か、自分専用で使えるやつを……」と言う途中で、なんか担当さんの表情が激変したので言葉が詰まった。
「これを何処で?」との問い方が妙に深刻そうなので、正直にその経緯を言う。「何の目的で?」との質問が続いたのだが、ちょっとその言葉に怨嗟が篭った気がしたので即答できない。
下手な言葉を紡いだら、何かヤバそうで。
結局、担当さんとは別の上役相手にもう一度の対応となる。
背後は固められ済み。
こりゃ、確実にヤバい案件らしい。
……どうしよう……。
トンズラした方が良いんだろうか。
と言うか、異世界イベントのフラグが油断ならんと今更に感じたり。




