25話
地平線の端に魔導国の外壁と巨大な外門が見えて来た。
国境砦から五日と半日。のんびり来た割には予定より早めの到着のよう。
周辺の様相も少し変化した感じか。草原の中にポツポツと小さな森林域が点在している。何か自然にと言うよりは植林された感じにも見える。
後、あれだ。
見通しが悪くなったせいでか、不安な反応がMAPに出ている。
八つの反応が一箇所に固まっている。肉眼に重ねると……丁度森林部の一つに合致してるな。
……て言うか、あれ。隠れているつもりなんかねぇ?
木々の隙間から、もう露骨に武装済みの人影が確認できる。
抜き身の剣や鎧の金属部とか、チラチラと陽の光を反射させてるし。
……うーん。初、野盗遭遇か。
魔導国との比較からして遭遇地点は前方1km弱。
森林が有るとは言え、こう視界の通る場所で来るか? な疑問が。
ある外壁から監視とかしてりゃ、普通に見つけれる距離だろうし?
と言うか。
あそこまで移動してドンパチ始めたら確実に発見されて、救出か討伐かの部隊が来ても可笑しくないよな?
……何だろう。また俺の常識が変なのか。
んー……
この世界の人間が八体。
性能が冒険者基準としてなら、正直、障害にならん。
荒事の先達って意味じゃ俺が足下にも及ばない連中は山程居るが、俺のチート、遠慮しなきゃ連中にとってのラスボス級な感じだし。
単純に、[火炎弾]で終わるし。
……ただなぁ、それが多分、魔導国の監視に引っ掛かるんだよな。
で、そんな危険人物、絶対入国拒否られる。
俺だったらそうする。
んー……
では素手の方向で対処か?
過去の戦闘経験を走馬灯……もとい、思い出す。
最弱魔物のホーンラビット。
敵にもならない蹂躙対象だが、実は角の一刺しで貫通攻撃を食らった記憶はある。
非常に痛かった。
次のはハイドクロウ。
刺され耐性でも出来たのか、嘴での突き攻撃が貫通する事は無かったが、実はその時、たまに抓るよう咬まれ「ブチリ」と啄ばまれた事も有り。
非常に非常に痛すぎて、向こうの攻撃はもう食らうものかと必死に先手必勝な対応に終始した。
ゴブリン以降は基本的に回避してたんで知らん。
ただトロールの打撃にはダメージを受けたという感覚は精神面の部分だけ。
んー……、おそらくは。どのダメージも致命傷にはならないが、斬るとか突き刺さるとかで傷が出来る現象は回避できない感じってとこか。
そうだとすると、野盗の剣でも見た目のダメージは受けるのかね。
流石に八人相手で無傷の返り討ちは難しい気がするし。
狙撃できればなぁ……。
弓じゃなくてライフルとかで。
ここらじゃまだ命中率は低いが、500mありゃ半分は減らせるし。
若しくは迫撃。こっちなら10km単位でも対応できる。範囲は狭いが面攻撃なんで運がよきゃ一発で済むし。
……やっぱり便利過ぎだな現代兵器。そっちのチートも貰っときゃ良かった。
まぁ、確実に波乱の短い人生って気もするが。
あ。
でもちょい待ち。
少し工夫すれば(チート)人力でも何とかなるか?
既存の素材を、あーしてこーして。
その後ちょっとの時間を置いて。
森林部の一角に小さな煙幕が「ボフン」と広がる。
囁くような驚きの反応の直後に始まるのは絶叫の大合唱。
テノールにバリトン? 聞き分け無理。ただの咳き込みシャウトだし。もう確実に、数日は咽が潰れるレベルでの。
さて、今回の攻撃は[単なる遠投]。そこらの石で別の方向への試し投げで距離感はバッチリ。
弾種は[催涙弾]になるのかな。着弾時に口紐が解ける程度の革袋で適量の小麦粉を詰めた物で、[万色の調味能]でチリペッパーと化している。
結果は観測の通り。顔面の粘膜部を完全に機能不全にしたようだ。また呼吸障害も酷いよで。カプサイシン効果で気管支と肺が物理的焼かれる痛みを堪能してそう。
……もう2~3発追加しとくか。
MAPでの反応に逃げる感じのが数体居るし。もう少し広範囲にばら撒いて確実に呼吸障害にはしてあげよう。
初撃での視覚的効果からして、ちょっと周辺が煙ってる程度だしな。これなら目立たないまま無力化できそうで。
MAP反応はそのままに、今度は隠れている訳でなしの沈黙状態をチート視力で確認してから移動再開。
遭遇ポイントを通り過ぎる時は……うん、ちょっと悲惨で憐れな呼吸音だけが近くの茂みから聞こえるだけだった。
そう言えば、野盗って討伐すると報奨金とか出るのだろうか?
よく野盗のボスが賞金首とかな一攫千金話はラノベにあったなぁ。
賞金首……。首かー。
……面倒そうだからいいか。
現代人で日本人にヒトゴロシはなぁー、だよな。
……誰がどの口で言ってんだな気もするが。
さて、気を取り直して。
とうとう魔導国に到着である。
正式名称は[アビラヒ魔導国]。何となく中東っぽい語感だが、門番やってる兵隊が頭にターバンしているなんて特徴は無い。顔の造りも特には。もともとアニメっぽい多色な髪を含む多国籍風味なので、逆に区別がつき難いとも言う。
ただ、魔法関係の国という印象は少し有り。
金属鎧してるのに魔法使いの杖装備って感じの兵隊もいるとことか。
俺にとってはルビアルテに続いて二つ目の入国となるのだが、その検査にあまり違いは無いような?
大まかに荷馬車の列と徒歩の列が検査待ちをしていて、複数人の門番が手分けして入国手続きをしている。やっぱり荷物の多い馬車の方が手間取ってる感じか。逆に徒歩の列は行列を遡る感じで進んでるし。
俺の前には30人程居るのだが、外門を潜る前に入管審査は終わってしまった。
冒険者ギルドの印を見せて「サイトシーン」ならぬ「仕事探しっす」で終わり。観光ビザとか滞在制限とか無いのは本気で嬉しく感じる瞬間。
本当に面倒いからねぇ、あれ。本物でも偽物でも使う瞬間は変に寿命が縮む気がするし。
「入国税に30ゴルド、または45マニを用意して外門通過時に支払うように」の言葉を最後に、俺の審査は終了。
詳しく聞こうとはしなかったが、[マニ]がこの国独自の通貨単位かと推測しておく。
ルビアルテの[ルテ]と同じ解釈で良いのかな?
まあ、中に入ってから確認しよう。
……そう言えば、国境砦は普通にゴルドだけで対応してたなあ……
前の人数が残り五人程になった頃、俺の後ろにできた列でちょっとした騒動が。
どうやら最後尾に来た旅人が兵士に何か報告してるらしい。
今度は兵士達の動きが慌ただしくなり、兵士が御者をする空の荷台を引いた馬車が数台、ガラガラと煩い音を鳴らしながら出ていった。
ふむふむ、流石は人界と外界と隔てる場所って感じか。
長閑な感じだけど、普通にトラブルでの緊張感な日常も有るんだねぇ。
その後、ようやっと外門を潜り終えた頃に背後から再びの馬車の音。
轢かれちゃ堪らんので道の端に避けながらの注目。ついさっき見た馬車の一台が戻って来たらしい。聞き覚えある走音の通りだった。
ただ荷台は空では無い。随分と乱暴に重ねられた、縄で拘束された人間が幾人か積まれてた。
……あれ?
見覚えは無い。
見覚えは無いが……、もしかして?
……まぁ、放置よりは回収が望まれた対象なんだろう。
兵隊に知らせたのはあの最後尾に居た旅人さんかー。
縛られてって事は、まだ生きてんだろうなぁ。
ピクリともしてないけど。
まぁ、とりあえずは黙秘で。
とにかく、世間話でも話題にしない方向で。
今夜の食事は酒は抜きで行こうと決めた俺である。




