23話
買い物が終われば、さて旅路へ……とは思いつつも、実際に出たのは翌日の朝。
流石に後数時間で日没とかいう頃合いに出発とか馬鹿だし。
元々は二週間予定の徒歩の旅。途中行程はチートな身体能力で短縮してる自覚もあるので、今後の道程もどうなるやら。
……正直、マジの全力疾走すると魔導国に当日着とかありそうだし?
常人の歩行速度で途中の村までは三日前後との事。
少しは長引くような気分で行った方が平和そうとか想像したり?
街道の幅や作りは山越え前とそう変わらず。何か統一規格でも有るのだろうか?
MAPで魔物の反応を見ると、俺がこの異世界に来て初めてMAPの確認をした時のような未知の表示内容な感じに。
どうやら此方の地域は未見の魔物で溢れているらしい。
新エリアで新MAPに更新な感じか?
今回は冒険者ギルドでの事前予習もできていないし、謙虚慎重の精神で行くのが無難だろう。
と言うか、最初の環境でもトラックに撥ねられるレベルの危険な状況は有った訳だし。此方でも同等以上の危険が有ると考えるのは普通だろう。
実際のとこは豆柴の全力体当たりだったとしてもだ。
此方の街道では擦れ違う第三者が意外と多い。
大体一時間に一本は道の前後、どちらかから馬車が行く。人数の違いはあれ荷物のみのは見ていないので、おそらくは旅客用の定期運行な感じかも。
……もしかして徒歩の移動は少数派か?
そう思えるくらい、歩きでの旅人を見ていない。
まぁ、まだ一日も過ぎて無いんだが。
初日の午後三時程度に街道脇のキャンプを発見。と言うか実は二つ目。前回と今回の間隔と移動時間を脳内で確認し、次のキャンプ場所への到着時間を予想して、今日は此処で休むと決めた。
先客らしき馬車やテントもチラホラ。互いに不干渉の精神のようで、俺も其れに習い、適当な場所で黙々と設営をする。
炊事場から遠めにを選ぶか。それで予想外の遭遇イベントも防げそうだし。
何時もどおりに[収納]から鉄鍋を出そうとして、ちょい躊躇。
此処でカレー出したら、またギャラリーが出来そうな予感がーぁ。
……ちょいと自重しとこ。
とりあえず、保存食を齧るだけって選択は無しなので新規作成の何かを。
焼き肉は簡単だが、匂いテロの意味ではカレーと大差無し。
なら今回は味に全力のみな制限だわなぁ。
夜の独り飯。たぶん今夜も星空が綺麗そうなので、それを楽しむ感じで。
……ふむ。
……ああ、鍋にするか。
大量の素焼き鍋が有るのに、何故か王道の鍋物の記憶が余り無い。
まぁ、カレーも煮物と言えば煮物だが、ちょっと視界的には現代似とは言えて無かったし。
竃は鍋を囲む用に作り完全固定。自分に直火が届かないようサイドに設置。湧水ポットが早速活躍。イオン臭以外が無い綺麗な真水が日本人には必須だと改めての再確認。
ルビアルテ産の新鮮葉物野菜で手千切りで詰め込み薄切り肉とサイコロ肉サイズのを野菜の隙間にぐいぐい潜らせる。両者が出汁で馴染むようにちょい塩多めに振りかけて。
後は弱火で煮込むだけ。
……白菜風のとレタス風の混雑に微妙な火の通りの差が。
だがそれが良いの精神で。使用した肉はオーク肉、こちらは煮崩れもせずにいい脂だけを出し臭みも無し。
さて手頃に煮えたら味付けを。今日は円やかな味噌煮込みで。
日本人なら味噌とはよく聞く言葉だが、実のところ味噌程味がコレだと決めれる基準は無かったり。なんせ全国規模で販売するメーカーでさえ各地で好まれるローカル味への微調整をしてる始末だし。
そんな常識がまかり通る中での俺の好みは、白と赤と合わせた物。塩っ気強めで味のコクが薄い赤でも、円やかで風味の濃い反面パンチの無い白は両方とも微妙に物足りない。
其れらをベストな配合でかけあわせた専門家の傑作が、今のとこ俺のベストな味噌の味な訳である。
……まぁ、とりあえずな味付けでハズレ無しなだけとも言えるが。
味だけじゃなく、本物だったら乳酸菌食品並みの整腸作用で食べる胃腸薬な効果なのだが、それは今回は諦める部分。
今度大豆見つけたら自家味噌くらいは作りたいのう。味は幾らでも調整できるのだし。
予想通り、独特の香りはしつつもそう刺激臭を撒き散らす感じでも無し。
軽く灰汁だけ除いてもうひと煮立ち。
ふむ、豆腐とかも追加したい感じ。
……なんでも良いから豆蒸して擂ってみようか。豆腐に出来るかは置いといて、豆乳っぽくなりゃそれはそれでコクの追加に繋がるし。
次のメニューの課題が出来た感じで。
……後はと。
さっさと食うか。
何故か知らんが、また変な視線が集まってきた感がするし。
合わせる酒はミードにしておく。流石にワインばっかは飽きてきた。
……ああ、こっちの地域の酒探しもしとけばよかった。
翌朝。
朝食は昨夜の残りの出汁スープにパンを漬してな感じで。
ヤングコーンも追加してみた。水気を吸って復活したコリシャキの食感が案外面白い。
キャンプを畳み移動を再開したが、何時までも噛んでたい欲求が……。
……ううむ。歩きながら食いで袋半分が消えてしまったよ。
昨日は街道近くに寄る魔物が居なかったのに、今日は随分と棲息範囲が狭まっている。もしかしてチートの視力なら認識できるかもと近くの反応の方向を見てみたら……ああ、見つけた。
ガゼル、シカ、トナカイ。なんかその全部の特徴が混ざった感の草食獣?
一応、魔物だよな?
鑑定チートの結果は……「魔物」。
やっぱり魔物ですよねー。
……何時になったら個体名くらい表示されるのだろうか、このクソチート。
[頭部の角が危険]
七支刀のような角が二本、頭部からみょんと生えてるんで嫌でも解る。
ついでに、向こうもこっちを認知済みのようで頭をヘッドバン全開中。角の先で地面を抉って派手な土埃を展開中。
……ふむ、地域差ってやつだろうか。
人間見たら殺したい本能に忠実マンの精神を自制してるよな、あれ。
威嚇ってのはそういうもんだし。
目測はできたが弓が届くギリギリの距離だし。当然当てれる気がしない。と言うか完全に回避される。絶対。
あの感知能力が草食獣の全包囲視界に似た特性だとしたら不意打ちも難しいしなぁ。
……まぁ、此方を認めながらも襲って来ないなら別にいいか。
今後相手する必要が出たら、その時に考えればいいし。
……と、方針を決めたその直後。
視線を反らして数秒後に突進攻撃を受けようとは……。
流石魔物、行動の原理が汚い。
いや、意識的な不意打ちは貰ったが実際での不意打ちは回避したぞ。
こっちからの攻撃に距離を感じたと同じで、向こうからの攻撃も距離が充分有ったからなっ。
MAPの反応に驚いて飛び退いたとは言わないが。
……言わないがっ!
武器を[収納]から出す暇なくゼロ距離に詰められたので対応は素手になった。
カウンターでのパンチに手応えは有ったが、向こうも学習したらしい。その一発以降は回避の連続で効果無し。
仕方なしに前世での野獣撃退法を実践。
角付きはそれを丁度いい取っ手のつもりで、突進をギリでかわして掴んで捻じる。上手く行けば首の骨をポッキリやれる。流石に自分よりガタイの良い相手には通じ難いが、そこはチート補正が頑張ってくれそうなので……って、角が根元からポッキリ取れて逃げられた。
マジで鹿の角かよ!
手の中で本物の七支刀と化した角を即興の武器に対応。
それが呆れるくらいの切断力で、あっさり首を落とせたのに俺の意識が呆れたり。
えーっと、……相手に自分を倒す武器を提供する魔物っすか。
……とりあえず、もう一本の角も回収しとこう。
横倒しの胴体はそのまま[収納]へと放り込み、斬り飛ばした首は何処に落ちたかと周囲を捜索する。




