22話
翌朝、遅めの時刻に目覚めた俺。
宿が決めた朝食の時間も過ぎていて、当然のようにマリアンとジナの姿も無い。
外ではそろそろ昼飯用の屋台も出ると聞いたので、のチェックアウト後に朝昼兼用の飯にしようと思う。
何気に、別の国の異国飯を食うチャンスだし。
屋台を二三覗いてみるに、この地域のメインの食層は穀類らしい。
ほぼ狩猟肉と野菜だけで済ませていたルビアルテとはまるで違うという驚き。
中でも多いのは雑穀を煮込んだ粥物だろうか。どことなく甘い匂いが広がっていた。その中に肉の脂が混ざっていないのも解り、随分とヘルシーな感じを想像する。
とは言え、塩味のさっぱり感だけで飯を終えるのは少し気分が違うと言うか。
せめてこう……トマトソースの旨味付きとか……ああ、嗅いだような鼻にちょっと刺激を感じる韓国雑炊のような……、え?
何処かで嗅いだような以前に、もうラー油としか言えないそれを注目したら、その屋台の親父とも視線が合った。
「どうよ、最近流行り始めた雷油を使った辛い粥だよ」とか良い顔して勧められ、つい、頷いてしまった。
……すげーな流行。もう異国にまで侵食してるのか。
見た感じの現物は中国粥な感じなのだが、食感は餡かけチャーハンに近い不思議な感じのもんでした。
自分の記憶に置き換えてみると……ジャンバラヤをスープを煮込んでパエリヤ風に的な?
穀類の粒はしっかりと存在しつつ消化に良いような調理法。
まぁ、明らかに日本以外の穀類の活用法かね。
味に関しては基本塩味に穀類と野菜の味が融合し、其処に強引に辛味が割り込んだ感。
空腹補正で美味いと記憶はできたが……結構咽が乾く。
もうちょい、バランスを考えましょうな評価で。
さりげなーく食のルーツをネタに親父と世間話。すると意外な事実が。
実はこの屋台の食材は、この国境砦に常備されている輜重の払い下げなのだとか。
長期保存のし易い穀類は軍事物資としても重宝する。特に国境地域ともなれば籠城や不測の緊急用に多めに輜重も置かれていて、しかも定期的に更新される。
で、古い輜重まで貯め込むのも流石に限界が有る訳で、其れらはこの地の民間に格安で卸され、何時しかこの地域の食文化っぽい感じになったのだとか。
因みに、肉が食いたきゃもう少し屋台通りを移動すれば増えるらしい。鮮度が命の魚の屋台は数も少なく在庫も少ない。更には高い。早い者勝ちなので今から探すのは諦めろな忠告もくれた。
……時刻的にはまだ屋台飯が始まったばかりらしいのに、何と言う限定感。
同じく、時刻的に朝市も終わっていたので食材の追加は無理だった。
代わりに勧められたのは保存食の並ぶ屋台なので、其方に行ってみる。
ふむ。保存の手法は乾燥物の一択のようだ。
漬け物だとどうしても水気を含むし重くなる。
この附近的に主な客層は兵士か旅人だろうし、軽い保存食となれば乾燥なのも当然か。
肉類はジャーキー風。形は色々だがどれも一口サイズに統一された感。味は塩のみ。俺基準でのスパイス要素は欠片も無しと。
野菜類は異世界でも定番なのか豆が多い。そのまま口に含んでふやかして良い。煮ても焼いても大丈夫という感じで。サイズは空豆が定番。葉物は煮込み専用で生では食うなの注意付き。人気も無いのか在庫も少ない。
変わったところでは、ヤングコーンっぽい物を発見。食い方は豆と同じで。乾燥させるとスティック型のスナックな食感で、噛むと甘味が湧いて来るそうな。面白そうなので一袋買い込む。
正直のところ、野外生活に必要な食材はルビアルテで軽く数年分は確保済み。あくまで追加は趣味の範疇での精神。
移動する内に食材から雑貨の店が並ぶようになっていた。例の詐欺雑貨な魔道具の店も発見。今度は騙されんぞと素通り。
素通り……のつもりだったのだが、俺以外の客が思案してるのを発見すると途端に気になる。俺同様に騙されてるのか、ただ珍しい物見たさなのか?
すると何故か不思議な光景が。
客が手にした魔道具を店主が解説する風にしていて、普通に起動させていたり。
ポット型のそれは、どうやら湧水機能の魔道具らしい。自然に近づいてた俺は彼らの会話を多少聞き取れ、「……魔力の充填は……」「作動手順は……」「作成者の銘は……」等々、なんか普通に商談になってるのを確認してしまったり。
……あれぇ?
そのポットは見事に御買い上げとなったようで、客は通りの向こうに消えて行った。
さて、多分俺は挙動不審丸出しだったんだろう。客を見送った店主が直ぐ様俺に視線を向けて、如何にも全て知ってますよな感じで接客してきた。
まぁ、此処は素直に聞くのも……正解とは言えなくても情報にはなるな精神で。
ルビアルテの魔道具屋の経緯を話すと、ジナ同様に店主が「ああ、そりゃ詐欺だわ」という返事。やっぱり、使えない魔道具での詐欺は普通に在るらしい。
ではこの店は違うのかと言うと、それは店の在る場所故にな感じで。
見た感じ規模は小さくても軍事施設感の強い場所で、当然運営維持も国境村と言うよりは基地に近い。流石にそんな場所で犯罪前提の商売は成り立たないと言う事。
とは言え、俺がジナに聞いた魔道具の常識とはちょっと違う感も有るので、その部分も聞いてみた。
魔道具は、確かに基本的には作った本人が使う前提の物らしい。
だがその前提は作成の基礎での事。この世界では疑いようの無い便利さを発揮する魔道具なのだし、誰でも使えるような汎用性を追求しない道理は無かったという訳だ。
問題は、その作成の難易度。
生活の便利に使う魔術が一般的と同じ感じで、個人専用の魔道具と汎用性可な魔道具では作成する魔術士の技量の違いが雲泥の差なだけだった。
加えて、魔術の流派でも難易度は変化するらしい。ただ流石に露天の店主にその違いの説明全てを願うのは無理だった。
店主が念のためと俺が買った魔道具の確認をしてくれる。
旅用の雑納から取り出す風に誤魔化して[収納]から出したそれ。一つは如何にもカンテラっぽい物で、もう一つは俺がひき肉製造ミンサーと思ったやつ。
冷やかし気分ではあったが、新規制作の注文を出すにしても参考になる物が有れば説明が減ると思って買っちったというやつ。
価格はそう高いとは感じなかった。なんせ魔道具は高いという先入観が有ったし。実は鉄鍋よりも安かったし。
最初から使えない前提で買ったから実際に使えないのは良いとしても、それが廃品詐欺で買わされたと解った途端に憤りが生まれるこの不思議。
店主の検分によると俺の想像通りのカンテラの魔道具は実のところ掘り出し物だったり。汎用性の魔道具なのだが、明りと同時に簡易の魔物避けの結界も作るのだと。だから起動するのに必須の最低限の魔力が普通の汎用性型より高く、前の購入者が魔力の充填ができなくて手放したのでは……と言う物。
試しに店主が魔力を充填してみると、魔石なる充電メーターな感じのとこに僅かに色の変化が生まれて終わった。「二割くらいしか貯めれん」との事。全力でやれば貯めれるが、そうすると今日の仕事に差し支えも出る。一応、有料で充填代行もしてるのだそう。お試しでタダでやってくれただけ感謝の精神。
で、ミンサー(仮)の方は店主の記憶に無い魔道具だった。
完全に個人仕様のようで、魔力の充填もできない。
同じ物が欲しいなら、頼む作成者に形体の参考に出すのは正解という事だった。
加えて、魔道具関係で魔導国へ行くなら、先ずは魔術士ギルドを頼る事も言われた。
ルビアルテと同様に詐欺紛いの魔道具店も普通に有るのだからと。
本当に助かる情報が得られたので、店主のお勧めに従い前の客が買ったのと同型の湧水ポットを購入。魔力充填方法を知っているなら簡単にできるそうで、実際に試しての確認もした。
ふむふむ、[収納]に頼らない飲料水の確保は非常に助かる。
あと、久し振りに良い買い物をした感が気持ちいい。




