18話
魔物の襲来で起きた阿鼻叫喚。
絵面はそうなのだが、其処に至る原因を知ってると只々申し訳ないの精神な俺。
が、土下座する相手が現在進行形で魔物に殺られかけているとなれば他の行動が優先されるわけで。
とりあえずは、あの大きく強そうな魔物は倒さねーと話にならん。
幸い、魔物の行動は感情的にキレていて暴れる対象以外への注意が完全に霧散している。二つある犬の頭の利点も捨ててるし。
なら其処を突かせてもらうのは当然だろう。
あ、[万色の調味能]を今使うのは自重で。
折角反れてる注目を集める気は無いし。
[収納]にたんと貯め込んでいる激辛味付け済みの矢で狙撃。
初撃はこれが一番だろう。
ちょうどこの窓越しに放てるし。
ガラス無しの窓ってのもある意味都合がいい。
更に都合が良いのは、暴れてる魔物が此方に背中を向けていると言う事。
いや、より正確に言えば俺の方に完全に尻を向けてるって事か。
強靭な獣毛のガードが無い、地肌剥き出しの弱点が丸見えだし。
……具体的な部位の名称は言いたくない。
其処は誰もが察してくれると思う部位。
あ、ちなみにこの魔物は雌らしい。
ブラブラしてないだけの確認だけど。
狙い撃つぜっ、の精神と「的中~!」の精神での第一射。
其の矢は見事に「X、10点」な感じで肛門を抉り直腸にダメージを与えれた。内臓への貫通と激辛猛毒の相乗効果はそれなりの結果を結ぶと思う。
……あ、言っちまった。
……ま、いいか。
ともかく結果は俺の想定通り。
見ず知らずの先客への攻撃の意思はそれで霧散したようだ。
ちょっと「このワンワン可哀想」な感じの悲鳴が轟いたと同時に双頭が天を仰ぎ全身がその場で跳ねる。反射的に尻を守ろうと意識したのか、俺の射線から反らした事での動きは後方回転になり、仰向けで地面に転がる事になった。
ただ状況は其れで終わらない。なんせ矢は半分程は刺さったまんまだ。
更に「うちの子に何て事すんの!」と飼い主が激怒しそうな憐憫の心を掻き立てる「キャインキャイン」な悲鳴が止まらない。
ついでに仰向けのままの悶絶姿も非常に憐れ。あの巨体での其れは周囲の被害が半端無くて、間近での巻き添え被害者約二名の悲鳴も追加されてたりだが、まぁ、元気がなきゃ出そうにない声量なので逆に安心材料だろうと思っておく。
……何かスゲー金切り声が二つか。
どうやら先客は女が二人だったらしい。
うん、下手に接触せんで良かったわ。
ともかくは一発でクリティカルな状況に変えれたので、このまま魔物は退治してしまおう。トロールのように再生する素振りも無いし、激辛に拒絶反応を示すくらい生物的な特徴も残しているし。今度は此方に頭部を向ける態勢で無防備に大口開けてんだから、咽を焼いてやれば更に弱体化も可能だろう。
……可能……だろう。
ううう、俺の動物愛護の精神がががが。
……うん、魔物でも泣くんだね。
ケツの焼ける痛みに耐えるしかない悲哀への同情新が無性に膨らむ。
犯人は俺だけど。
その後、反撃されるのも嫌なので小屋内の窓越しに射る事しばし。
やっぱり暴れてくれてるせいでトドメに至れる攻撃が中々放てず、最終的には首とケツに十数本の矢を生やす事で双頭犬の魔物は沈黙したのであった。
……あ、でもまだ死んで無いので。
スバイシーショクでの重体って感じ?
何故か後脚の片方を天に向けてピクピクと痙攣する様子で倒れ伏した魔物。
この騒動で周辺の魔物はどうなったとMAP反応を確認すれば、今回はリンクより警戒の対象になったようで俺が、寝入る前より位置が遠退いてたので一安心。
これなら二次襲撃の心配も無しで後片付けもできる。
扉の閂を外して外に出ると人命救助へ。
魔物の回収を優先しても良いが、この騒動の元凶が居なくなった理由を考える暇が惜しい。こっちの悲鳴も無くなったし。流石に半壊した小屋に放置って選択は無い。
昼間通り過ぎた時には見逃したが、壊された小屋は奥行きの有る長屋作りだったらしい。手前に人の住む小屋と、奥の厩が半々でくっついていてるというやつだ。どうやら馬車持ち移動用って感じなのだろう。
魔物からの避難小屋で外に荷を積んだ馬車を放置って本末転倒だもんなぁ。
幸い壊されたのは人が居る方のみ。壁で間仕切りされた奥の厩は無事のよう。
扉は跡形も無し。外壁の丸太が室内に散乱し、俺が居た小屋に似た内装を埋めていた。
ならば寝てたのを不意打ちされてのパニックになってな想像もしやすい。
瓦礫に埋もれたろうベッドの位置を重点的に探してみれば、星明りに映える女の白く細い手の先を確認できた。
ありゃりゃ、瓦礫に潰されはしなかったようだが、中途半端に埋もれて身動きは無理だったってパターンか。
適度に空いた隙間から覗きこむと、此方も完全に失神したらしい姿がチラホラと。ちょっと暗過ぎで細かいとこは判別できんけど。
二人分揃ってるのかもちょっと怪しい。
血の臭いは無いし外傷の心配はいらない。とりあえずは瓦礫を退けよう。圧迫状態が長いのもヤバいし。
使ってみて実感するチートの怪力。
丸太を退けるという意識で自動的に適した力が湧いて来る。
まるで発泡スチロールの偽の大岩を持つ感じで丸太を退けれる。普段からこんな力を出してたら、日常が完璧に殺戮だわなーな謙虚な精神を忘れずに。
と言うか、複雑な組木パズルをしてる気分で知恵熱が出そう。
一手間違えるペナルティーが中の人の身体ダメージとかで洒落にならんし。
悩む事十数分。ようやっと救出成功。
が、別の問題が発生。
具体的には、男が見ず知らずの女を直視した状況でのヤバいやつ。
……あれか。この世界の住人は寝る時は着ない主義が正道ってやつか?
確かに、地球でも野宿での寝袋就寝は全裸が安心って状況もある。
下手に着たまま寝る事で、血行障害が起きて四肢への障害が出るなんてのも有るし。
ただ現代人って貧弱だから防寒はしっかりしなきゃ直ぐ死ぬけどな。服着た前提での体温調整に慣れきってるし。特に日本人。
……でも外人さんとなると案外開放的なんよねー。
良い意味で男女同権で開放的というか、エッチぃ魅力と卑猥や猥褻物との区別がついてると言うか。
むしろこっちがそう言う視線を向ける事が非難される。
最近は日本アニメの変な商業倫理がブームになって世界の感性を汚染してたけど。
……いやいや、過ぎ去った世界の常識とかで悩んでてどうするよ。
と言うか、単に寝る時の作法とかなんで、別のこの世界の女が露出狂って意味じゃねーんだから、とっとと救出して何か着せないとだよ。
……こんがらがってゴニョゴニョな女二人を離すパズルが先だけど。
……まぁ、其のあたりは深夜残業の報酬という事で。




