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17話

道が平原から山道へと変わり始め、微妙に登り降りの坂道になっての一休み。

前方の光景が確実に登山な感じになってきたんで、ちょっと気持ちを切り替えるための一息だ。


魔導国には二つ程山越えが有るとジミルチ商会には聞いてたので、ここがその最初の場所なのだろう。

登山道は一応は馬車の移動も考えられてるのか、山肌を緩い傾斜でジグザグに上がって行くもの。徒歩用にかその道を直線で貫く階段も有るが、そっちは逆に急すぎて登るのが疲れそうだ。

まぁ、チートな体力のお陰で気力のみの感想になるが。


休憩できる場所は麓か山頂という事で、そのタイミングは個人の感覚で決めないといけない。逆に山間には徘徊する魔物が多いので、途中まで進んで休もうとは考えない方がいいらしい。

その忠告を受けて俺は麓で休む事にした。時間的に昼過ぎだし。例え魔物の脅威に実害が無かったとしても休む時間が取れなかったら精神的にはキツイし。


麓の休憩場所には丸太組みの山小屋風の猟師小屋が並ぶ。俺のイメージではロッジかペンションな感じだ。ただ利用の用途は避難小屋の意味が大きいらしい。此処に出る魔物はイノシシ風の物が多くて、頑丈な遭遇避けが必須なのだとか。

また低空を飛ぶ魔物も出るそうで、屋根の有る家屋型なのはそうせいらしい。

俺が現地に到着した時には先客が居たようで、小屋の一つの煙突から煙が登っている。ここ等の常識では直接顔を合わせてないなら不干渉でいいそうなので、数件離れた空いた小屋を使う事にした。


小屋の大きさも色々あって、俺が選んだのは個人用か少人数用は謎だがとにかく小さめの物。中を確認してみれば二段ベッドっぽい寝板が設えられてたので、一応は二人用なのかね?

広さは六畳一間程で壁の一角に暖炉が組んである以外の家具はテーブルも椅子も丸太の切り株。

ふむ、中々にワイルドのようで。


夜の暖取り用に薪置場から二山程運び込み、暖炉近くに積んでおく。暖炉手前には石組床と台が有るので、此処が簡易な竃の扱いだろうか。

換気と明り取りの人の頭が通る程度の窓がある。が、格子があって実際に通せはしない感じと。猫なら通り抜けできそうな感じなので、魔物避けってことならそれより大きいのだろうなぁと予想しておく。

扉は内側から頑丈な閂を置けるので、イノシシな魔物対策って感じか?

後は……、閉めきられた感での埃っぽさは無いので、結構頻繁に使われているくらいの頻度はあるってとこか。

空気の入れ替えが必要が無いのは面倒少なくて助かる。


今夜の準備が終わったら一休みがてらの腹ごしらえで。

メニューは前回の偽カレー。一度作ったら3~4日はカレー三昧が家の流儀だったし。

今回はジミルチ商会から少しばかり分けて貰った御当地パンも使ってみる。

タイプはライ麦パンに近いのだろうか、乾パン一歩手前程に硬く密度のある保存用の物で、素で齧るのは無理なやつだ。スープやシチューでふやかしてが必須なので、当然、カレーにも普通に合う。無発酵に近い独特の酸味も俺的には好みの範疇で。


地球にも小麦粉主食の国って結構独特なパンが多かった。どういった発展でか食用であると同時にオブジェとか置き物な扱いのすら有ったし。

野ざらしで数年の安全に食えるパンってどうよ?


……まぁ、今回は普通に食えるので安心。


カレーは煮込んだ状態のまま[収納]なので、出せば熱々のまま食える。茶碗サイズの小椀に一盛りして鉄鍋は収納し直し、漬けパンで腹を満たす感じで。

ナンでカレーするのとはちょっと違う食感。完全にパンの方が主役になってるわ。



外からの明りが落ちてきたあたりで暖炉に火を入れる。明り用のカンテラも有るが暖炉で充分なんで要らんだろ。

湯だけを沸かし、カップにワインと半々に注ぎホットワインで一杯やって、早々に寝る事に。MAPでも確認したが、今夜は魔物も出なそうだし。


……ふむ、先客は二人組なんか。


今更ながらに気がづく俺って。



寝入ってから三時間。自然な感じで目が覚めた。

夜の虫の営みが止まった。コオロギ、スズムシ、カエルの唸り。なんとなく農家の夜を連想させる騒がしい音色の夜だったが、それが一斉に静まったって事は、何か危険なもんが近寄って来たって事なんだろう。

MAPの反応を見るに山の方向が一体、此方に敵意のあるのが近付いてるので魔物の推定で良いらしい。

話に聞いてたイノシシっぽいのかね?


一応は他の連中の確認も。……特に動きのある反応でも無し。まだ寝てる? 魔物の接近に気付いてない?

うーん。俺の場合はチート性能での探知能力もあるからなぁ。向こうが鈍いって考えるのも早計かねぇ。


とりあえず、熾火になった暖炉に薪を追加して室温は上げとくか。

少し室内の空気も冷えてるし。

窓の外へと視線をやると普通に星空のようで肉眼での異常は特に無し。飛ぶ系統の魔物の心配は無いようでし、外の観察もいいだろう。

反応の方向も確認できるわけだし、俺は息を殺しての観察を始めた。


で、十数分後。

……イノシシじゃねーよなぁ。確実に。

事前の情報を裏切る形の魔物を確認して、少々慌て気味の俺だった。


体型は犬、耳処理してないドーベルマンに近いだろうか。ただサイズが。散歩歩きの全高で軽く2mくらい有るんじゃね?

後首の数。二つあるじゃん。

首三つでケルベロスとかは知ってるが、二つだと何だっけ?


……悩むよりは確認するか。どんな結果が出るにしろ。


異世界転生定番のチート機能、[鑑定]。未知の対象に使う事で様々な情報が得られる。俺みたいなこの世界のド素人が純粋な住人よりも有益な活用法を見い出せるかもな理不尽をまかり通させる定番チート代表というやつ……の筈なんだが。


[鑑定]結果。→「魔物」。


……使えねー!


個体名さえ出ない。

特徴は……「四足歩行」「頭部が二つで死角が少ない」「夜行性の可能性」。


……全部見ただけで解るやつ。


くうっ、初めてホーンラビットを鑑定した時とほぼ変わらない内容だよ。

余りに使えないから放置してたが、改めて使ってみて本気で使えないと確信した。

二度と使うか、こんなクズチート。


とりあえず、犬っぽいからそっちの連想で想定しとこう。

頭が二つの野犬とでも考えれば何とかなる気がするし。……するか?


ああ、行動も犬っぽいかも。

小屋に近づいたら何か嗅ぐような行動してるし。俺の臭いでも感知してるのかね?

徐々に寄って来るのに合わせてその行動が頻繁になっている。地面や高い位置に鼻を向けて如何にも何か探してますな感じで。


やがて俺の小屋の方を向く回数も増えて、10m程の距離になった時に……おや、なんかビクついた?

露骨に此方に顔を向けて視線すら合わせてきたようだが、実際に俺と視線が合った感じはしない。

本当に犬と同じで視認力は低いのかもか。なら動体視力は高そうなので慌てて姿を隠す事は止めておく。今なら俺の姿は見えてても風景の一部なのだろう。下手に動けば其処を切り取られて完全に獲物認定されるだろう。


と言うか、なんか異様に警戒されてる感じだろうか?

随分と鼻に皺が寄ってる様子で……あ。

カレーか? カレーの残り香か?


そこに思い至った途端にあの魔物の行動の理由も解ったわ。

刺激臭の発生源となった俺のとこの小屋が気になるけど、嗅ぎ分けた刺激臭に恐怖して近寄れないって感じなんだろう。

うむ……なんかスマン。


魔物は警戒の解けないまま小屋を避けるルートで移動再開。頭の一つは絶えず此方に向いてるし、後ろ姿が見えるようになったら完全に尻尾を股の間に挟んでるしで……なんかスゲー罪悪感に責められる見た目になっていた。


そしてもう一個の罪悪感。


魔物にとってカレー臭がかなりのストレスになったのだろう。先客さん等の止まっていた小屋に人の気配を認めた途端、もう完全に八つ当たりだよねな感じで小屋に攻撃を始めちゃったり。

すっかり熟睡してたらしい先客さん達の寝起きの悲鳴とかも聞こえて来たし、俺の内心ではこの状況自体に土下座の精神で御居ます。


何かもう、ホントーにスマン!




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