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16話

街道に出て四日目の夜営にて、初めて交易商人と出会う。

ジミルチ商会と名のった五人組は商人二人がまだ十代後半の兄妹で、残り三人が護衛の冒険者との事。

驚く事に護衛は三人ともが二十歳前の少女という事で、真実はどうあれハーレムパーティの現物と遭遇した俺の内心は荒み気味。商人兄であるハンスが微妙にイケメン風味なのもその理由だったり。

まぁ、真実は商人妹と冒険者少女が幼馴染だかららしいのだが。


俺が夜営をしてたのは街道沿いに一定間隔で設けてあるキャンプスペースで、野獣や魔物避けの簡易な防護柵に囲まれた学校の校庭といった感じの空間だ。

ある程度の数の荷馬車を収納できる広さも有り、野営用の井戸や何処かの川から水を引いた用水路もある。状況によっては常設の中継基地も置けるだろうな、こんな場所には勿体ない立派な施設だ。

商会との挨拶代わりにした雑談で、これ等の場所の幾つかは昔は開拓村が置かれてた場所なのだと聞く。元々はこの街道を敷設整備する人員が詰めていた場所との事。役目を終えた後は村を解体し、他の地域へと移動した。本来なら途中に一箇所くらい村を残すのだが、この街道の場合は全長が短い事もあって村を置く意味が無かったらしい。

なんでも此処から先は半日もしない内に国境の砦になる。砦からルビアルテまでは距離は有っても監視塔で見渡せるそうで、何かトラブルが有れば兵の出動も出しやすい。そのため此処を移動する物は発煙筒などの信号を出す手段さえ持っていれば、生存率も高いのだと聞いた。

……え、俺、そう言う事ギルドから聞いてないんですけど。



……まぁ、済んだ事は仕方ない。


ジミルチ商会は隣国となるエイベン王国の国境都市に所属しているそうで、半年に一度のペースでルビアルテに交易に出ている。本来ならもう少し早く出る予定だったのだが、例のゴブリン大移動の情報を知って鎮静化まで待機してたのだとか。

因みに、それで移動予定が狂い、本来予定していた護衛の冒険者の都合がつかなくなって妹伝手の護衛になった。女性比率に偏ったのはそれが理由で、けして自分が女好きだからではないと……何故か真剣に説明をされてみたり。


あるぇ? もしかして俺、明確に呪いの視線でも放ってたんだろうか?


魔導国に行く前提で隣国の情報も知りたかったので特産などを聞いてみる。エイベンは鉱山で発展した国で、鉄材を中心に銅や鉛、貴金属の源材と加工品の交易で成り立っている。ルビアルテとは農産物との交易がメインで、魔導国には資源の輸出に偏っているのだとか。

ジミルチ商会も鉄材を運び、食料と燃料を仕入れるのだと。


……何と言うか、自分の中の感性で初めて商売人らしい存在と出会った気がする。

ただなぁ、こういった個人の商売の範疇でってとこに規模の貧相さも感じたが。

食材を荷馬車一台でって、どんだけ販路が小さいんだか。

せめてこれが、この街道を鉄道の貨物列車並みに荷馬車が連なってればな感じなら交易が盛んとも言えるんだが。

徒歩で半日程度の距離を馬車で移動。ただし護衛が徒歩だから実質徒歩と変わらない。ここでは少し休憩をしてもう少しルビアルテ寄りに行ってのキャンプとの事。自分が歩いてきた行程を遡るよう思い出してみて、移動の時間的なコストが俺の常識と違いすぎて本当に商売になってるんだかと心配になってみたり。


まぁ、とりあえずはゴブリン騒動の鎮静化と現在の魔物の雰囲気を世間話の一つとして伝えておいた。

もう半日の移動範囲内に見晴らしのいい場所も幾つか有ったし、ホーンラビット相手ならそう警戒無しでも夜営に困る事も無いだろう。

と言うか、向こうはこの世界の住人なんだし俺よりも常識を知ってるだろうし。


俺は旅路をそう急ぐ気もないので、今日ははこのまま此処で夜営の予定。

先日はたっぷりとガーリックステーキを楽しんだ事から、この世界なりの創作料理に凝る気分な俺。[収納]の中には食材やキッチン用品がたんと有るので、味も濃い、匂いも濃いぃな実験にはこういう環境の方が都合も良いので。

ただ、今回ちょっと巡りの運が悪かったかなーと思うのは、ジミルチ商会と遭遇したのがそんな創作料理を一品作り終えようなタイミングだった事。


竃で煮詰めるのを「それは何ですか」と問われれば、「今夜の飯でして」と答えるしかない俺。

「独り用のスープにしては随分と多いですね」と続けて問われれば、「この手の料理は大量に作ってナンボなんで」と、つい応えてしまう俺。

最後に、「それは何て言う料理なんですか」と聞かれたくない質問に至っては、「香味煮込み」とその場の出まかせで名を付けた。


その正体はまぁ……、偽カレーのルーである。


オークとトロール素材で得た泡銭を投下しゲットした馬鹿高い価格の鉄鍋。童話の中で魔女が使う感じのそれには大量のざく切り野菜、薄切りにしたオーク肉がトロリと粘りをつけた小麦粉ほ溶いた煮汁で煮られている。野菜の旨味や肉の脂で一応はホワイトソースな風味は有る。色が致命的にカレーじゃ無いが、それは今後の課題と言う事で。

肉に関してはビーフカレー風にゴロっとしたのも良いのだが、俺的には豚バラを大量投入したモチャモチャ感も好きなので、今回はそっちを選んだ。

まぁ、店カレーより家カレーな感じで。


今回は煮物って事で、時間と共に変化するかもと味付けを最初から何度も繰り返してたのも問題だった。暴力的なカレー臭は誤魔化しようもないし。

商人らしく有料の御相伴と言われればもう、断り難い。なんせ作った量は軽く数十人分は有るし。

残りは[収納]に突っ込むつもりだったからさぁ。


結局は鍋の半分を失って、俺は更なる御当地情報と路銀をちょろっと増やす事となる。



翌日、無事に国境も越えて数時間程歩いての事。

昨日得た情報に「なる程なぁ」と感心する俺が居た。

俺の予定では、魔導国にはエイベン王国を経由しての移動という事で無条件に王国の町に寄るという意識になっていた。

が、親切な忠告では「それは止めとけ」と。

なんでも現在のエイベン王国は余所者の移動に過度の税をかけているのだそう。多国間の移動に制限が少ない筈の冒険者も例外ではないって事で、ただの通過なら寄るだけで損になるのだと。様々な厄介事担当の冒険者相手にそれで良いのかな疑問だが、元々工夫と職人の国らしく物理言語が必要な問題は住人の自前での対処で済むのだとか。むしろ荒事専門で生産活動に疎い冒険者は蔑まれる雰囲気もあるので、気分的に良く済む可能性も低いのだそうだ。


と言う事で。

国境砦から王国へと続く道の途中で横道に反れる。

この道はエイベン王国内を通っているがほぼ直通で魔導国へと抜けるルート。正式な街道ではなく舗装のされていない土がむき出しのものだが、多くの物がこのルートを使う内に自然に道になったという。

正に人が築いた獣道。

理由の多くは語るまい。


……と言うか、どんだけ避けられてるねん、エイベン王国。


俺は地平線の向こうに有るだろうなその国の姿を見る事無く後にする。

国全体で精鉄をしているからだろう、この一帯が晴天なのにエイベン王国のある方向だけ暗転してると言うか、数多の煙突から登るらしい黒煙で全様が隠されている。

その空気に慣れない余所者の多くは半日経たずに喘息持ちに早変わりとか何とか。


……うん。

寄らん方が良いわな。絶対。



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