15話
急転直下の超展開!……と言う訳でも無いが、俺は自由都市ルビアルテから旅立ち、アビラヒ魔導国を目指す途にいたりする。
今回の移動の理由には、特に深刻なもんが関わってたりという事も無い。
単に、俺が最重要で求める物がアビラヒに有るから。
それだけの話だったりする。
事の起こりは二日前。
オーク肉祭りも一段落し、都市内の住人の生活が何時もの日常へと戻りつつある頃。
俺の脳内ではすっかり豚肉と変換されていたオーク肉。その活用法がこの世界で余りに貧困だった事への憤りが爆発したのが始まりだった。
元々からして、オーク肉は魔物から解体した物では無く、ドロップ品という謎の変質化で得た肉だった。
故に特に保存処理をしなくても腐敗の心配も無い。先人に聞いたところ、ビニールで真空パックされたような状態を解除しない限り10年以上も保存が効くらしい。
で、確実にそれが原因だろうな感じで、保存兼用の下味処理っつー概念も皆無だったりした訳だ。
どおりで塩味かハーブ風の味付け止まりだった筈だよ。塩漬けや砂糖漬け、干物関連の技術は味に凝るとは無縁の保存食技術だ。その段階の概念が浸透してなきゃ、食べて美味いと感じるための応用も発展せんのも当然だよ。
塩っ辛過ぎりゃ塩抜きを必要とするし、そうして出た廃液は再利用するつもりなら、肉の良い出汁のでたスープにもなる。それで野菜を煮込めば簡単なポトフにもなるわけで……、要は調理とは勿体ない精神の体系化な訳だから。
そんな最低限の保存の知識はオーク肉以外の狩猟肉で築いたようだが、ルビアルテでは供給される食肉に新鮮な物が尽きないせいで保存の意識が限りなく低かった。
で、その意識が全ての食材にも反映されて、結果的にオーク肉にも塩塗して焼いただけってのが定番だったのだとか。
こりゃ、どんな味でも人が好みそうなもんなら飛び付いてくる訳だ。
結局、照り焼きだろうが生姜焼きだろうが、作るもんがステーキ一択って部分で俺の完成には正面からケンカ売られたような気分になったのであった。
……まぁ、それで祭りを楽しんでた連中に八つ当たり気分でボコったとは行かないが。
そうして料理のレパートリー増量に燃えかけたまでは良かったが、では自分主導で食の改革に励むのかと考えたあたりで、やっと正気に帰れた。
それって、自分が目立って派手に動く事だよな……と。
確かに、俺は前の世界の味に未練有りまくりなのでこんなチートを貰いはした。
が、別にそれを広めたい訳じゃあ無い。絶対。
むしろ、下手に広めてそれに有象無象に寄られるのが面倒臭い。宴会飯が嫌いとは言わないが、比較しての優先度は確実に独り飯だ。安らぎ無く邪魔されながら食う食事とか絶対に遠慮もんだし。
と言う訳で。
今までは馴染みの店で新メニューの開発をとか考えて動いていたが、なるだけ個人の労力で実にする意識に切り変わった俺なのである。
その第一弾が、肉料理の種類の拡大。
今回は手持ちの大量在庫を活用しような、鳥と豚の合挽き肉の作成。つまり、ひき肉だ。
ひき肉自体は適量の肉を包丁二丁流で叩き切って混ぜる事で簡単に出きる。人によっては両腕が死ぬほどの疲労を抱えるが、問題はその程度だ。
だがなぁ、俺は知ってしまってたり。
先日見つけた魔道具の数々。日本の奥様の多くを、専業主婦は女性の地位向上を妨げる余分な行為とまで思わせる程に簡略化させた、堕落のキッチン用品を思わせる品々を。特に今回注目のミンサーのジャンク品は絶対に新品で完品を入手したいと思ってしまうのが止められない俺だった。
出来るとなったら作りたいし、作ったら食いたいじゃん。肉汁たっぷりのハンバーグ。それもすっかり和風が定番化した類のじゃ無くて、古式ゆかしいステーキに属するやつとか。
そうなるとミンサーだけじゃなくて鉄のプレート皿とかも必須だし。むしろ金網じゃなくて調理用の鉄板自体も欲しくなる。
其れらを鍛冶屋に話したところ、複雑な構造のミンサーは当然、平らで高品質な鉄板は魔道具業者の専門だと匙を投げられたのである。
どうにも、武具以外の鉄製品に偏りが有り過ぎる世界であった。
と言う訳で、俺は都市を出る事となる。
行程としては一度隣国に出てからもう一つ国境を通過しての到着。日数は徒歩にて二週間程度。
正直、遠いのか近いのかの判断もついてない。
移動の予定を伝えたら、冒険者ギルドの担当さんは絶望としか言いようの無い表情で調味料の依頼書を発行してきた。無視しようとしたら「貴方に合わせて冒険者や商人の大移動が起きる」と怖い事を言われたので、妥協するしか無かったわ。
よく街道の整備は国と国との関係に比例すると聞く。道が移動しやすいほど行軍も楽になるから、互いに戦争が絶えない国とは道の整備も命に直結する一大事という訳だ。
勿論、地球での常識での物言いだが。
この地域では既にそう言った物騒な時代は過ぎ去ったようで、互いに侵略を目的にといった戦争はほぼ無くなってのだと冒険者ギルドで聞いている。
代わりに、生産活動の少なくなる冬季に鍛えに鍛えた騎士や兵士を決闘方式で競わせるイベントっぽい戦争なんかはあるらしい。
何と言うか、オリンピックの前身にあたる感じだろうか。スポーツを代理戦争に定義するやつ。
国政に必要以上のダメージを与えないよう暗黙のルールを盛った様式美付きの戦争をって言う概念は紀元前から普通にあった。だがそれでも戦争だ。時折そのルールを無視した焦土戦に傾倒する馬鹿は出るし、一度それが出たら何十年と回復できない泥沼の戦国時代が続く発端になったりもする。
だから其処からもう一段、安全装置の代わりに個人対戦のスタイルで代理戦争っていうのは、多少は為政に理性が効いてるって証明なんだと思われる。
代わりに、互いに共倒れは損だとの意識を強くするのが、太い交易だ。今歩く街道のように約八車線幅の石畳で整備されたもんとなると、自由都市と魔導国の繋がりは相当なもんだと想像できる。
……前情報では、国同士の交易は盛んじゃないとか聞いてたんだがなぁ。
ただその想像を裏付ける証拠は無し。
と言うか、全然見当違いの妄想なのかという気分にもなる。
なんせ誰にも出会わんし。
正確には、都市の近くでは農家の方々と擦れ違ってはいる。
それが国境に近づくに連れて減りまくり。周辺に耕地の雰囲気が無くなったのと同時にほぼ無くなった。
MAPの反応を見ても魔物の反応のみってとこが救いが無い。
……と。この人気の無さは逆に都合が良いのだろうか?
異世界定番の広範囲索敵MAP。普段は危険察知を前提に魔物や敵意ある存在の表示設定にしているが、時折は採集素材の表示も加えたりしていたり。
ゴブリン関係の反応が無くなり普段通りのホーンラビット群生地と化してるし、それが逆に野盗避けの警報装置になってるしで素材の反応をプラスしても問題無さげな気もする。
街道沿いだけに薬草は無いが、何やらの効能は有りそうな香草の反応は有り。現物を見つけてみてちょっと驚愕。
こ……これはっ、この芳しきも野生の世界に危険を知らしめる香りは……っ!?
偶然にも異世界ニンニクをゲットした俺は、今日から飯はニンニク醤油風味の漬け肉三昧だと横道に反れる決意に燃えて、当初の目的を忘れかけるのである。




