14話
トロールとの戦闘から三日。
俺はちょっとばかしのマインドロスになっていた。
自覚は無いんだが、初めての苦戦に精神的なストレスが大きかったんかね?
まぁ、何故か繁忙期で仕事しても仕事しても終わらん記憶とか、新規買い付け先への訪問が、イコール、ライバル先を物理的に弱体化させての威圧営業だった記憶とか、反対にこっちがそういう戦略食らって末端の企業戦士の脳天に鉛玉で応戦とかな記憶とかが夢に連鎖で出て休めなくなっての気力減退ってのは確かなのだが。
ともかく、冒険者ギルドには眼玉を証拠にトロールとの遭遇報告を上げた後は自主的な休養をとらせてもらっている。
いや、別に冒険者に就労義務やノルマがあるわけでもないのだが、気分的に。
一日はただ寝て過ごしたが残りの二日は少し探し物で都市内の探索。
あのDVDっぽい物の再生機器、もしくはPCが存在するのかと調べてみたのだが……残念ながら空ぶりで終わった。
が、しかし。
別の発見は有った。
魔法仕掛けの謎な機械、魔道具の数々。地球の電化製品と似た機能なのは異世界らしい内容と言うか。
ただ、価格は馬鹿高い。大半は中古な上にジャンク品と言う事で、購入してもゴミ確定なので今回は冷かしのみで終了。
気力が少し回復したかなーな感じなのでギルドに顔をだしてみると、どうやら状況に進展があったようだ。
俺が報告した内容に沿ってオークやトロールの警戒付きで行動した事で、被害は最小限な感じで討伐も進んだのだとか。
俺が倒した一体も含めて40体そこらのトロールが片付いたらしく、魔物の全体的な勢いも落ちたそうだ。ベテランの経験談からも、これ以上トロールが大量に残っている様子も無いそうで、後はオークを中心に狩っていけばゴブリンは自然消滅していくらしい。
と言う事で。
俺の冒険者生活は通常運転に復帰の精神で。
なんか気が楽になったんで明日から頑張ろうな気分でキルドを出ようとしたら……なか担当さんが俺を手招きしてるのが見えてしまった。
なんかもう露骨に厄介事な空気を背後に背負ってるんで無視しようとしたら、目に見えて表情が崩壊しかけたり。
大人のそれは余りに憐れで……つい、相手をしたらやっぱり厄介事だったよ。
今回の魔物襲来撃退祝い用の物品納品。
要は、色々な調味料出せやって無茶ぶりだった。
オーク肉の大量入荷も有っての肉祭りになるのは必至って事で、例の照り焼きタレを始め、最近増え始めた新しい味が乱立するのは確実らしい。
ただやっぱりと言うか、その中で美味いと受け入れられたのは極少数。このままだと収集不能の闇鍋状況になって味覚的な中毒祭りと化すんじゃないかと、ギルドの上層部が心配してるんだと。
……正直。
そんなん知らんがなの事態だったり。
が、結局のところ照り焼きタレの在庫が寂しいので不足分の納品は受けた。流石に主役になる物の不足だけはと泣き付かれたので。
まぁ、騒動の種を蒔いたって意識はあるから。
ただ、最近はゴブリンやトロールに対応してて作り置きの在庫も無い。元の素材用のワインを調達する必要もある訳で、後日の納品って事でその場は退散した俺である。
しかし……オーク肉での肉祭りかぁ……。
そう言えば、生姜焼きで食いたいとオーク無双に狂った自分が居たのを思い出した。
タレ自体は照り焼き用の流用が利く。が、やはり食感での不足分が否めない。
でもこれの想像はついてる。生姜の摩り下ろしが再現できりゃいいのだから。
と言うか、流石に生姜似の野菜自体無いんかいなぁとも思う。
市場をぶらつき探してみた。
ありませんでした。
いや、野菜と果物は今までにも市で入手してるので望み薄とは思ってたし。
この世界か地方の常識か知らんが、市場に並ぶ作物関係は都市近隣の農家による露地物になる。当然季節でラインナップは切り換わるし、たぶん冬は市自体が無いのだと思う。
今の季節は夏の終わりってとこか、葉物はホウレンソウに近い感じの物、レタスっぽいやつを中心に、ナスか瓜か判別し難いのやニンジン風の根菜類が並んでいた。
考えてみたら木の根の瘤みたいなもんが野菜認定されてないんじゃな懸念が……。
野菜ってより生薬だもんなぁ……と。
市場の活動時間は朝から昼過ぎにかけて。店を出す連中が都市の外の農家なんで、昼の間に帰るためのスケジュールとか。
念のためと、売りに出さないような自家消費の食菜が有るか、売り子のオバちゃんに聞いてみての情報なり。それによるとキノコや生薬素材も採ってるのだが、そちらは錬金素材として別に卸しているらしい。
もしかしたらと生姜の特徴を言って聞いてみたが、オバちゃんは知らずじまい。
何か他のアプローチをと諦めかけた時に目に入ったのが、クズ野菜。
売り物とは別にされていた「それは」と聞けば、収穫時から外れた育ち過ぎの物という事で、野菜というより植物といった人が食べるには適さない物と言われた。其れらは都市内に居る家畜用の飼料として、今日の売れ残りと共にタダ同然で卸されるのだとか。
で、その中から見つけたのがニンジンもどき。
繊維質が硬めでゴボウに似た感じなので、ある意味、食感だけなら生姜ともとれるかなと……少し齧らせてもらったら、そう思える感じで。
後は下ろし金がこの世界に有るかなのだが、物の用途を伝えて行けと言われたのが木工具の工房。何でも日本の鬼カボチャっぽい野菜の外皮を削る用で道具があるのだそう。
で、現物は。
何と言うか、サメ肌を使ったワサビ下ろしのソレに形だけは近い。
サイズが羽子板なんだけど。
試しに使ったら感じはいい、ただし、うっかり手が触れたら大惨事確実だけど。
ついで素の味と臭気は生姜とは似ても似つかず。こりゃ絶対味改変せんとならんな使命感すら出る始末。
ともあれ其れらを混合し、水気を飛ばして感触だけは調整してのー、味付けしてのー、試食へと。
……うーん、70点ってとこだろうか。
味は俺が好む物の再現なので問題ないが、やはり食感はなー。
作った工程を知ってるせいか、生姜下ろしと言うより紅葉下ろし……いや、感触は大根下ろしに近いか。
ちょっと不満が残る出来。
ただまぁ、毎度の如くギルドの自室に籠もりの独り試食を囲むように、MAP内には新しい調味料を文字通りに嗅ぎ付けた連中が包囲網を狭めるように固めていたり。
結局、食って死んだら自己責任でという、よくそれで買うなな条件のもと、この都市にまた新しい味の侵蝕が始まったのであったりなかったり。




