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13話

此方の怯みを感じ取ったのか、不意にトロールが笑った気がした。岩が皮被ったような表情とは無縁の顔面な癖に、何故かそう感じた。


おう……。

なんかムカついたぞ。


我ながら沸点が低いなと思いつつも、逃げるって選択肢が限りなく小さくなった。

無くなったとは言わない。

無理なら逃げようの精神は消えないよ。当然。


でもこの手長短足野郎を倒す方向で行く事だけは決めた。


一撃の致命傷が自分にも危険なのは解ってるんで最後の手段として。

さっき気づいた免疫と毒耐性って部分に注目する。

解毒が無理なら患部毎切り離すくらいの能力だ。おそらく自分の意識で反応してのつて感じじゃ無いだろう。本能か反射行動なのか、とにかく心臓の鼓動みたいに自分で制御できない機能なんじゃと想定してみる。


じゃあ、その反応を誤動作させてやったらどうだろう?


改めて周囲を確認。

MAP内の魔物の反応でも確認。

オーク無双の効果中で、少なくとも[万色の調味能]で集まって来そうな魔物は直ぐには居なそう。


じゃあ、やってみようかね!


収納から回収済みのオーク肉を出し、味付け開始。

途端にトロールが反応し、瞳から理性が消えて狂った凶暴性を纏っていく。

よく、これから戦闘って時の魔物って鼓舞か威圧のつもりか吠える演出があると思うんだ。案の定、トロールは俺に向けての雄叫びをあげてからの戦闘のつもりだったらしい。大口開けて、「ウガー」とでも叫ぶ気で。

その口の中にオーク肉を投擲。意表を突いた行動に驚いたトロールは反射的に口を閉じ、オーク肉を噛みつぶす。


ほほうっ、今度は別の意味で驚いたね。

狂乱しても味が変化した肉には反応したようだ。

だよねえ、血生臭い塩っ辛さとは違う味だ。

けども、その味に拒絶は無いようだし、これは通じるかね?


再び肉を出す。今度は味改変無しのそのままで。

しかしトロールは、今味わった物と同じと思ったのか今度は肉に視線がロックオン。

それで俺の予想が一つ、この世界でも通じるもんだとの根拠になった。


じゃぁ、本番行ってみようか。


肉を高く放り投げ、トロールの視線を完全に俺から外す。

死角となった方向から地を走り、収納から武器を出す。突いても良し薙いでも良しのハルヴァード。両手斧代わりに最適の重量武器。

振り抜く寸前にこちらも味改変。やっぱり瞬時に反応されたが、流石にインパクト寸前なら避けも防御もさせないっての。


そうして今度の一撃は、骨まで断つのちょっと手前で、トロールの上腕を斬り裂けた。


トロールの絶叫。

上体を振り回し無事な方の腕で俺の迎撃をするが、俺はその場でしゃがんで回避。

その場で自身を旋回させて、今度は太腿の半端をハルヴァードの刃で断ち割った。

後は全力で退避。

やっぱ一撃での必殺は無理だと解ったので自分の想像の結果を確認する。


5mほどの距離をとって見たトロールの傷は……回復しようとはしている。

……が、やったね。当りだよ。


傷口が塞がろうとする反面、同時に弾ける。それが傷口を広げる結果になって、最初のように患部ごと取り除こうとした反応の後に、やはりその部分からまた弾け始めた。


どうやら成功。『辛いのが駄目なら甘いで行こう』な作戦。


毒と薬は表裏一体ってやつなのは知ってて常識な知識。

少なくとも日本人の俺の中では。

毒を薄めて身体に入れれば薬の効果を生み、逆に身体に良いといったもんを過剰に身体に入れれば、逆に毒と同じ効果を生む。

ついでに言えば、味覚のそもそもの効果は栄養は美味い、毒は不味いといった生理反応を感情で表現したもんになる。

例え大好物で美味いと感じていた物でも、限界を越えて食えばそれを美味いとは感じれ無くもなる訳だ。

因みに、その美味いという感情は別の表現では『甘い』とも称される。

天然に生まれる甘味は、その本質が何であれ初見じゃ毒と認識できない代物だったりな訳よ。

なんせ動物の細胞は甘味からの糖を栄養に活性化する。

例えば、損傷した部位が自動的に修繕再生回復のプロセスを始めたならば、その燃料として糖は拒絶無しで取り込もうとするって訳だ。

ただし、過剰に取り込める状況でとなれば、それは細胞が破裂するまで止まらない劇毒って効果になるんだがな。


本来ならば体内から供給される糖の制御でその破裂を防ぐ部分を、患部に直接甘味の大量投入をしてやる事でバランスを崩してやった。

半分以上は想像の中の話だが、再生しようっていう行為自体が自壊に繋がる誤作動だ。トロールの特性自体が自分を壊す効果に化けたのだから、そう簡単には復帰できんと思う訳よ。


……よかったー。

地球の常識が通じて。


どうやら再生が完全に自壊作用へと裏返ったようで、腕の方は「ボトリ」と勝手に千切れて落ちてくれた。太腿の方も徐々に傷口が泡立って抉れるように広がって行く。

おそらくは、自壊した細胞の糖分を隣接する細胞が更に吸収しては自壊しの、無限連鎖になってるんだろう。

外科医療の知識があるなら無事な部分からの切除って感じで誤作動の強制終了も可能だろうが、さて、トロールにその手の知識があるとは……あれ?


動けないながらも、こっち見て怨嗟の眼力を飛ばしてたトロールが突然呆けてぶっ倒れる。

死んだ?

いや、人型の魔物は死んだら塵になるから死んで無いか。

表情のよく見える位置に移動して観察してみても、完全に意識は手放した感じでとだけは確認できた。が、こうなった理由が判らない。


なんだろう。外傷状態の患部しかダメージは受けてない筈なんだが?

もしかて、体内から血流通じて被害が伝播したとか。

いや甘味成分が血に混じってもなぁ。むしろ糖は脳の一時的な活性化に繋がるし……あ、繋がった、からか?


これは完全な想像。妄想と言ってもいい。


トロールは免疫と再生の特性に秀でた魔物だ。

再生を妨げる未知の効果を、トロールは自分の知らない毒の効果と認識し、それに対抗しようとする意識をもった。

その結果が、糖吸収機能の異常抑制。

だがその機能は、患部以外には逆の意味で劇毒だ。

ほんの一瞬で、全身の無事な細胞は活動に必要な栄養が断たれた状態になる。脳の被害は特に甚大だろう。意識など保てる訳が無い。再生への燃料を自分で断ったのだから、後はもう、全身が枯死するのを待つだけだ。

と言うか、脳死に等しい状態だろうし、ただ肉塊として心臓が動いているに過ぎないんだろう。


……なんともまぁ、我ながら恐ろしい殺手段を生みだしてしまったようで。


やっぱり、怖いよねぇ。

糖分の取り過ぎって。


なんか見るに堪えない感じになってきたので、解りやすく首を落としてトドメとしてやった。いやぁ、何時自死するかとか正直待ってらんねーし。


トロールが塵と化した途端に周囲の空気も変化した感じに。

無くなってから、なんとなく悪意の視線に見られていたようなもんが消えたと感じれた。何処となく清涼感のある空気になったというか、そんな感じに?

MAPの内の魔物の反応も密集状態から乱雑化した感じになって徐々に消えて行くような。生の視界内で確認できないので、実際にどうしてそうなって行くかの理由は判らないが、まぁ、魔物が減っていくのなら良しと考えよう。


トロールの居た場所には見事なドロップ品が。

これだけでもう大蛇だよねな巨大な背骨。ソフトボール大の眼球が二つ。加えてそれと同じくらいの大きさの謎の水晶玉。

ついでに、俺としては非常に見慣れた感のある、しかしこの世界に有って良いのかが非常に疑問な、虹色の輝きを放つ謎の円盤。


えっ? これってDVD?

もしくはCD、まさかのBD?

いや、種類はともかく、地球由来の情報端末にしか見えない物だった。

残念ながら、中身を示すタイトルシールは貼ってない。


大物を倒したっていう達成感がそれで全部吹っ飛んだ。

流石に体力的にも疲れを感じ、もう何が有っても帰って休むの精神に。

自分的には完全なボス戦なんだが、考えてみりゃダンジョンのボス部屋に来てのの流れなど全く無かった、ただの遭遇戦である。

今回のトロールが他にも何体居るかすら知らない訳で、正直この後に連戦だな状況は全力で遠慮したい。


そんな感じで、気分はすっかり敗走で、俺は自由都市ルビアルテに逃げるように帰還したのであった。




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