12話
前情報では体格的にオークとそれ程大きさに違いが無い筈だったトロール。
しかし、俺を一撃で殴り飛ばしたそれは、軽くオークの三倍はデカいような異常個体だった。
身長は6~7m。俺のイメージではもう完全に巨人の部類。
ただし、外見の印象としてはゴブリンとダブると言うか……いわゆるディフォルメ体型と言うか……。
胴体以外の他の部位が異様に大きいのだ。例えるならば、実にリアルなB○戦士?
若しくはHGの胴体と脚部にPGの頭部と腕部をミキシングしたガ○プラ?
何となくビルドな戦士の世界では普通に作例として有りそうな感じ。
……何に例えてんだろ俺。
この緊急時に。
まぁ、トロールのぐー殴りで跳ね飛ばされて、強制的にバック転付きの空中浮遊中の俺は、半回転し頭を地面に向けての着地までは何もできんからな内容でもあるんだが。
背中に痛みの感覚が伝わるのと同時に、後追いで背中から色々と硬い何かが砕けたような感触があるのも自覚した。衝撃は腹の側にも来てたので胃からは吐き気が。肺からは呼気が爆発する勢いで出るのが止まらない。
極端に間延びした時間の感覚で、吐き出した胃液やら唾液が赤く染まってなかったのだけは、ちょっとは安心できた部分であった。
つーか、これ。まさか背骨を粉砕されたってやつか? これだけのダメージ貰っての痛覚としては、極端に軽い気がしてんだが。
……あまりに過剰な痛覚は脳の負荷軽減でシャットされるって言うし。
宙を舞った身体が重力に負けて地面へと落ちる。身体は更に回転して、丁度うつ伏せになる形で地面に着地。一応は大の字の姿勢でその場を僅かに凹ませた。
地面とは言いつつも、芝のような下草があったお陰で顔面を土で汚す事は無かった。
非常に青臭い臭気で肺一杯の呼吸にはなったがな。
再び全身に衝撃を貰ったお陰で懸念が晴れた。
一応、背骨がやられたって訳じゃないようだ。正面にも痛みを感じる。麻痺もしていない。身体が勝手に反応して倒れた状況から立ち上がり、トロールの方へと向いてたり。
ああ、やっと解った。
革鎧の胴部分が全損したんか。
背部が砕けて支えられなくなったのか、無事な前面部が足下に落ち「カラン」と転がる音がした。
対して生身の方は……打撲や擦過の痛みは感じてても、それだけだ。
流石はチートなボディってとこか。
一瞬はヒヤっとしたが、安心したわー。
体感時間、空間認識、共に拡張した意識のせいで随分と長い間宙を舞ったと感じたが、現実ではほんの一瞬だったらしい。改めて確認した魔物共の動きは、完全に俺を見失って周囲に視線をやろうとしている流れを緩慢に続けている途中だった。
おお、まだ加速した感覚も継続中と。
おおよそ倍の認識力らしい俺の視界は、スローで動く魔物の動きを捉えている。空飛んだ時に俯瞰できた光景も併せて、近場にはゴブリンがほぼ居なくなりオーク祭りになってたのだと確認していた。そこに一体だけ、あの正体詐称の巨人モドキなトロールが混ざって居る。
少し先の未来を予想して、それらの視線が俺に集中するかと思ったのだが……外れた。
連中の視線が揃った位置は俺から見て左手の方向。走って3秒はかかる辺りの地面。
「何で?」と疑問に思うと同時に解答も得た。斧だ。俺が装備してた両手斧、バトルアックス、激辛チートに染まった悪魔の武器。
ほほう……、なる程ねぇ。
理由はやっぱり判らんが、魔物が[万色の調味能]の産物に、いや、産物だけに反応してるのは確信した。
魔物の関心が完全に俺から斧に固定されたのを確認してから後擦さる。特に反応しないのを認めたらゆっくりと移動して、ただの武器に連中の狂乱が再開したのに合わせて全力で退避した。
逃げる距離は……矢での遠距離に順じよう。その程度あればチート使っても反応しないって安心感あるし。
MAPでの反応も見て敵の層が薄い位置も忘れない。反撃しようとした途端、別の集団を呼び寄せるとか洒落にならんし。
と言うか、そうだよ。先ずは雑魚の殲滅せんと安心できねーじゃん。[万色の調味能]じゃない手段で……ああ、魔術有ったよ。それ使おう。
「オラ標的に立候補っす」な幻聴付きででゴブリン数体が見えたので、遠慮なくテスト。魔術の定番、[火炎弾]!
やっぱ使えねー!!
馬鹿野郎、目の前でダイナマイト使ったような無差別感じゃねーか。
小っさいけどクレーターだよ、フレンドリファイヤどころか完全に自爆だよ。衝撃だけならさっきのトロールパンチ並みだったよ!!
……前に試した時より威力上がっててマジに危険だったよ。
て言うか、本番で覚醒してて上手く行った的な夢見てんじゃねーよ、俺っ。
けれども、それでも諦めきれん感じもあるわけで。
最低でも自爆になり難いやつ。全方位無差別じゃなくて……っ、あ、風!
吹く風、凪ぐ風、薙ぎ払う、風。
[風刃]
次の標的はオレっすねなゴブリンが腹を境に上下に別れた。そこを中心に両側のゴブリン共も分断されていき、端に行くほど腹を凹ませ、折り砕く。ただ吹き飛ばすと威力を減じていった。
血煙りでその存在を証明した無色の刃。1/4円の弧を描いたソレは、無事に俺自身には無害なまま50~60m先まで飛んでった。
……よしっ、これは使える!
相変わらず一発の威力と範囲が可笑しくて普段使いは無理そうだけど、今は使える。
的をオークに変えてみても、有効距離が半分に減った程度で効果は同じ。
[万色の調味能]で局地的に増えすぎた魔物の数を減らす事と、魔術の練習を兼ねて外縁からの殲滅に駆け巡った。
最終的には中心地、あの規格外トロールも含めた集団……まだ両手斧に荒ぶっているのを狙う。
オークは問題無し。
そしてトロールは、残念ながら必死に至る技にはならなかった。
再生能力あったんだねぇ。
攻撃は通るんだけど切れたそばから回復しやがる。
[風刃]の威力が腕や足を分断できればまで違うのだろうが、どうにも骨の切断は無理っぽい。ついでにと言うか、流石に何度も試してたら正気に返ったらしい。鬱陶しいって気分丸出しの反撃を出されて一旦退避。
再生で無効化する攻撃。
ならそれを崩すしか勝ちは無し。
魔術は通じない。いや、風の魔術は通じない。
なら自爆覚悟の火の魔術? 火傷は再生不能?
火傷……火傷。
……炎症!
距離を取る。
トロールの体型のお陰でか追撃の速度は速くない。
[収納]から弓を出す。矢も出す。鏃は、何時も使ってる致死辛処理済みのやつで。
シット!
速射できたが表皮にはじかれた。
弓を長弓に変えてのもう一射。
通った。左の上腕、刺さった途端に見慣れた拒絶反応で腕が震えるのも確認した……が、それだけか。どうやら全身が悶えるだけの効果にはなっていない。トロールが矢を力任せに引き抜いた傷痕には異様な炎症が起きてはいたが……
っ嘘ぉ
炎症部分が肉玉のように膨らんで弾けて、より大きな抉れ傷になったかと思えば再生しやがった。
くっそっ、患部の自己切除とか随分と高性能じゃねえか。
自己再生って言うよりも免疫性能が尋常じゃないって感じなんかね?
異物検知から即応性とか。
こうなると単に火傷を負わせても結果が薄い気がする。患部が炭化とか今より早く再生してきそう。
ダメージが通り難いとなると、攻撃を当てる部分を選ぶしか? 急所、心臓か脳か。頭はデカくて当てやすい。が、頭蓋骨が頑丈そうで無理感半端なし。心臓は……両腕が邪魔だ。たぶん絶対、ガードされて届かない。
後は露出してる弱そうな部分、眼玉か、股間か。
射ってみたが当然のようにガードされた。まぁ、普通に狙われる場所だし。
サイズ的にもトロールは両腕は盾のように使っていて、筋肉の部分には矢も刺さるが関節で骨の部分には平気で弾かれる。免疫性能と言うか毒耐性と言うか、徐々に回復への即応性も早くなってる感じにも。
……ちょっと、これ詰んでる感じかも。
幸いトロールの移動は遅いままだし、早めに逃げた方がいい感じ?




