第7話 人族、やらかしを知る
人族の住む極東のある王国。
国王直属の研究機関にて。
「ついに封印が解かれた……エルフの食欲が!」
報告書を受け取った所長は頭を抱えていた。
「食欲って所長、そんな怯えるほどですか?」
「バッカおまえ! ヤツらの消化能力はそこらの魔物の比じゃないんだ!」
呑気な学生研究員に所長は顔面蒼白で怒鳴る。
「ドラゴンの胃酸だとか、ゴブリンの雑食性なんかとは比べ物にならない……数年絶食しても動けるとか異常生命が過ぎる」
「植物以上のエネルギー効率じゃないですか。光合成でもしてます?」
「魔力で似たようなことしてる。皮膚呼吸で」
「あー……ね?」
研究員も事の重大さを理解した。
ドン引きのあまり語彙が消失するほどに。
「だから先祖はたまたま小食だったエルフやヴィーガンエルフを丸め込んで草食信仰を作ったのだよ……」
元来、エルフは独自の自然信仰や自然との共生を重んじる習性があった。
かつての人族はその習性を利用し、品種改良を重ね、やがてあの森へ住まわせたのだ。
事実上の追放措置として。
「森に隔離すれば、あの凶暴性が数百年後には収まるか、絶滅に至らずとも混血で血が薄くなると思ったら……」
力ない拳が机に叩きつけられる。
「人間より遥かに長命種になりやがってぇ……!」
ダンダンダンダンッ、と小刻みに拳が振り下ろされる。
「侵略すんならせめて根絶やしにしろよォ……!」
「飛竜隊に一斉空撃させれば良かったのに」
「ドラゴンに火ィ吐かせたらエルフが使っちゃうでしょ!!」
「あ、火も使わせないように調教してたんすね」
そんな人族の努力の水の泡。
もはや草食エルフはこの地上にいない。
「責任者呼べ! エルフの森焼いたオークのバカはどこだ!」
「ハッ! タワーダンジョン建設のため現場にいるかと!」
「無責任ディベロッパーが! 開発だけして後の問題はこっちに丸投げだコンチキショー!!」
所長が残り少ない髪の毛を掻き毟る中、扉から研究員が一人飛び込んで来る。
「所長っ、ほ、報告が!」
息を切らす研究員は叫ぶ。
「オーク族が、絶滅しました!!!!」
「……あ?」
「厳密には、事実上絶滅。種族の八割が食い尽くされ、残る二割は家畜化された模様!!」
所長から冷たい汗が噴き出した。
「ば、バカ言え! こんな短期間で食い尽くしただァ!? それに家畜化なんてンな時間――」
「建設中のタワダン内の時間歪みによる影響です。中で数十年の時が流れている間に絶滅したとのこと!」
「なにやらかしてやがるオークの野郎ども!!!!」
タワーダンジョンは冒険者から冒険譚作家、キメラ鑑定士受験生にまで人気の物件。
部屋の中だけ時がゆったり流れる『時間歪み』をオプションで付けるのが最近のトレンドなのだ。
1LDK(1リビングデッド・ドラゴン・昆布茶)まで、部屋の種類も豊富である。
「対策を講じなければ、非常にまずい事態になる……公国研究所へ繋げ! エルフの情報が得られるかもしれん!」
研究室全体が緊急体制に入った。
通信魔術から蒸気式通話装置まで駆使して連絡を取り始める。が、
「オークを食い尽くしたとなれば、次の標的はヒト――」
「つ、繋がりません! 所長っ、西側公国との接続が死んでますっ!」
「くッ、遅かったか……西側諸国は既にエルフの胃の中だ!」
彼らの頭脳や想定を、エルフの食欲が上回っていた。
「国王陛下に繋げ! すぐに連絡差し上げろッ!」
「先ほどからしていまるのですが、一向に応答しません!」
「なにがあった!?」
「お一人で馬車を出されたと! 峠でカーブを攻めるそうです!」
「連れ戻せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」




