第5話 オーク、理解った
「なんてことだ……」
オーク達は思い知った。
いかに自分達が杜撰な地上げを行ったのかを。
タワダン建設の利益に目がくらみ、コンプライアンス違反を犯した事実を。
消えることのない炎で知ることになった。
「森が、俺たちの森が……」
「自分達で都市開発した森が……」
「燃えてるよォ……オレらのコンクリートジャングルが燃えてるよォ」
直方体の建造物が並ぶオークの集落。
建築技術で繫栄した街は見る影もない。
「誰がこんな……いや、ヤツらしかいない!」
「報復に来たんだよぉ、焼いた森のエルフ達が……!」
かつてない恐怖にオーク族は包まれた。
労基への通報やドワーフの産業スパイが紛れた時とは訳が違う。
一族解散の危機を予感していた。
「連中の武器はなんだ!? 矢か? 剣か? それとも魔法か!?」
「そ、それが……」
平オークが双眼鏡を覗き込む。
炎の奥に見えるエルフの姿を、彼はありのまま伝えた。
「火炎放射器ですっ! 連中、火炎放射器を武器にしてます!!」
「……カエンホウシャキ?」
「前に人族がドワーフと作ってたヤツですよ! ワイバーンとかの屁を燃料に袋詰めして火ぃ出すの!」
「あれって雑草掃除する道具だよね……?」
「森もオークも構わず焼いてます!!」
「そんな使い方してんの!? 倫理は?!」
オークは環境破壊や不動産詐欺の常習犯である一方、人権意識が極めて高いことは周知の事実。
「あ、ありえないんですけど……えぇ、焼き殺してんの……?」
喩えるならバーベキュー用の鉄板にショートケーキをブチ撒けるような行為。
殺害など発想すら至らない愚行なのである。
「待て、何かデッカい影も動いてない?」
「アレは――お、丘です! 丘が向かってきてます!」
「いや、アレは丘なんかじゃない……業務用鉄板だ!」
丘ほどの大きさを誇る影は、エルフ達が担ぎ上げた鉄板であった。
「バカなッ!? 巨龍も丸焼きにできるサイズだぞ!」
「芋煮会でも見ない大きさだ。どこの祭りであんな鉄板使うんだ?」
「――待てよ。あの鉄板の素材、見覚えが……まさかッ!」
一流のオークは仕事で用いた建材まで把握している。
「タワダンを溶かして鉄板にしたとでも言うのか……!」
「なにぃ!?」「なんだって!」「なん、だとッ」
オークの社員達は目に涙を溜める。
「ひ、ひでぇ。オイラたちが汗水垂らして焼いた森に建てたタワダン……」
「許せねぇ、許せねぇって。タワダンのために何十世帯追い出したと思ってやがる」
「川に重油ブチ撒いてまで建てたってのに」
「エルフに心はねぇのかよォォぉ!」
屈辱、そして悲哀。
愛するタワダンを焼き払われた、あまつさえ廃品回収でリサイクルするなど精神的拷問。ディベロッパーにとってこれ以上ない苦痛だ。
しかし、悪夢はそこで終わらない。
「おい、なんで……」
鉄板の上に並べられた同胞を、彼らは目撃する。
「俺らの仲間、焼いてる……!?」
「串刺し、踊り焼き、炙り焼き……な、なんだアレっ!」
仲間がプレートで焼かれていく光景。
その異様さを前にしては、嫌でも気づかされる――
アレが調理風景だということに。
「オークを焼いてる、だと? 森を焼いた炎でか!?」
「しょ、正気かあいつら?!」
「クレイジーだ。クレイジーサイコエルフだ!」
「あんな野蛮な連中、どう相手したら……」
「――俺が先陣を切って、交渉に望む」
ネクタイを締める巨漢オークが一人声を上げた。
「しゃ、族長!」
「これで社員と家族を守れるなら、本望さ」
既に社長は腹を切る覚悟を決めていた。
「万一の時は時間を稼ぐ。その隙に逃げろ」
「無茶でっせ一人で!」
「なに、連中だって金が欲しいだろ。そこに漬け込むのさ」
一族存続の危機を何度も乗り越えてきた社長には手札があった。
「金庫と口座の暗証番号、脱税した予算の在り処、株式運用と資産の話で場を持たせるさ」
「そんなお年寄りへの訪問営業じゃないんですから」
「ハッ、昔はそれで業績上げたもんよ。懐かしいなぁ」
ゴリゴリの詐欺師やんけ、という言葉を必死に飲み込んだ部下は社長のたくましい背中を目にする。
「エルフ達よ。煮るなり焼くやり、好きにしろ」
――社長オークは一部の役員だけを連れ、バーベキューエルフの本陣の前に立った。
「エルフの民よ、聞けいっ!!」
その一言を叫んだ直後、彼は深く額を地面に叩きつけた。
一族に伝わる伝家の宝刀『土下座』である。
「す、すまなかった! 地上げのために森焼いたことは謝罪する! 賠償も、衣食住の提供もなんだって……」
「――そんなもの、我々は求めていない」
「ッ!?」
予想外の反応に社長オークは動揺の色を見せる。
「か、金はいくらでもあるぞ?」
「必要ない」
「す、住処はどうだ!? 王都のベッドタウンだし気候も……」
「興味無い」
「あっ、美味い酒! ここらで有名な地酒があるんだ」
「それは貰っておこう」
飯で釣れるのか、と社長の中で光明が差す。
「しょ、食糧だったらいくらでも差し上げよう! 今から食料庫へ――」
「構わない。もう目の前だ」
血走ったエルフの瞳は、謝罪するオークの姿など映していない。
ただ、具材を品定めするのみ。
「ふ、復讐が目的か? せ、せめて憎むなら俺だけに――」
「憎んでなどいない。むしろ我々は、愛している……」
社長オークの肥えた肉の味を想像し、エルフ達は舌なめずりした。
「A5ランクの肉が、目の前にあるんだからな」




