第3話 エルフ、オーク捕らえる
「あのオークの肉を食う、か……フ、フフフ、エルフフフフフ」
「想像しただけで腹が鳴るっすねぇ、族長ォ」
「ナフキンの準備をしておけ。口元がベタベタになるまで食うからな」
焼けた森を後にしたエルフ一行はオークの本拠地を目指し、民族大移動を慣行していた。
「で、どう攻めるんです?」
「ヤツらの集落に奇襲をかける予定だが、その前に試したい事がある」
「試したい事っすか?」
「大切だろう? 味見は」
側近の口がニヤリと綻ぶ。
「当てはあるんですか?」
「ああ。既に若い衆へ先に伝え、ここに向かわせていた」
そのタイミングで族長率いる本隊は、先遣隊に追い付いた。
ナイフとフォークを構えた少数のエルフ達。
彼らはとうにオーク三人を縄で縛っていた。
「流石だ……下ごしらえが早くて助かる」
「たたた、助けてくだせぇ!!」
「い、命だけはご勘弁を……!!」
「あの森で野グソしたり不法投棄してた件なら謝りますから!」
囚われた小汚いオーク達は命乞いをした。
ボロ切れのような衣服からして、森を焼いたオークの一派ではない様子だ。
「みすぼらしいオークっすね。こちらは?」
「我らの森を焼いたオーク一派ではなさそうですね。野党の類かと」
「なるほどなるほど、それは良い」
「これで気兼ねなく、味見ができるだろう!」
「「「……は?」」」
「いやあ手柄だ。戦争となれば諸勢力との対応が面倒だからな!」
「そうですともそうですとも。賊徒であれば突然消えても詮索などされませんから。ええ、ええ」
野党のオークたちはみるみるうちに青ざめ、悪寒に身を震わせていた。
脂の乗った肉がブルブルと揺れる。
「お助け――」
※
「で、焼いたオークがこちらになります」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォッ!!!!』
オークの丸焼きを前にエルフ一同、沸き立った。
こんがり飴色に仕上がった表面。ぷっくりした肉厚ボディ。
エルフが料理というには、その一皿はあまりに次元が違っていた。
「何というビジュアルっ! まるで芸術作品だ」
「ほうほう、腸の代わりに野菜屑や詰め物をしているとは」
「口にリンゴを咥えさせるとは! くぅ~憎いことを。いや、肉いぞ!」
初めて目にする料理であろうと、極上の品であることは匂いとフォルムで分かる。
馳走を前にしたエルフ達は待ちきれず次々と肉へ食らいついた。
「これが、オーク……?」
肉を噛み締めた瞬間、溢れる肉汁と香り高さにエルフの脳は弾けた。
「うっっっっっっまぁぁァァァァァァァ!!??」
柔らかな肉質、軽やかな脂、野性味と旨味のバランスが醸し出すハーモニー。
森の中に転がる言葉では到底形容しがたい味わいの極致にエルフは狂喜乱舞した。
「甘いッ! 脂が甘いぞッ!」
「なん、って味わいの深いっ!」
「とろける触感と脂身で逆にこっちが溶かされる気分だ……」
「ああオークよ、美味しく生まれてくれてありがとう!」
躊躇や罪悪感など微塵もない。
彼らは心からオークの味を楽しみ、食への感謝を抱く。この食事を殺害と捉えるエルフは一人もいなかった。
エルフはすっかりオーク、そしてバーベキューの虜となっていた。
「おい! どんどん焼いていけ!」
「そ、それが族長! 火が小さくてもう消えそうです……」
「何ィ!? 残りの薪は!」
「使い切ってます!」
「足しとけ!!」
エルフは深刻な火力不足に陥っていた。
「いかん。これじゃせっかくのオーク肉が台無しに」
「もっと大きな火力で、かつじっくり調理できれば味も良くなるかと思いますが……」
「うむ……だが油はもう底を尽きそうなんだろ? 市場への買い出しの時間なんて今からは――」
森が、そこにあった。
「なあ、側近よ」
「はいバーベキューちょ……いえ族長」
「思ったんだけど……」
恐る恐る、好奇心が抑えられない子どものように、口元をニヤつかせて族長は尋ねる。
「もう一つぐらい、森焼いても良いよね……?」
――――瞳に炎を映し、彼らは愉快に笑う。
「いやあ、森焼かれた時はどうなるかと思ったけど……」
煌々と燃える森で躊躇なく、オークの肉を炙っていた。
「焼いてみるもんだな、森!」
ついにエルフは、自ら森を焼き始めた。




