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無能と呼ばれた私、実は世界で唯一「魔法を消せる」魔女でした  作者: ななほし


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第二話 私が救った人

「俺は、この国の第一王子だ」


「…………」


 私は、目の前の青年を見つめた。


 第一王子。


 この国の王位継承第一位。


 王都に住む貴族なら、知らない人はいない。


 そんな人物が、なぜこんな森の中で倒れていたのだろう。


「……本当に?」


 思わず聞いてしまった。


 青年は少しだけ眉を上げた。


「疑っているのか?」


「だって……」


 私は青年の服を見る。


 確かに上質な布で作られている。


 胸元には見たことのない紋章もあった。


「王子様が、こんな森の中で倒れているなんて……」


「それについては、俺も説明しなければならない」


 青年は立ち上がった。


 そして、私の前に手を差し出した。


「改めて名乗ろう」


 先ほどまでの苦しそうな表情は消えていた。


「俺はレオンハルト・ルヴェール。このルヴェール王国の第一王子だ」


「……リリア・アーデンです」


「知っている」


「え?」


 私は目を瞬いた。


「どうして私の名前を?」


「アーデン家の娘だろう?」


「はい……」


「有名だからな」


 胸が少し痛んだ。


 有名。


 もちろん良い意味ではない。


 魔力ゼロ。


 無能令嬢。


 きっと王子の耳にも、そんな噂が届いているのだろう。


「……笑わないんですか?」


「何を?」


「私の魔力がゼロだってこと」


 レオンハルト王子は、しばらく私を見つめた。


 そして。


「なぜ笑う必要がある?」


「だって……普通は、魔力がないなんて恥ずかしいことだから」


「誰が決めた?」


「え?」


「魔力が多い者が偉く、少ない者が劣っていると、誰が決めたんだ?」


 私は答えられなかった。


「少なくとも俺は、そうは思わない」


 王子は自分の腕を見る。


 そこには、もう呪いの痕跡すら残っていなかった。


「俺は今まで、多くの魔法師を見てきた」


「……はい」


「だが、あれほど簡単に俺の呪いを消した人間は一人もいない」


 王子は私を見る。


「お前の力は、魔力の量では測れない」


「私の……力」


「ああ」


 その言葉が、胸に残った。


 十五年間。


 私はずっと、自分には何もないと思っていた。


 魔法が使えない。


 家族の期待にも応えられない。


 婚約者にも捨てられた。


 だから私は、本当に「無能」なのだと思っていた。


 でも。


 もしかしたら。


 違ったのかもしれない。


「……王子様」


「レオンでいい」


「無理です」


「なぜ?」


「王子様ですから」


「では俺も、リリアと呼ぶ」


「それは……」


「決まりだ」


 王子は少し笑った。


 初めて見る笑顔だった。


「それより、ここにいては危険だ」


「危険?」


「ああ」


 王子の表情が変わる。


「俺を襲った連中が、まだ近くにいる可能性がある」


「!」


「お前も狙われるかもしれない」


「どうして私が?」


「俺の呪いを消したからだ」


 その瞬間。


 森の奥から、枝を踏む音がした。


 パキッ。


 私は振り返った。


「……誰かいます」


 王子も腰に手を伸ばす。


 しかし、武器は持っていない。


「リリア、俺の後ろへ」


「はい」


 足音が近づいてくる。


 一歩。


 また一歩。


 そして――。


「殿下!」


 森の中から、数人の騎士が現れた。


「レオンハルト殿下、ご無事ですか!」


「遅かったな」


「申し訳ありません!」


 騎士たちは王子の姿を確認すると、安堵したように息を吐いた。


 そして私を見る。


「……そちらの女性は?」


「俺を助けてくれた」


「この方が?」


「ああ」


 王子は私を指差した。


「彼女が俺の呪いを解いた」


「…………」


 騎士たちが固まった。


「呪いを……?」


「ああ」


「しかし、あの呪いは……」


「知っている」


 王子は頷いた。


「だからこそ、彼女を王宮へ連れていく」


「王宮……?」


 私は思わず声を上げた。


「私が?」


「そうだ」


「どうしてですか?」


「お前の力を調べる必要がある」


「でも……」


 私は鞄を握りしめた。


 私はもう、帰る家がない。


 家族から追い出された。


 婚約者にも捨てられた。


 そんな私が王宮へ行ってもいいのだろうか。


「嫌なら無理強いはしない」


 王子が言った。


「ただ、一つだけ覚えておいてほしい」


「……何ですか?」


「お前は無能ではない」


 その言葉に。


 胸が熱くなった。


「お前には、お前にしかできないことがある」


 私は俯いた。


 涙が落ちそうになる。


 慌てて顔を上げた。


「……行きます」


「いいのか?」


「はい」


 私は小さく頷いた。


「私の力が何なのか……知りたいです」


「分かった」


 王子は笑った。


「では、王宮へ向かおう」


     ◇


 馬車に乗ってから、数時間。


 窓の外に、大きな城壁が見えてきた。


 王都。


 私が十五年間暮らしていた場所。


 けれど、今日は今までとは違う景色に見えた。


 馬車が門を通る。


 そして王宮へ続く道に入ったとき――。


「……え?」


 突然。


 私の胸が痛んだ。


「どうした?」


「分かりません……」


 胸元を押さえる。


 痛い。


 でも、怪我をしたわけではない。


 何かが。


 何かが、私を呼んでいるような感覚。


「止めてください」


 馬車が止まる。


 私は窓の外を見た。


 王宮の奥。


 そこには、古びた塔が建っていた。


「あの塔……何ですか?」


 王子の顔から笑顔が消えた。


「あれは……」


 しばらく沈黙したあと。


「誰も近づいてはいけない塔だ」


「どうして?」


「理由は知らない」


「知らない?」


「ああ」


 王子は塔を見つめる。


「何百年も前から、王宮に存在しているらしい」


 私はもう一度、塔を見る。


 すると。


 塔の最上階にある窓が、一瞬だけ光った。


「……!」


 胸の奥が、強く熱くなる。


 そして。


 頭の中に、知らない女性の声が響いた。


『やっと……見つけた』


「誰……?」


 思わず呟く。


「リリア?」


 王子が私を見る。


 私は答えられなかった。


 ただ。


 あの塔から目を離せなかった。


 なぜだろう。


 初めて見る場所なのに。


 ずっと昔から知っているような気がする。


 そして私は、まだ知らなかった。


 あの塔に眠るものが――


 私の力の秘密と深く関係していることを。

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