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渡り鳥は何を運ぶか  作者: 叶 遼太郎


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第十九話

 ユウキが前衛、タイチが後衛を務めながら、箱根島入り口を潜る。なだらかな下り斜面に灯る非常灯が時折点滅して、不安を蓄積させる。

「こいつは」

 小さく、ユウキが呟く。タイチは声も出せなかった。

 箱根島内部は、崩壊していた。建築物は破損していない物が無く、バチン、バチンと火花が散るのは、電線が断たれていることも構わず設定通りに通る電流のせいだ。砕けたガラスを踏みしめながら、二人は前後左右を警戒しながら、箱根島の司令部に向かう。初めて足を踏み入れる島ではあるが、基本構造は同じで、中心に位置する最も巨大な建築物が司令部のある中央だ。

 箱根島も多摩川島と同じく、地下へ行くほどセキュリティが高い構造になっている。地下へはエレベーターと非常階段があるが、電気は通ってはいるものの、エレベーター自体が動くかどうか怪しい。動いたとしても、途中で閉じ込められる危険性もある。ここで一旦アマギに状況を報告し、非常階段から更に地下へと向かう。

「人の気配は、ないね」

 タイチの疑問に、ユウキもうなずく。

「それだけじゃない。死体が一体もない」

「あ、確かに」

 床には血痕や薬莢、刀剣類や鉤爪による切り傷、弾丸や爆破による穴や焼け焦げた跡があった。しかし、ここにかつて存在し、戦ったはずの人間がいない。

「可能性を、挙げていっても?」

 頭の中で情報の整理が追い付かないとき、タイチは口に出したりノートに書いたりして、一度自分の頭から情報を出すようにしていた。アウトプットしたものを改めて精査して、まとめて頭に戻す方がなんとなく正解に近づけるからと癖づいていた。

「言ってみてくれ」

 ユウキも自分の疑問と彼の考えを照らし合わせることにした。

「一、ここでの戦闘は、人類側がかろうじて勝利。しかし、中央含め修繕が困難になったため、ここを破棄。別の島に移動している」

「可能性はある。だが、死体が存在しない理由に繋がらない」

「弔った、とか?」

「襲撃を受けた直後で、それは考えにくい。生き残った人間としては、第二波が来る前にすぐにでも逃げたいはず。酷なようだが、死体の処理をする暇すら惜しむと思う。生きてる者は、生きてる者の対応で手一杯のはずだ」

「時間がかなり経過している、というのは?」

「死体の骨すら残らないほどの時間が経過しているとは考えられない。破壊された建物の劣化具合や、まだ電気が生きていることから、一か月も経っていないだろう」

 なら、一つ目の可能性はなさそうか、とタイチは次の可能性を口にする。

「二、襲撃を受け、人間は全滅した。死体がないのは、何らかの理由で襲撃者が人間の死体を確実に処分、もしくは回収した」

「そっちの方が、可能性は高そうだ。なら、何らかの理由とは?」

「例えば、ワイルド側なら、人間の死体を養分にするため、とか?」

「ん、しかし、理由としては弱い気がする。隠れている人間探し出す労力と、得られる養分が釣り合わない。光合成した方がましじゃねえかな」

 二人は周囲を注意深く見ながら、更に地下へと潜っていく。破損したドアの隙間、ひっくり返った机の裏、色々と物色しているが、特に何も見つかっていない。

「見てくれ。どちらの勢力か知らないが、草の根分けてでも絶対に探し出す、って感じで、奥の奥まで虱潰しにしていったようだ。養分が得たいだけなら他にもっと手軽で確実な方法がある」

「敵にとっては、ここにいる人間を確実に滅ぼさなければならない理由があった」

「と、私が思ってるだけだが」

「いや、君の勘が正解な気がする」

 階段が終わった。最下層に到達。最も重要な物が、ここには保存されていたはずだ。重い防火扉だが、ロックは機能しておらず、力任せに開くことができた。

 最下層には、島全体を把握するための監視カメラ映像を映すモニターや、生産部の備蓄情報、人口やそれに関する電気や水、空気、ガスなどの消費エネルギーを計測し、運営するためのシミュレートする巨大なサーバー等が存在する。中央部で、島で生きる人間を管理していたのだ。

「多摩川島と、配置はさほど変わらないな」

 入り口にある案内図を見て、ユウキが言った。

「司令部内に入ったことがあるの? 確か、機密が多いから普通は入れないって聞いたんだけど」

「一回だけ特別にな。知り合いがいるもんで。それに、Aチーム出身者は運送チームを引退後、司令部へと再就職する人間が多い。それまでに色んな所を移動した経験や知識を買われてな」

「なるほど。地図すら不確かなこのご時世、道や外の状況を知っている人は貴重だ」

「そういうこった」

 あれ? とユウキが足を止めた。

「どうしたの?」

「いや、建物内のマップと、相違点がある」

 引き返し、入り口のマップを見る。

「うん、やっぱり」

 戻ってきたユウキの視線の先には、崩れた壁の先に廊下があった。

「あれ、マップにはないぞ」

「隠し通路、ってやつか?」

「かもな」

 慎重に隠し通路を進む。行きついた先は、八畳ほどの部屋だ。真っ白な壁、破損し散乱するビーカーや薬品容器、オペで使用するような器具類のせいで、どことなく研究室を思わせる空間になっていた。その中で二人の視線をひきつけたのは、壁際にある巨大なカプセルだった。大きさは大体百五十センチほどで、子どもや小柄な女性ならすっぽり入れそうだ。二人の目を引いたのは、そのカプセルの中にある複数の配線だった。二人には、見覚えがあった。

「これ」

「ああ、リンネの背中に繋がっていた配線に似ている」

「もしかして、ここがアダチ所長の研究所、ってこと?」

「かもしれないし、違うかもしれない」

「というと?」

「ここでしていた研究が大本の本家筋で、アダチの野郎は別条件下での研究、のれん分けしたとか」

「なるほど。なら、ここの方が長い事研究してたから、敵に見つかる可能性が高かった、ってことかな」

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