第二十話
「おい、どうなってる」
焦った声音で、アダチがアマギに詰め寄った。
「なぜ箱根島に入らない。何があったんだ」
「落ち着いてください。説明しますから」
掴まれた胸倉からやんわりとアダチの手を離す。
「先ほど、先行したユウキたちから連絡が来ました。箱根島は襲撃を受け、壊滅。中に人影はなく、中央にある司令部も被害を受けているとのことです」
「何だと! では、まさか司令部地下も」
「そこまではわかりません。現在二人が調査しています」
「な、なんてことだ。まさか、どうして。しかし」
呟くアダチの目は、アマギの方を向いているが、見えてはいない。全く別の何かについて危惧している。
「アダチ所長。ここに一体何があったのですか」
「貴様らが知る必要はない」
「お言葉を返すようですが、説明していただいた方が所長にとって益になると思いますが」
アダチがアマギを見た。
「どういう意味だ?」
「先ほども言った通り、箱根島は壊滅しています。島が襲撃を受けて壊滅するなど、きわめて異例、前代未聞と言っていいでしょう。が、ここで気になるのは、我々は前代未聞の出来事にこれで二度、遭遇したことになるんです」
「二度?」
「そうです。一度目は言わずもがな、私たちの輸送車が迷彩を施しているにもかかわらず、敵に見つかったことです。そして今回、人間にとって最重要拠点である島が襲撃された」
「何だ? 貴様、この期に及んで私の責任を追求しようというのか?」
「いえ、そうじゃないんです。僕たちは、なぜこれまで襲撃を受けたのか、その原因を探るべきなんです」
ここに到達するまで、他のメンバーと原因究明するために意見交換をしていた。その中でタイチが気にしていたのは、やはり最初、アオバに位置がばれていた原因だ。
「確認なのですが、アダチ所長は定期的にリンネの入ったケースを開けてたんですよね」
「そうだ。定期的に薬を打つ必要があるからな」
「それは〝アオバと遭遇する前〟にも?」
「当たり前だ。体調を安定させるために必要な処置だからな。小休止ごとに行っていた」
「じゃあ、やはりおかしい」
思案顔になるアマギ。
「何がおかしいんだ」
「つじつまが合わないんです。そんなに前からキャリーケースを開け閉めしていたというなら、もっと前からアオバなり他のワイルド勢力に発見されていたはずです」
「なんだ。では、私の責任ではないという証左ではないか」
「いえ、それはないです。敵の目的がリンネであることに間違いはありません」
「だったら、一体何が言いたいんだ」
「我々が危惧しているのは、我々、というよりも、島内部に裏切者がいるのではないか、ということです」
何を言われているのか一瞬理解できなかったアダチは、フリーズから一転当惑する。
「馬鹿な。そんなことをして何の意味がある。自分の首を自ら絞めるようなものではないか」
「そうなんです。そうなんですけど、そう考えるとしっくりくることもあります」
内部からの密告があれば、輸送車のルートも把握できる。近年、想定外のところで敵が現れるという報告があるが、それが原因ではないのか。それに、アダチは自分の首を絞める行為と言ったが、その行為を率先して行った者たちに会ったばかりだ。
「自然回帰派の殉教者、いえ、元々そう呼ばれていた人たちと区別し、アオバたちのような存在を狂信者と呼称しましょうか。過酷な自然の中で生きることを覚悟したのではなく、取り込まれ、尖兵となってしまった者」
「あのアオバとか言った連中の仲間が、島の中にいたという事か?」
「ええ。彼の親を名乗ったイツキも言っていました。外での生活に限界を感じた者が少なからず存在して、近くの島に助けを求めたと」
「まさか、そうやって内部に入り込んだ?」
「可能性の一つです。しかし、それなら説明がつくんです。輸送車のルートを知ることも、アダチ所長の研究も、箱根島で何が行われていたか知ることも」
その時、アマギの通信機にユウキからの連絡が入った。地上に戻ってきたらしい。箱根島司令部内の調査報告だった。
「何かわかったのか」
「はい。敵は、司令部内をかなりくまなく調べ、隠し通路まで発見していたそうです」
その報告を受けたアダチの顔が蒼白になった。
「そ、そこに、何か残っていなかったか!?」
「ちょっと、落ち着いてください。何かって何ですか?」
「何でもいい。資料でもパソコンでも、こいつの残骸でも」
そう言ってリンネを指さす。言動の端々にリンネを人として扱っていない
「ユウキが言うには、何も残されていなかったそうです。特に気になったのは死体すら発見されていないという点。これはおそらく、リンネと似た子どもがここにもいた、ということですよね。敵は彼女たちの存在を完全に消すために、徹底して人を襲った」
「そんな。これでは計画が」
「マテリアルの今は使われていない通信設備を乗っ取る、という?」
「その通りだ。この箱根島では、私と同じように研究を行いながら、利用できるマテリアルの施設を秘密裏に探していた」
「だから、何か資料がないか確認していたんですね」
「先日、別件で箱根島から多摩川島に来た輸送チームが、司令部あてにマテリアルの施設を見つけたと報告してきた。ただ、内容が内容だけに、直接ここにきてから詳細を明かされる予定だった」
「ここでその施設の位置情報が手に入る手はずだった」
力なくアダチが頷く。同情はできないが、傷つき倒れた者、失われた命にどう顔向けすればいいのかアダチもまた肩を落とす。そんな時、再びユウキから無線が入る。
「何だって?」
思わず聞き返す。アダチが顔を上げた。
「位置情報が、残っていた?」




