01-24
人化の腕輪を手に入れた次の日。
リアルでの諸々を済ませた後ログインした私を迎えたのは、出掛ける準備を既にし終わったローバの姿だった。
既に陽は高いところまで登っている。
かなら待たせてしまったらしく、彼女は分かりやすく膨れていた。
「もうー、遅いー」
「ごめんごめん」
謝りつつ、少し考える。
ログアウト中もアバターは残るらしく、“寝ている”という扱いになるようだ。
今後は少し気にしないとな、と思う。
寝ている間は無防備だ。何も起きないよう用心するに越したことはない。
「もう。反省してるの?」
ローバの呼びかけで思考が戻る。
反射的に返事をしたが、そういえば彼女には言葉が伝わらないのだった。
言語の壁の不便さを一日ぶりに体感する。
人類種語の体得は急務だった。
ローバと昨日の内に取り決めておいた了承の合図を見せる。
グッドの形だ。
彼女はそれを見て、嬉しそうに笑った。
家にはローバの姿しかない。
恐らく既にバーバラさんは家を出ているのだろう。
「あ!師が、これを被れって」
そう言って渡されたのは、フードだった。
現在人化している私だが、異形度4では完全人化にはならないようで、頭部が鴉のままだ。
昨日その点に気付いた時は少し凹んだ。
これで人類種語が話せたのならどうにかなったかもしれないが、あいにくと喋れないのである。
なまじ首から下は人間な分、全身鴉よりも酷いかもしれない。別ゲーで言う、鳥人間のような見た目だ。
そう落ち込む私を憐れんだのか、バーバラさんが対策を練ると言ってくれてたのだが……。
フードを受け取り、装着する。
片腕が無い為なかなか思うように付けられず、ローバに手伝って貰った。
そのままローバを見る。
彼女が私を見ることしばし。
「ふふふ……ウォー、変な人みたい……」
堪えきれなくなったのか、遂に笑いが漏れる。
……ですよね。
これでは完全に不審者だ。
だが、これ以上どうすることもできない。
腹を括り、ゆっくりと立ち上がる。
バランスが取りづらい。
そのままローバの案内で玄関まで来る。
丁寧にもサンダルのような靴を用意してくれていて、それを履いた。
そのまま外に出る。
「!」
約半日ぶりの外には、たった2日で飽きるほど見た緑以外の色で溢れていた。
目と鼻の先には外壁があり、遠くには検問の行列が街道に続いている。
「……ウォー?どうしたの?」
立ち止まった私を心配したのだろう。
ローバがそう気にかけてくれるが、私は初めて見る人里に興奮して何も言えなかった。
「そろそろ行くよ、間に合わなくなっちゃう」
彼女に促されるまま街へと入り、裏道へ出る。
検問は通っていない。
バーバラさん宅は外壁の外にあるが、一々街へ入るのに検問を通るのは面倒な為、勝手口を通る事を許可されているのだという。
身元改めされなくてよかった。
今この姿を見られたら、ただ事では済まない。
バーバラさんが居るのならともかく、ローバには弁明は荷が重いだろう。
街は賑やかだった。
表通りの喧騒が裏道まで聞こえてくる。
玄関口である検問からしばらくは、街の顔である商業区となっているようだ。
「こっち」
道を進むにつれ、ローバの顔色が暗くなってくる。
これから葬儀なのだ、それも近しい人の。
パッと見、10〜12歳ほどに見えるローバ。
恐らくこれが、初めての葬儀のはずだ。
そうして案内されたのは、白塗りの木材で建造された教会のような場所だった。
周囲にほかの建物はなく、広い敷地の奥には墓地が建っている。
恐らく教会兼墓地になっていて、孤児院の役割も兼ねているのだと思う。
人死にに宗教が関わるのは現実でもある事だ。
「……」
フードを目深に被り直す。
ローバの後ろを着いて、敷地内へと足を踏み入れた。
快晴だった空にはいつの間にか暗雲が広がり、今にも一雨来そうだった。
Tips:孤児院
少なくともエドバンズでは、教会が孤児院を兼ねている。この世界の孤児はその殆どが早死するが、だからといって見捨てられていいわけでは無いのだ。
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