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SilentRoseQuest  作者: 石食み
第1章
31/33

01-24

 人化の腕輪を手に入れた次の日。

 リアルでの諸々を済ませた後ログインした私を迎えたのは、出掛ける準備を既にし終わったローバの姿だった。

 既に陽は高いところまで登っている。

 かなら待たせてしまったらしく、彼女は分かりやすく膨れていた。


「もうー、遅いー」

「ごめんごめん」


 謝りつつ、少し考える。

 ログアウト中もアバターは残るらしく、“寝ている”という扱いになるようだ。

 今後は少し気にしないとな、と思う。

 寝ている間は無防備だ。何も起きないよう用心するに越したことはない。


「もう。反省してるの?」


 ローバの呼びかけで思考が戻る。

 反射的に返事をしたが、そういえば彼女には言葉が伝わらないのだった。

 言語の壁の不便さを一日ぶりに体感する。

 人類種語の体得は急務だった。

 ローバと昨日の内に取り決めておいた了承の合図を見せる。

 グッドの形だ。

 彼女はそれを見て、嬉しそうに笑った。


 家にはローバの姿しかない。

 恐らく既にバーバラさんは家を出ているのだろう。


「あ!(センセイ)が、これを被れって」


 そう言って渡されたのは、フードだった。

 現在人化している私だが、異形度4では完全人化にはならないようで、頭部が鴉のままだ。

 昨日その点に気付いた時は少し凹んだ。

 これで人類種語が話せたのならどうにかなったかもしれないが、あいにくと喋れないのである。

 なまじ首から下は人間な分、全身鴉よりも酷いかもしれない。別ゲーで言う、鳥人間(バードマン)のような見た目だ。

 そう落ち込む私を憐れんだのか、バーバラさんが対策を練ると言ってくれてたのだが……。


 フードを受け取り、装着する。

 片腕が無い為なかなか思うように付けられず、ローバに手伝って貰った。

 そのままローバを見る。

 彼女が私を見ることしばし。


「ふふふ……ウォー、変な人みたい……」


 堪えきれなくなったのか、遂に笑いが漏れる。

 ……ですよね。

 これでは完全に不審者だ。

 だが、これ以上どうすることもできない。

 腹を括り、ゆっくりと立ち上がる。

 バランスが取りづらい。


 そのままローバの案内で玄関まで来る。

 丁寧にもサンダルのような靴を用意してくれていて、それを履いた。

 そのまま外に出る。

 

「!」


 約半日ぶりの外には、たった2日で飽きるほど見た緑以外の色で溢れていた。

 目と鼻の先には外壁があり、遠くには検問の行列が街道に続いている。


「……ウォー?どうしたの?」


 立ち止まった私を心配したのだろう。

 ローバがそう気にかけてくれるが、私は初めて見る人里に興奮して何も言えなかった。


「そろそろ行くよ、間に合わなくなっちゃう」


 彼女に促されるまま街へと入り、裏道へ出る。

 検問は通っていない。

 バーバラさん宅は外壁の外にあるが、一々街へ入るのに検問を通るのは面倒な為、勝手口を通る事を許可されているのだという。

 身元改めされなくてよかった。

 今この姿を見られたら、ただ事では済まない。

 バーバラさんが居るのならともかく、ローバには弁明は荷が重いだろう。


 街は賑やかだった。

 表通りの喧騒が裏道まで聞こえてくる。

 玄関口である検問からしばらくは、街の顔である商業区となっているようだ。


「こっち」


 道を進むにつれ、ローバの顔色が暗くなってくる。

 これから葬儀なのだ、それも近しい人の。

 パッと見、10〜12歳ほどに見えるローバ。

 恐らくこれが、初めての葬儀のはずだ。


 そうして案内されたのは、白塗りの木材で建造された教会のような場所だった。

 周囲にほかの建物はなく、広い敷地の奥には墓地が建っている。

 恐らく教会兼墓地になっていて、孤児院の役割も兼ねているのだと思う。

 人死にに宗教が関わるのは現実でもある事だ。


「……」


 フードを目深に被り直す。

 ローバの後ろを着いて、敷地内へと足を踏み入れた。

 快晴だった空にはいつの間にか暗雲が広がり、今にも一雨来そうだった。

 

Tips:孤児院

少なくともエドバンズでは、教会が孤児院を兼ねている。この世界の孤児はその殆どが早死するが、だからといって見捨てられていいわけでは無いのだ。


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