01-12
「は……?」
予想に反し、兎女子の動きが止まった。
ダメ元で話しかけた事が功を奏したか。
「もしかして聞こえてます?」
続けて話す。
試行回数を増やしていくしか無かった。
もし戦闘になったら勝てる気がしない。
「ふざけてるの……?」
だが、どうにも様子がおかしい。
彼女の体からは、驚きの紫がオーラとして見えてくる。
「いえ、ふざけている訳ではなく、これはなんというか、そう、異種族間の奇跡の対話!みたいな……」
「……」
ふと、嫌な想像をしてしまう。
もし、彼女の驚きが、会話ができる驚きではなく、会話が出来ない驚きだとしたら――
「なんで昨日みたいに喋らず、そんなに鳴いてるの……?」
答えは、小さな呟きだった。
そしてまた出てくる、昨日という言葉。
私には会った記憶が無いのに、相手は会ったと言っている不可思議な状況。
考えられるのは、私が会ったことを忘れているか、相手が人違いしているかぐらいだ。
……もしかして昨日紅狐様に助けられた所にいた、とかだろうか。
だがやっぱり話が通じていないようで、話ができない。
「……参ったな」
「っまた……、どこまで人をバカにすれば気が済むの?」
まずい。
完全に勘違いされている。
ここは逃げよう。戦略的撤退だ。
そう思い、彼女を一瞬睨みつける。
「……」
やはり見覚えのない顔だ。
直ぐに転身し、走り出す。
昨日と違い、石碑は崩れている。前を阻むものは無い。
「……待て!」
彼女も、まさか私が逃げ出すとは思わなかったのだろう。
一瞬の間が開き、走り出す音が聞こえる。
やはり見逃しては貰えないようだ。
「……マイ!」
後ろで声が聞こえる。
次いで激痛。
視線を向けると、左肩に矢が刺さっている。
「ナイス!」
「ありがと!こっからは普通に援護するから!!」
もうひとつ女声が響く。
どうやら待ち伏せされていたようだ。
だが、ここで止まる訳には行かなかった。
それでは昨日の二の舞になってしまう。
激痛を堪え、前に進むしか無かった。
チェイスは続く。
2度3度と矢を交し、森を駆ける。
射線を切るように意識して逃げるが、さすがにきつくなってきた。
いくら慣れてきたと言っても、それは正常時の話だ。
被弾率が上がっていく。彼我の距離が縮まっていく。
「決めちゃって!ユーナ!!」
そして遂に、兎女子の間合いに捉えられる。
「死ね!ケインズさんの仇!【衝撃拳】!!!」
拳が振り下ろされる。
結局、昨日の焼き直しになってしまった。
初の死亡だ、さすがに怖い。
思わず目を強く瞑る。
「GIGA?」
ふと、うめき声が聞こえる。
いつまで待っても来ない衝撃に、恐る恐る目を開けてみると、先程まで私を追いかけていた兎女子を頭から丸呑みにせんと咥えている竜と目が合った。
「は?」
「え?私、食べられ……」
そのまま、勢いよく顎が閉じられた。
入り切らなかった下半身が地面に落ちる。
流れ出した血が、急速に赤い池を作り出していた。
ぐちゃぐちゃと咀嚼音が響く。
弱肉強食を体現するかのような佇まいに、身が竦む。
竜はゆっくりと飲み込むと、こちらの方を見て、ニチャァ、と笑った。
「ユーナ?」
Tips:竜
惑星アーノルドには竜と龍が存在する。その内の竜の方の定義は、所謂口から火を吐き、双翼で空を飛ぶ爬虫類を大きくした姿、だけではない。
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