01-08
ユーナ視点です。
捜索は難航した。
ただでさえ鬱蒼と茂っている森の中を、しかも夜に捜索しているのだ。
見つけるのは至難の業だった。
報酬に釣られて来た冒険者達も、あまりにも手応えの無さから今では消極的だ。
夜の森は歪だった。
最初、私は根っからの都会っ子だったので、夜がこんなにも暗くなるのかと驚いた。
だが、その驚きは進むにつれ、別の物に上書きされていく。
まずは音。
そこかしこで小さな音が断続的に響く。かと思えば地鳴りがしたり、遠吠えが聞こえたり。
また、音と連動するように時々何かに見られているような錯覚が続くのだ。
だが、周囲に目を凝らしても生き物はいない。
これら一つ一つは大したことでなくても、積み重なれば不安が募っていく。
今や、士気は最悪だった。
「人っ子一人居ないぞ」
「アンデッドの気配も無い。見間違いじゃないのか?」
「おい、もう帰ろうぜ」
黙々と歩いていた冒険者達が口々に不満を垂らし始める。
そのあまりにもな堪え性の無さに辟易した。
彼らの頭にはもう捜索対象である2人のことすらないのだろう。
「お嬢ちゃんも、もう引き返したらどうだ?」
「いえ、私は、まだ」
善意から同行してを申し出てくれたケインズさんがそう提案してくる。
だが、私は帰る気は毛頭なかった。
「その熱意は買うが、流石に時間が経ちすぎた。彼らの肩を持つ訳じゃないが、これ以上の捜索は危険だ。二次被害にあっては元も子も無いだろ」
その言葉には普段の彼の飄々とした態度とは違い、真剣さが含まれていた。
だからこそ、私も真剣さで返す。
「だけど、今もマルクとスタッドは助けを待っているはずです。もう少し、もう少しだけですから」
「……しょうがねぇな」
しかし、それから数十分経っても、2人の姿はおろか、目撃したという魔獣の姿すら無い。
つい先程まではしていた物音もすっかり止み、今は不気味なほど静かだ。
衣擦れと吐息の音のみが小さく木霊する。
「ちっとんだ無駄足だったぜ」
「全くだ。さっさと帰ってりゃ良かった」
冒険者達は悪態をつきながら方向転換。
既に夜の帳が降りてから、かなりの時間が過ぎていた。
「嬢ちゃん、さすがにもう無理だ。これ以上は行けねぇ」
「そんな」
「いつの間にか結構な奥地まで来ちまってる。これ以上行くと本当に帰れなくなっちまう」
「でも」
なおも食下がる私の肩を優しく叩き、ケインズさんは目線を合わせる。
「それに、嬢ちゃんももう限界だろ。無理は禁物だ」
確かにその通りだった。
しばらく前から足が張ってしまい、歩くのがやっと、といった状態。
慣れない森の獣道は、思ったよりも体に負荷をかけていたらしい。
「……わかり、ました」
だからこそ悔しかった。
あれだけ大口を叩きながら、結局見つけられずじまいだった。
「何、まだ可能性はある。流石に無責任に生きてるとは言いきれねぇが……明日の朝、もう一度探しに来よう。な?」
「そう、ですよね」
そうやって励ましてくれるケインズさんの顔をよく見れば、薄らと汗をかいている。
どうやら私に合わせて、無茶をしていてくれたらしい。
そんな事にも気付かなかった私は、自分の身勝手さに震えた。
「ケインズさん、わざわざ私のわがままに付き合ってくださってありがとうございます」
「その言葉は無事に帰ってからな」
ケインズさんはどこまでも優しかった。
Tips:入らずの森
奥深くに食人鬼がいるだとか、堕ちた神が封じられているだとか、色々な噂が飛び交う場所。現地人でこの場所に入るのは、スネに傷を抱えた者か、よっぽどの理由がある者くらいだろう。
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