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魔女のいらない空  作者: 週休七日


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4/8

魔女のいらない飛行機

 何度かの夏と冬が過ぎた。


 機械は、少しずつ、ただ落ちるだけのものではなくなった。


 短く滑空できるようになった。

 傾きを直せることが増えた。

 直せないときも、どこを間違えたか、以前よりわかるようになった。


 それでも、地面は近かった。


 私には、それが恐ろしかった。


 エドは低いところで試し、悪い風の日は飛ばず、何度も地上で確かめた。


 それで十分だと、頭では理解していた。


 けれど、彼が機体に体を預けるたび、私は最初の日を思い出した。


 折れた木。

 破れた布。

 宙に投げ出された、両手。



 その秋の試験で、機体は大きく傾いた。


 右翼が下がった。


 エドが姿勢を戻そうとした。


 戻らなかった。


 私は飛んだ。


 翼の先をつかんだ瞬間、木が掌に食い込んだ。機体の全部を支えることはできない。それでも、傾きをほんの少し戻すことはできた。


 機体は、地面をかすめるように進んだ。


 最後に滑走部分が土へ突き刺さり、止まった。


 エドはしばらく動かなかった。


 私は機体に駆け寄った。


「エド」


 彼が顔を上げた。


「今、触ったね」


 私は頷いた。


「……少しだけ」

「どこから?」

「傾いてから。翼の端を」

「そうか」


 彼は手帳を開いた。


 私は、苛立った。


「まだ書くの?」

「今のうちに」

「少し飛んだでしょう」

「途中までね」

「最後まで落ちなかった」

「君がいたからだ」


 その言葉は、褒め言葉の形をしていた。


 けれど、彼は記録の端に、大きな線を引いた。


 外部からの補助あり。

 以後の計測は採用しない。


「失敗ってこと?」

「機体の試験としては」

「私は、成功させたのよ」

「君は、僕を助けたんだ」


 エドが顔を上げた。


「ありがとう。そこは間違えたくない。だから、飛行の成功とも一緒にしたくない」


 私は掌を握った。


 刺さった木片が痛かった。


「私がいればいいじゃない」


 風が、破れた布を鳴らした。


「私が支えれば、もっと飛べるわ。最初から私が手伝えば、こんなに何年もかからなかった。あなたたちの大好きな、早くて、確実な方法でしょう」


 エドは何か言いかけた。


 私は続けた。


「誰より先に飛びたいんでしょう。だったら、私を使えばいいじゃない」


「それじゃあ、君がいなくなったら飛べない」


「いなくならないわよ」


 言ってから、私は口を閉じた。


 そんな約束をするつもりではなかった。


 彼も、それを聞くつもりではなかったらしい。


 少し長く、黙った。


「……僕がいなくても造れて、君がいなくても飛べるものにしたいんだ」


 エドは、壊れた翼へ目を戻した。


「その飛行機に、魔女はいらない」


 私はゆっくり、手を下ろした。



 帰り道、私は空を飛んだ。


 機械より速く。

 鳥より高く。

 あの男が何年かかっても届かないところまで。


 冷たい風が頬を叩いた。


 町の灯りが小さくなった。


 私は、自分がまだ圧倒的に勝っていることを確かめたかった。


 けれど、どれほど高度を上げても、修理屋の窓が見えなくなったところで、それ以上行きたい場所はなかった。

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