魔女のいらない飛行機
何度かの夏と冬が過ぎた。
機械は、少しずつ、ただ落ちるだけのものではなくなった。
短く滑空できるようになった。
傾きを直せることが増えた。
直せないときも、どこを間違えたか、以前よりわかるようになった。
それでも、地面は近かった。
私には、それが恐ろしかった。
エドは低いところで試し、悪い風の日は飛ばず、何度も地上で確かめた。
それで十分だと、頭では理解していた。
けれど、彼が機体に体を預けるたび、私は最初の日を思い出した。
折れた木。
破れた布。
宙に投げ出された、両手。
その秋の試験で、機体は大きく傾いた。
右翼が下がった。
エドが姿勢を戻そうとした。
戻らなかった。
私は飛んだ。
翼の先をつかんだ瞬間、木が掌に食い込んだ。機体の全部を支えることはできない。それでも、傾きをほんの少し戻すことはできた。
機体は、地面をかすめるように進んだ。
最後に滑走部分が土へ突き刺さり、止まった。
エドはしばらく動かなかった。
私は機体に駆け寄った。
「エド」
彼が顔を上げた。
「今、触ったね」
私は頷いた。
「……少しだけ」
「どこから?」
「傾いてから。翼の端を」
「そうか」
彼は手帳を開いた。
私は、苛立った。
「まだ書くの?」
「今のうちに」
「少し飛んだでしょう」
「途中までね」
「最後まで落ちなかった」
「君がいたからだ」
その言葉は、褒め言葉の形をしていた。
けれど、彼は記録の端に、大きな線を引いた。
外部からの補助あり。
以後の計測は採用しない。
「失敗ってこと?」
「機体の試験としては」
「私は、成功させたのよ」
「君は、僕を助けたんだ」
エドが顔を上げた。
「ありがとう。そこは間違えたくない。だから、飛行の成功とも一緒にしたくない」
私は掌を握った。
刺さった木片が痛かった。
「私がいればいいじゃない」
風が、破れた布を鳴らした。
「私が支えれば、もっと飛べるわ。最初から私が手伝えば、こんなに何年もかからなかった。あなたたちの大好きな、早くて、確実な方法でしょう」
エドは何か言いかけた。
私は続けた。
「誰より先に飛びたいんでしょう。だったら、私を使えばいいじゃない」
「それじゃあ、君がいなくなったら飛べない」
「いなくならないわよ」
言ってから、私は口を閉じた。
そんな約束をするつもりではなかった。
彼も、それを聞くつもりではなかったらしい。
少し長く、黙った。
「……僕がいなくても造れて、君がいなくても飛べるものにしたいんだ」
エドは、壊れた翼へ目を戻した。
「その飛行機に、魔女はいらない」
私はゆっくり、手を下ろした。
帰り道、私は空を飛んだ。
機械より速く。
鳥より高く。
あの男が何年かかっても届かないところまで。
冷たい風が頬を叩いた。
町の灯りが小さくなった。
私は、自分がまだ圧倒的に勝っていることを確かめたかった。
けれど、どれほど高度を上げても、修理屋の窓が見えなくなったところで、それ以上行きたい場所はなかった。




