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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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詰所にて

 翌日。

 巡回の休み時間で、僕は詰所の椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。

 僕の脳裏には、あの瞬間が焼き付いていた。


 ユノが僕の頬に触れ、涙を流し、嗚咽混じりに声をあげたときのこと。


 ──ユノは、人に会いたくないわけではない。


 何か、深い事情がある。

 昨日の様子を思い返す限り、それだけは確かだった。

 僕は、ユノをあの部屋から出してあげたい。

 ならば、ユノが『ああなってしまった』原因や事情を知ることが、彼女を部屋の外へ導く鍵になる。


 ……けれど。


『でも、この石を取るなら、一つだけ約束して欲しいの』


『絶対に……こうなっちゃった理由を聞かないで』


『あの子も……思い出したくないことだと……思うから……』


 昨日、母親のウララさんはそう言っていた。

 本人の口からも語るべきではない、重すぎる過去があったのだろうか。


 ──難しいな……


 今日はとにかく、ユノともう一度話がしたい。

 今の彼女と、少しでも仲良くなりたい。


「どうしたものかな……」


「先輩?」


 ぼそりとつぶやいた僕の声に反応し、メイナが顔を覗き込んでいた。

 心配そうな眉の角度がほんのり下がっている。


「なんか考え事してますね。どうかしたんですか?」


「うーん……実はね? ちょっと仲良くなりたい人がいるんだけど、久しぶりに会う人で、なかなか話のネタが……」


「仲良くなりたい人……?」


 ぽくぽくぽく……


 チーン


「……!! サイ先輩、もしかして好きな人でもできました!?」


「……へ?」


「あの女っけのなかった先輩が……!! ついに!?」


「いやなんでよ。すーぐそういう色恋沙汰に結びつけるのやめなよ」


 本当に今どきの若い子はこれだから困る。

 1歳差だけど。

 メイナがギャイギャイ騒いでいると、巡回に行っていたシュウ先輩が帰ってきた。


「おーい、もう巡回交代の時間だぞー」


「あ! 聞いてくださいシュウ先輩! サイ先輩についに彼女ができそうなんですよ!」


「だから違うって! 人の話を聞いてくれる!?」


「いやその話も気になるがまず巡回に行ってくれる?」








 巡回から帰ってきた後、僕はシュウ先輩とメイナにユノのことを相談していた。

 もちろん、部屋から出られないとか、そういう余計なことは言わずに。


 シュウ先輩は僕の話を聞きながら腕を組んで唸った。


「久しぶりに会う、仲良くなりたい女の子ねぇ……」


「そんなの普通に話せばいいじゃないですか? 『久しぶり〜最近どうだった?』って」


「いやぁ、あんまり最近のこととか、身の内話とかよくなくて……」


「……?? なんですかそれ?」


 メイナは僕の話に首を傾げる。

 それはそうだ。

 でも話せないことが多いから仕方ない。


「シュウ先輩、よくナンパしてるじゃないですか。なにかそういうテクニックとかないですか?」


「そうだな……俺はよく『相手が好きなこと』から入るかな」


「好きなこと……?」


「あぁ。例えばカフェが好きな子なら好きなコーヒーの種類でも適当に言って、『暇だったら飲みに行こう』ってカフェに誘えるだろ?」


「……」


 ──それでそう簡単にうまくいくものかね? 


 僕が訝しんでいると、メイナがシュウ先輩に嫌悪感むき出しな顔を向けた。


「うわぁ……シュウ先輩ってほんとに手慣れてそうでイヤですね……昨日飲み会に誘わなくて正解でした」


「なんだよ。別にいいだろ俺がナンパする分には」


「やめてください。私の友達良い子なので。それで? 久しぶりに会う子の好きなことってなんですか?」


「……好きなこと……」


 ──ユノの好きなことか……


 昔の記憶を掘り起こすが、魚釣り勝負を死ぬほど挑んできた記憶が強い。


「勝負……とか?」


「ファイターかなんかですか?」


「おいおい、騎士が一般人と戦うのはNGだぞ」


「あーいえいえ、そうじゃなくて、昔その子とよく魚釣り勝負をしてたので……」


 僕が誤解を解くと、メイナは嬉しそうに手をポンと叩いた。


「へぇーいいじゃないですか! 魚釣り! 一緒に行けば良いんじゃないですか?」


「あぁー……いや……それが難しくて……」


「……? なんでですか?」


 部屋から出れないことはなるべく言わない方がいいだろう。

 こうなってくると相談も難しくなってくる。


「まぁ、別に魚釣りじゃなくてもいいと思うが、他に何か好きなことないのか?」


「待ってください……ちょっと6年前のことなので……うーん……」


 必死に昔の記憶を引っ張り出す。

 他に何か言ってなかったか? 

 ユノが好きなこと、または嬉しそうになにかを……


「……ぁ」





『サイにはサイの素敵なところがいっぱいあるわ!』






「……ありがとうございます。ちょっと、やってみます」


「何か思いついたみたいだな」


「はい」


 しかし間に合うか……? 

 時刻を見るともうお昼だ。

 これから急いで用意しないといけない。


「ちょっと急ぎます。今日はもう上がりますね」


「おぉーお疲れー」


「頑張ってきてくださーい」


 2人の声援を受け、僕は繁華街に向かって走った。

 ユノがどれだけ昔と変わっていたっていい。

 これから、ユノと、新しい関係を繋いでいければ良いのだから。

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