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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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結界

 ──部屋から、出て来れない? あの、ユノが?


「な、なんの冗談ですかウララさん……」

 

「……」


「だ、だって、あのユノですよ? 大魔導士になるって、夢に向かって一生懸命な、あの、ユノが……」


 目を閉じずとも、鮮明に思い起こせる。元気一杯で、努力家で、周りを巻き込んで光り輝く、太陽のような少女を。冗談にしか思えなかった。


「今、2階の自分の部屋にいるわ」


 それでも、ウララさんは続けた。ウララさんの瞳は、冗談を言っているのではなく、本気の悲しみに満ちていた。


「もう……私も3年くらい、あの子の顔を見れてないの……」


「3年……!?」


 僕は思わず立ち上がった。ウララさんが言っていることに理解が追いつかない。


「……さっき、冷蔵庫から音がしたでしょ?」


「は、はい……」


「あれはユノが食べ物をテレポートさせた音なの」


「……たべ、ものをテレポート?」


「食事だけじゃなくて、トイレも、お風呂もそう。体を綺麗にする魔法、物体をテレポートさせる魔法、それらを駆使して、あの子は部屋から出ないで生活しているの」


「……は……」


 ──なんだ、それは? どうして? なんで?


 心の中で必死に否定しても、ウララさんの表情がそれを許さなかった。

 受け入れられない。


 あの天才が、世界を閉ざしている?


「……どうして」


 声が自然とこぼれ落ちた。


 僕は頭の中の言葉を吐き出すように、ウララさんにぶつけた。


「どうして、そんなことになってしまったんですか?」


 僕がいない間に、いったい何があったんだ。


「それは……」


 問い詰める僕に、ウララさんは唇を震わせ、何度も言葉を飲みこんだ。


「……ごめんなさい。詳しくは、話せないの……」


 前のめりになった体から急に力が抜けたのか、僕は背もたれに寄りかかった。


 なんで?


 彼女の笑顔は、まだ脳裏に焼きついたままだ。君は、もっと高みへ登っているのではなかったのか。3人しかいない、伝説の大魔導士。次の伝説は、君じゃなかったのか?


 あの輝きは、どこに消えてしまったっていうんだ。


 あの天才が、こんなところで引きこもっているという事実。それがなんでか、許せなくて、やるせなくて。


「……この上ですね?」


「……え?」


 この上に、ユノが。


「待ってサイ君!」


 ウララさんの静止を聞かず、僕の体は動いていた。


 階段を上がると、3つ部屋があった。どこがユノの部屋がわからない。でも、関係ない。一つ一つ……


 僕が最初の部屋のドアノブに手をかけた瞬間


 バヂィ!!!


「……!」


 衝撃が走って、手が弾かれた。


「これは……結界……?」


 この部屋にだけ、強力な結界が張られていた。僕が困惑していると、ウララさんが震えた声で言った。


「ユノは、部屋に誰も入れないように結界を張ってるの……入ることはもちろん、声も届かないわ……」


「……」


 まさか、ここまで……


 こんなに外の世界との関わりを拒絶するくらいのことが、君にあったっていうのか……


「サイ君」


 振り向くと、ウララさんは真剣な瞳で、僕を見ていた。


「……ユノに、会いたいのね」


「はい」


 思うより先に、言葉が出ていた。


「あの子は何年間も人に会ってないのよ? いきなり訪ねたら、もしかしたら動揺して攻撃してくるかも……」


「それくらい自分の身は守って見せます。だてに何年間も騎士学校で修行してないので」


「……」


 僕の答えを聞いて、ウララさんは少し目を伏せた。


「ついて来て」


 ウララさんは僕に背を向け、階段を降りる。僕も、その背中についていった。












 一階のリビングにあった押入れ。その奥の奥に入っていた箱を取り出した。


 その中に入っていたのは、緑色の光を帯びた小さな石だった。


「これは……」


「『バリアキャンセラー』よ。これを持っていれば、あの子の作った結界をすり抜けられるわ」


 ──バリアキャンセラー……聞いたことある。たしか持っていると、対応している結界を素通りできるっていう……


「高名な魔導士に、あの子の結界を解析してもらって、作ってもらったの」


「これを持っていれば……ユノに、会える……」


 ウララさんはバリアキャンセラーを僕へと差し出す。


「でも、この石を取るなら、一つだけ約束して欲しいの」


「……はい、なんでしょうか」


「絶対に……『ユノがこうなっちゃった』理由を聞かないで」


「……」


『こう』なった理由。それは部屋から出られなくなった理由ということか。


「あの子も……思い出したくないことだと……思うから……」


「……わかりました」


 2階の部屋——その扉の向こうにいる、ひとりの少女の姿が、ぼんやりと浮かぶ。


 ──ユノ


 世界を、自室の中に閉じ込めてしまった幼馴染。


 その扉を開けに、僕はバリアキャンセラーを手に取った。

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