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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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6年ぶりの出会い


「ウララ……さん?」


「……? 申し訳ありません、どこかで……?」


 呼びかけに、彼女は小さく首を傾げた。自分の名前を呼ばれても、すぐには僕に気づかない。


「ほら、僕ですよ。サイです。サイ・クロスフィールド」


「……! サイ……くん?」


「こんにちは。お久しぶりです」


「ひ、久しぶり……ど、どうしてここに?」


 驚きに目を瞬かせるウララさんに、僕も動揺しながら答える。


「えっと、僕実は騎士になりまして……この町で勤務しているんです。1年くらい前から」


 ――まさか、こんなところで再会するなんて。胸の奥がざわめいた。でも……


 僕はウララさんの姿を見る。


 久しぶりに会ったウララさんは、雰囲気が少し変わっていた。

 長い前髪が右目を覆い、残る左目だけが静かにこちらを見つめている。肩はほっそりと痩せ、落ち着いた雰囲気はあるものの、どこか影を纏っていた。

 昔はもっと明るくて、キラキラしていた方だったような気がする。


「持ちますよ」


 荷物でふらつく彼女に、自然と手を伸ばす。


「い、いえ、大丈夫よ。ありがとう。そ、それじゃあ……」


 そそくさと立ち去ろうとするが、やはり足元がおぼつかない。僕はすかさず腕を支えた。


「こんなに多い荷物、女性ひとりじゃ大変ですよ。持たせてください」


「……ありがとう」


 その声は、少し頼りなく響いた。

 僕は半ば強引に荷物を受け取り、並んで歩き出す。


 ……成長した自分のせいか、それとも彼女が変わったのか。

 かつて大人びて見えたウララさんの姿が、今は少し小さく感じられた。







 ***


 閑静な住宅街の一角に、控えめながら品のある一軒家があった。

 低木の垣根に囲まれ、石畳の小道が玄関へと続いている。手入れの行き届いた家は、どこかしんと静まり返っていた。


「……」


 ユノは大魔導士になると言っていたのだから、このような田舎にはいないだろう。ご主人は、僕が幼い頃に他界していた。ウララさん1人で住んでいるのだろうか。


「あ、ありがとうね。荷物、運んでくれて……」


「い、いえいえ、これくらい、大したことないです」


「……」


「……」


 玄関前で、言葉が途切れた。

 重たい沈黙が、じわりと広がる。

 ここで僕が「それじゃ……」と言えば終わりなのだろうが、僕はここでウララさんと別れたくなかった。


「「あの……」」


 同時に声が重なり、互いに目を逸らす。


「あ、ご、ごめんね? どうぞ……」


「い、いえいえ、ウララさんの方から……」


「「……」」


 胸の奥に、どうしても聞きたい思いが渦巻いていた。

 ユノは今、どこで、どんなふうに生きているのか。この6年間で、どれだけのことを成し遂げたのか。

 再びの沈黙に、ウララさんは困ったように、笑った。


「あがってく……?」


「……! はい!」


 こうして僕は、6年ぶりにウララさんの家へ足を踏み入れることになった。






 案内されたリビングは整然としていて、清潔感と静けさに包まれていた。

 ウララさんが席を勧めてくれ、僕は丁寧に腰を下ろす。


「あらためてありがとうね……荷物、運んでくれて。本当に助かったわ」


「いえいえ、こちらこそ。飲み物までいただいてしまって……」


 差し出されたカップから、やさしい香りが立ちのぼる。ほんのり甘く、どこか懐かしい草花の匂いだった。


「いい香りですね。市販のものですか?」


「ううん……庭で採れるの」


 ウララさんの表情が、わずかに緩む。


「そうなんですね……ハーブって、けっこう育てるのが難しいって聞きますけど」


「風の通りさえよければ、意外と丈夫なの。もしよかったら、お土産に少しあげよっか?」


「いいんですか? ありがとうございます」


 短いやり取りだったけれど、室内に流れる空気が、すこしだけ柔らかくなった気がした。

 お茶を一口すすると、体の奥まで染み込むような温かさが広がる。


「……! 美味しい……」


「そっか。お口にあってよかった」


 ウララさんは嬉しそうに、少し笑顔を見せる。


「騎士に、なったんだね」


「は、はい。全然まだまだ未熟者ですけど……」


「そんなことないよ。さっき会った時、一瞬サイ君だって気づかなかったもの」


 ウララさんはカップを置き、肘をついて微笑みながらこちらを見つめた。


「こんな立派になったんだね……あの時の子どもが……」


 ウララさんに褒められると、少しだけ照れくさい。前と雰囲気は違うけれど、その微笑みは、あの頃のままだった。僕の世話を焼いてくれた、あの頃のウララさんだ。


 ウララさんと自然と話せて安心しつつ、僕は1番聞きたいことを聞くことにした。


「あの、ユノは今どうしているんですか?」


「……!」


 僕がそう聞くと、ウララさんの肩が、震えた。


「ゆ、ユノ……は……」


 ――ガタン!


「……?」


 冷蔵庫から、大きな物音がした。さっき買い物したものが落ちちゃったのだろうか?


「あはは……びっくりしましたね。たくさん買うと、たまにこういうことありますよね」


「……」


 けれどウララさんは顔を伏せ、悲しみに濡れたまま動かない。


「……ウララさん?」







「ユノはね……この数年で色々あって……部屋から出られなくなっちゃったの」








「……え?」


 耳に届いた言葉の意味が理解できなかった。

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