6年ぶりの出会い
「ウララ……さん?」
「……? 申し訳ありません、どこかで……?」
呼びかけに、彼女は小さく首を傾げた。自分の名前を呼ばれても、すぐには僕に気づかない。
「ほら、僕ですよ。サイです。サイ・クロスフィールド」
「……! サイ……くん?」
「こんにちは。お久しぶりです」
「ひ、久しぶり……ど、どうしてここに?」
驚きに目を瞬かせるウララさんに、僕も動揺しながら答える。
「えっと、僕実は騎士になりまして……この町で勤務しているんです。1年くらい前から」
――まさか、こんなところで再会するなんて。胸の奥がざわめいた。でも……
僕はウララさんの姿を見る。
久しぶりに会ったウララさんは、雰囲気が少し変わっていた。
長い前髪が右目を覆い、残る左目だけが静かにこちらを見つめている。肩はほっそりと痩せ、落ち着いた雰囲気はあるものの、どこか影を纏っていた。
昔はもっと明るくて、キラキラしていた方だったような気がする。
「持ちますよ」
荷物でふらつく彼女に、自然と手を伸ばす。
「い、いえ、大丈夫よ。ありがとう。そ、それじゃあ……」
そそくさと立ち去ろうとするが、やはり足元がおぼつかない。僕はすかさず腕を支えた。
「こんなに多い荷物、女性ひとりじゃ大変ですよ。持たせてください」
「……ありがとう」
その声は、少し頼りなく響いた。
僕は半ば強引に荷物を受け取り、並んで歩き出す。
……成長した自分のせいか、それとも彼女が変わったのか。
かつて大人びて見えたウララさんの姿が、今は少し小さく感じられた。
***
閑静な住宅街の一角に、控えめながら品のある一軒家があった。
低木の垣根に囲まれ、石畳の小道が玄関へと続いている。手入れの行き届いた家は、どこかしんと静まり返っていた。
「……」
ユノは大魔導士になると言っていたのだから、このような田舎にはいないだろう。ご主人は、僕が幼い頃に他界していた。ウララさん1人で住んでいるのだろうか。
「あ、ありがとうね。荷物、運んでくれて……」
「い、いえいえ、これくらい、大したことないです」
「……」
「……」
玄関前で、言葉が途切れた。
重たい沈黙が、じわりと広がる。
ここで僕が「それじゃ……」と言えば終わりなのだろうが、僕はここでウララさんと別れたくなかった。
「「あの……」」
同時に声が重なり、互いに目を逸らす。
「あ、ご、ごめんね? どうぞ……」
「い、いえいえ、ウララさんの方から……」
「「……」」
胸の奥に、どうしても聞きたい思いが渦巻いていた。
ユノは今、どこで、どんなふうに生きているのか。この6年間で、どれだけのことを成し遂げたのか。
再びの沈黙に、ウララさんは困ったように、笑った。
「あがってく……?」
「……! はい!」
こうして僕は、6年ぶりにウララさんの家へ足を踏み入れることになった。
案内されたリビングは整然としていて、清潔感と静けさに包まれていた。
ウララさんが席を勧めてくれ、僕は丁寧に腰を下ろす。
「あらためてありがとうね……荷物、運んでくれて。本当に助かったわ」
「いえいえ、こちらこそ。飲み物までいただいてしまって……」
差し出されたカップから、やさしい香りが立ちのぼる。ほんのり甘く、どこか懐かしい草花の匂いだった。
「いい香りですね。市販のものですか?」
「ううん……庭で採れるの」
ウララさんの表情が、わずかに緩む。
「そうなんですね……ハーブって、けっこう育てるのが難しいって聞きますけど」
「風の通りさえよければ、意外と丈夫なの。もしよかったら、お土産に少しあげよっか?」
「いいんですか? ありがとうございます」
短いやり取りだったけれど、室内に流れる空気が、すこしだけ柔らかくなった気がした。
お茶を一口すすると、体の奥まで染み込むような温かさが広がる。
「……! 美味しい……」
「そっか。お口にあってよかった」
ウララさんは嬉しそうに、少し笑顔を見せる。
「騎士に、なったんだね」
「は、はい。全然まだまだ未熟者ですけど……」
「そんなことないよ。さっき会った時、一瞬サイ君だって気づかなかったもの」
ウララさんはカップを置き、肘をついて微笑みながらこちらを見つめた。
「こんな立派になったんだね……あの時の子どもが……」
ウララさんに褒められると、少しだけ照れくさい。前と雰囲気は違うけれど、その微笑みは、あの頃のままだった。僕の世話を焼いてくれた、あの頃のウララさんだ。
ウララさんと自然と話せて安心しつつ、僕は1番聞きたいことを聞くことにした。
「あの、ユノは今どうしているんですか?」
「……!」
僕がそう聞くと、ウララさんの肩が、震えた。
「ゆ、ユノ……は……」
――ガタン!
「……?」
冷蔵庫から、大きな物音がした。さっき買い物したものが落ちちゃったのだろうか?
「あはは……びっくりしましたね。たくさん買うと、たまにこういうことありますよね」
「……」
けれどウララさんは顔を伏せ、悲しみに濡れたまま動かない。
「……ウララさん?」
「ユノはね……この数年で色々あって……部屋から出られなくなっちゃったの」
「……え?」
耳に届いた言葉の意味が理解できなかった。




