協力者
『恐怖症を治すためにはまず焦らないことだ。魔法で軽傷を治すこととは訳が違う』
『本当に少しずつ、時間をかけて人間に慣れていくしかない』
『軽いものから慣れていくしかないだろう』
『そのためには君以外の人間の力を借りなければ不可能だ。協力者が必要となるだろう』
『君の知人の中で信頼に置ける人間に事情を話したまえ。協力者に仕立て上げるのだ』
「……うそ……」
詰所の中、メイナの呆然とした声が、部屋の中に響いた。
僕はダイ先生の助言の通り、最も信頼できる知人に事情を話した。
メイナと、シュウ先輩だ。
「まさかユノさんが、そんなことになっていたとはな……今までのユノさんの話を聞いて違和感はあったが、色々と合点がいったぜ」
「すいません、急にこんな話を……」
「……」
メイナは僕の話を聞いて、顔を青ざめて動かないかった。
「……メイナ? どうかしたのか?」
「い、いえ、なんでもないです……」
僕の言葉に首を振った後、メイナはハッとしたように口を開いた。
「な、なんか今までユノさん関連のことで、失言とかしてませんよね!? 『さっさとデート行けよ』とか、『いつまで惚気てんだよ○すぞ』とか!」
「いや言ってないけど……そんなふうに思ってたのか……」
別にそこまで惚気てなかったと思うが、なんでそんなに心が荒んでいるのか。
「それで……今まで隠していたのに、今になって俺たちにその話をして、何がしたいんだ?」
椅子に座ったシュウ先輩が腕を組んで僕を見据えた。
「……ユノを、外に出したいんです」
今でも、鮮明に思い出せる。
幼い頃のユノの元気溌剌な声、自信に溢れた表情。
「ユノは、太陽みたいな奴だったんです」
彼女は、光り輝いていた。
「『私が1番輝いてるでしょ!』って感じで、いつも元気に笑ってる、そんな奴でした。そんな太陽が、光ることをやめてしまったんです」
───でも
「ユノは……3年ぶりに、外の世界に出たがってるんです」
ずっと、ずっと、自分の世界に閉じ込められていた太陽が、もう一度、輝きを取り戻そうとしてる。
「僕は……ユノにまた、輝いてほしい。外に出て、心の底から、また、太陽のような笑顔を見せてほしいんです。でも、僕1人の力だけじゃダメなんです。だから……お願いします」
僕は2人に頭を下げた。
「見返りはなんでもします。2人の力を貸して欲しいです」
僕の言葉を、2人は黙って聞いていた。
「頭を上げな、サイ」
シュウ先輩の、少し不機嫌そうな声が僕の頭に届く。
「ようやく、話してくれたか。おまえが背負っているものを」
「僕が、背負っているもの?」
「あぁそうだ。俺たち付き合いはもう騎士学校の時から数えて5年になるだろ。正直、お前の印象は、一緒に過ごしていても『よくわからん奴』っていう感じだ」
「え、なんで急にサイ先輩の悪口言い始めたんすか」
「黙っとけ大切なことなんだよ」
茶々を入れたメイナをシュウ先輩はピシャリと抑える。
「それはな、お前が、どこを見ているかずっとわからなかったからだ」
「……!」
確かに僕は、ユノのことを誰にも話したことがなかった。
騎士になろうとした理由も。
『ユノの隣に胸を張って立ちたい』という理由を。
「誰にも心のうちを打ち明けなかったお前が、俺たちに話してくれている。だから俺は今、心の底から嬉しいんだ」
少しだけ、シュウ先輩の頰が緩んだ。
「でも、俺は怒ってもいる」
そう言った先輩の目が、僕を見据えた。
「俺たちは騎士だ。この町に住む人たちの安寧を護るのが、俺たちの役目だ。でも、その前に、俺はお前のことを可愛い後輩で、そして友人だと思っている」
僕の瞳に映る先輩の目は、昔と変わらない、頼りになる瞳だった。
「見返りなんて言うなよ。お前が頭下げて頼んでることだ。喜んで協力するぜ」
「シュウ先輩……」
「私もですよ! っていうか、頼るのが遅いですよ! なんでもっと早く言わないんですかそれ!」
「ぐぇ! め、メイナ……苦しい……!」
メイナも怒ったように頬を膨らませて僕の胸ぐらを掴んだ。
「で、サイ」
シュウ先輩の声で、メイナは僕から手を離して、2人ともに僕に向き直った。
「俺たちは何をすればいい?」
「ありがとう……ございます」
もう一度、頭を下げた。
僕は、本当に良い友人をもったものだ。




