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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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必要なもの

 この町に、私とユノが引っ越して、数ヶ月経った。


 ユノは、部屋から出られなくなった。

 扉を開けることも、しなくなった。


 私はずっとユノの心を治すために一生懸命できることを探した。

 病気、魔法、呪い。

 専門家の人とも会ったり、本で調べたり。

 できる限りのことを。


 それでも、何の成果も得られなかった。


『ユノ……失礼するわね』


 ノックをして、部屋に入っても、返事はない。

 手に持った夕食を、机の上に置いた。


『今日のご飯、ここに置いておくわ……』


 私が部屋に入ると、ユノは決まって、布団にくるまる。

 私の顔を見ないように、声も聞こえないように。


『ユノ……』


『……!』


 私が声をかけると、布団が跳ね上がった。

 その隙間から覗かれた目が、私を捉えた。

 その瞳は、確かに私に怯えていた。


 ユノがいなくなった2年間、無事を祈らない日はなかった。


 ユノが無事で帰ってくるなら、私なんかどうなっても良いと思った。

 毎日毎日、血眼になって探して、いろんなところに顔を出して、頭を下げて。

 ようやく見つけ出して、救い出されたはずなのに。


 ──どうして、私の娘が、いったい何をしたというの?

 こんなに苦しまなきゃいけないことを、ユノがしたというの?


 涙が出そうになった。


 ──私は、苦しんでいるこの子のために、何ができるの?


 どうしても、ユノを助けたくて

 娘の苦しみを、少しでも無くしてあげたくて

 その体を、私の娘を、もう一度抱きしめたくてあげたくて

 私は、無意識に、手を伸ばしてしまった。


『……!! いやぁ!!!』


 その瞬間、ユノは暴れ出した。


 しまったと思った時には、もう遅かった。

 私の手を弾いて、手当たり次第の周りの物を私に投げた。

 本、枕、布団、ペン。

 周りのものがなくなったら、魔法を使って遠くの物を投げつけてきた。


『大丈夫よ! ユノ! お母さんは味方だから! ずっと、ずっと!』


『い゛や゛ぁ!!!』



 ボッ!!!


 ジュウウウウ!!!



『あぁッ!!!』


 私の顔は焼かれた。

 ユノの魔法によって。

 その様子に我に帰ったかのように、ユノはハッとした。


『あ……ま、ママ……』


『だ、大丈夫よ……このくらい……!』


 苦しんではいけない。

 

 この子の苦しみは、こんな痛みよりも何千倍も酷いんだから。

 私はユノに向かって、精一杯笑顔を作って見せた。


『お母さんはずっと……貴方の、味方だから……それを、忘れないで……』











「私の過ちは、あの子に、私を、攻撃させてしまったこと」


 その声にあるのは、後悔と失意だった。


「私の顔に、あの子が残した傷がついてしまった」


 ウララさんは火傷の跡を、そっと撫でた。


「どれだけの高等な治癒魔法でも、治せないと言われたの」


「……! そんな……」


「これからもしあの子が、部屋の外へ出られるようになったとしても、この傷は一生残る。もしあの子がこの傷を見たら、なんて思うと思う? 私と顔を合わせるたびに、どんな気持ちになると思う?」


 ウララさんの声が、涙混じりのものに変わった。


「あの子に……合わせる顔がないの……私が、傷を受けてしまったばかりに……」


「……」


 そこで、僕は思い出した。


 初めて、ユノの部屋を訪れた時、不審者同然の僕に、ユノは攻撃をする寸前で止めた。


 僕はよく止めることができたなと思っていたけど、きっと、お母さんを傷つけてしまった記憶があるから、攻撃を止めることができたんだ。


「私には……何もできない……あの子が苦しんでいるのに……声をかけることもできない……触れることも……視界に入ることすら……」


「ウララさん」


 涙を流すウララさんの言葉を遮るように、僕は名前を呼んだ。


「約束します。僕が必ず、ユノを部屋の外へ連れ出して見せます」


 僕の宣言に、ウララさんは顔を上げた。


「そして、外に出ることができた暁には、堂々と、ユノに会ってください」


「……でも、私の顔は……」


「大丈夫」


 顔なんて関係ない。

 綺麗な心だった。

 顔に火傷を負っても、娘を思い続ける、傷一つない心だった。


「部屋を出た後、ユノが真っ先に望むのは、貴方と邂逅です」


 ユノが部屋を出た時、その綺麗な心のままで迎えてほしい。


「その時は、逃げずに、まっすぐユノを見つめて、両腕を広げて、抱きしめてあげてください」


「……!」


「『辛かったね』って、『よく頑張ったね』って……『会いたかったよ』って……『大好きだよ』って、言ってあげてください」


 そう、だって……


「ユノに1番必要なのは、あなたのその言葉なんですから」


 僕の言葉に、ウララさんは涙を流しながら頷いた。


 この3年間、彼女は母の愛を受けることができなかった。

 この3年間、この人は娘に愛を与えることができなかった。


 娘は母を攻撃してしまい、謝罪にも行けず、自分を責めた。

 母は娘に攻撃させてしまい、娘の気持ちを思い、自分を責めた。


 それぞれが罪悪感に押し潰されながら、それでも愛に飢えていた。


 ──この2人を、絶対にもう一度、会わせなきゃいけない。


 ウララさんはテーブルの向こう側で泣き続けた。

 僕はその姿を、ただただ見守っていた。

 

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