過ち
僕は部屋を後にし、ウララさんに今日あったことを全て話した。
『ユノが、部屋の外に出たいと決意したこと』
『過去の事件について、僕も知ったということ』
「ありがとうございます。僕の身の安全のために、黙っていてくれていたんですね」
「ううん……王都の騎士団の方々にも、くれぐれも今回の事件について他言してはならないと、念を押されていたから」
ウララさんはそこまで驚いていない様子だった。
僕をあの部屋に連れてきた以上、いつかはこうなると思っていたのだろう。
「……本当に、いいの? 組織について知った人は、襲われる危険性があるのよ?」
「はい。覚悟の上です」
ウララさんは僕の言葉を聞いて、瞳を揺らした。
「正直に言うとね、あの日サイ君を家に招いたのは、苦肉の策だったの」
ウララさんは俯いて、涙を拭った。
「ユノを元に戻すために、いろんなことを試して……でも、全部上手くいかなくて……それでも、子どもの頃、ずっと一緒にいたサイ君なら、ユノを、外へと連れ出してくれるんじゃないかって……」
そう、思えばあの日、僕とウララさんが偶然町中で出会った日。
ウララさんは僕を家へと招き入れた。
僕にこの状況をどうにかしてほしいという願望もあったのだろう。
「でも、その結果、サイ君を巻き込んでしまった……本当に……ごめんなさい」
そう言ってウララさんは頭を下げた。
「頭を上げてください。僕もユノに会いたかったのは事実ですから」
ウララさんも、いっぱいいっぱいだったのだ。
ユノを助けるために、藁でも縋る気持ちで僕に頼ったのだろう。
でも、僕の心の中には一つだけ疑問が残った。
「……ウララさん、ユノと、何かありましたか?」
ウララさんはバリアキャンセラーを持っていても、ユノに会おうとしていなかった。
でも、それはユノがウララさんの姿に恐怖するようになってしまったからだ。
しかし、まだ、ユノの態度で腑に落ちない点がある。
僕がここに来て、ウララさんにユノのご飯を作ってもらおうとした時、ユノはこう言っていた。
『その……ママって、わ、私に対して怒ったりとか……して、ない、かなって……?』
この発言から、僕はユノとウララさんの間に何かあったのではないかと思った。
ユノの過去も聞いたのだ。
この疑問も整理したい。
「……」
ウララさんはポツリポツリと語り始めた。
「最初は、ユノは部屋に結界なんて張っていなかったの」
「……! そうだったんですか?」
「うん、家には基本、他の人は入れないから。家にいるのは私とユノだけだからね。その時に、なんどもなんども、私はユノの部屋を訪れたの」
ウララさんは過去を悔いるように、目をギュッと瞑って、そっと開いた。
顔を上げて、僕を見つめた。
「……この顔を見て」
ウララさんは、前髪で隠れていた右目側の顔を僕に見せた。
「……! その、怪我は……」
ウララさんが見せたのは、酷い火傷だった。
右目の周りがまだらに白く濁り、焼け爛れた痕が、醜く残っている。
「まさか、ユノに……」
ウララさんは頷いた。
「この傷をつけてられてから……あの子は部屋に結界をかけ、私は、あの子の前に顔を出すことをやめたの」
──そういうことか。
だからユノは、ウララさんに嫌われていないかを聞いてきたのだ。
大好きな人を攻撃してしまった、恐怖。
ウララさんは、攻撃されたことを、どう思ってあるのだろうか。
「……ウララさんは、ユノに会うのが、怖いのですか?」
僕の問いに、ウララさんは一瞬きょとんとして、すぐに僕の言葉を理解した。
「ううん、ユノに対して恐怖してるわけじゃない。どのようになっても、どんなことをされても、私の、愛おしい娘だから……この傷はね、私の過ちなの」
そして傷から手を離し、悲しそうに目を伏せた。
「あの子は苦しんでいたのに、それでもなんとかしようと、あの子の前に顔を出し続けてしまった、私の、『過ち』」




