寂しかった
「……」
ユノの話を聞いて、僕は耳を疑った。
気分が悪くなる。
驚きもする。
まさか、僕と別れた後に、ユノがそんな酷い目に遭っていたなんて。
「……インフィニティ」
「……え?」
「それが、私を攫って、この事件を引き起こした組織の名前」
──『インフィニティ』
人々の負の感情から、悪魔を呼び出す魔法を完成させようとする組織の名前。
「でも、今言った事件やこの組織について、絶対に調べちゃダメ。どこに組員が潜んでいるかわからないから」
「……わかった」
だから、ウララさんは理由は聞かないでほしいと言ったんだ。
僕に危害が及ばないように。
「私とお母さんがこの片田舎の町に来たのも、私がまた標的にならないように、王都の騎士団が秘密裏に住所を変更したから」
「……そう、だったんだ……」
王都から遠く離れたこの町にどうしてとは思っていたけど、それなら納得がいく。
「これが、私の身に起こったこと」
「……」
なんて、ことだ。
言葉が出なかった。
そんな悍ましい事件があったなんて。
ユノが、その事件の被害者だったなんて。
ほぼ全ての疑問の答えが、明らかになった。
こうして、僕と話ができているのも奇跡だ。
「ユノは……今でも、他の人のことが……」
「うん……目が覚めた時。ママも、周りの人も、別の生き物みたいに見えちゃって……それで、部屋の外へ出られなくなっちゃった」
ユノは布団をギュッと握りしめた。
悲しみからか、彼女の声が、徐々に震えていった。
「考えずには、いられないの。『どうして私なんだろう?』『なんで、こんなことになっちゃったんだろう?』『私はこのままずっと、ひとりぼっちなのかなぁ……』って……」
ユノの瞳から、大粒の涙が溢れた。
「時々……死にたくなるんだぁ……」
諦めをはらんだ笑みを、ユノは浮かべた。
彼女の黄金の髪の毛が揺れた。
あれだけ夢に見ていた大魔導士への道も諦め、大好きな母とも会えず、外にも出られない。
それが、どれだけの孤独で、絶望なのだろうか。
僕は無意識にユノへ手を伸ばしたけれど、その手を止めた。
他者に触れられることが恐怖な彼女にとって、その行為は余計なこと以外の何物でもない。
僕が手を引っ込めようとしたとき、ユノが、僕の手を掴んだ。
「……! ユノ……」
ユノは僕の手を握って、大切なものを扱うかのように、そっと抱き寄せた。
「サイは、安心するの。なんでなのかは、わからないんだけど……」
「……そっか」
だからあの時、僕が初めてこの部屋に来た時、ユノは僕に触ることができて、泣いたんだ。
もう感じることができないと思っていた人の温もりを、感じることができたから。
「サイが、来てくれて本当によかった」
ユノにとって、僕はまさしく、希望の光だったのだろう。
「ユノ」
僕は、ユノに寄り添うように、ベッドの上に腰掛け、ユノの手を握った。
「約束する。僕が、必ず君を外に連れ出す」
ユノの願いを叶えたい。
外に出したい。
それが、僕がこの部屋に訪れた理由だったから。
「大切なことだから、もう一回言わせてほしい」
僕は、ユノの手を握りながら、頭を下げた。
「君を1人にして、ごめん」
幼い日に、傷つけてしまった彼女へ、もう一度謝罪の言葉を口にした。
「もう、2度と1人にしない。ずっと一緒にいたい」
僕がそう言うと、ユノは顔を歪めた。
「……さ、寂しかった……」
緋色の瞳から涙がとめどなく溢れて、頬を濡らした。
「ず、ずっと、サイがいなくなって理由を考えて……私のこと、嫌いになったんだって……私が、毎日毎日ずっと付き纏ってたから、嫌な気持ちになったんだって……そんな考えがずっとぐるぐる回ってぇ……」
力が無くなったように、ユノは僕の胸に顔を埋めた。
「ずっと後悔しちゃってたの……! あのとき私がもっとサイの気持ちを考えていれば……! サイに嫌われないようにもっと努力していれば……! サイはいなくなったりしなかったんじゃないかってぇ……!!」
僕の胸に縋りついた。僕もユノの体を抱きしめて頭を撫でた。
「理由くらい話してよ……! 手紙くらいちょうだいよぉ……!! 1人にしないでよぉ……! ずっと、ずっと、会いたかったんだよ……!!」
ユノは力無く僕の胸を叩き、しばらくの間、泣いていた。




