むかしむかし、あるところに
ここより遠く離れた西の町。
ヤクレンダルという町に、平和に暮らしていた親子がいました。
その親子は本当に仲が良く、娘はママが大好きでした。
娘は、魔法が得意でした。
なんと、3歳の時点で魔法を5つも覚えたのです。
これは異例の速さでした。
魔法の才能がある人も、1年で1つ覚えるのがやっとなのに、それを5つも。
しかも3歳という若さで。
町では評判の娘となり、高名な魔術師の人も王都からの貴族の人も、何人も娘を訪ねました。
『このまま成長すれば、この子は歴史に名を残す、偉大な魔術師になれる!!』
『お母様! 今のうちにこの子を私の弟子にしませんか!? 必ずや、この子を一人前の魔術師にして見せましょう!』
そう言われたママは、困っていました。
でも、ママは娘のことをよく褒めてくれました。
『将来は国1番の大魔導士になってやるわ!』
──そして、ママに楽させてあげるんだ!
それが、少女の夢でした。
そして、時が立ち、少女と母親は故郷の町を離れて王都に移り住みました。
魔法協会は有名な魔導士たちと共に、毎日高め合う場。
そんな中に12歳になったばかりの少女が来るなんて、異例中の異例でした。
彼女の魔法の才能は、止まることを知りませんでした。
多くの魔法を発明し、いくつもの机上の空論と言われた魔法を実用できるまで改良を施しました。
少女の名は一気に知れ渡るようになりました。
ある日のこと。
今日も少女は魔法の研究に出かけました。
魔法協会に行くまでの道のりを、いつも通り、本当にいつも通り歩いていただけでした。
突然目の前が真っ暗になりました。
少女は誘拐されたのです。
目を覚ますと、そこは暗い暗い、あたり一面が石でできた壁の、地下室のような場所でした。
そこには、黒いローブを被った、恐ろしい魔導士や魔女が何人もいました。
彼らは悪魔を呼び出す研究をしていたのです。
人々に痛みを与え、苦痛によって負のエネルギーを魔法陣へと送り込み、異界への扉を開いて、悪魔を降臨させる。
古くから伝説として存在する魔法でした。
もちろん、今となっては禁忌とされている魔法です。
そこにいる人たちは、どうすれば人は痛がるのか。
どこをいじれば大きな悲鳴を上げるのか。
どこを刺せば、気を失わずに最大限の苦痛を与えることができるのか。
いろんな人で試して、知っていたらしいのです。
そこで、少女は……
『い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーー!!!!!!!』
思いつく限りの拷問を、その身に受けました。
脇腹を割かれ、首を絞められ、骨は折られ、穴という穴を抉られました。
脱出しようとも試みましたが、特殊な腕輪をつけられて、魔法が使えません。
魔法が使えなければ、ただの12歳の子娘です。
何もできませんでした。
『おぉ……! 素晴らしい! 負のエネルギーが膨大な魔力となり、魔法陣へと吸収されていく!』
『このガキに目をつけて正解だった! 元から魔力耐性が強いからか、他のガキと違ってちょっとやそっとじゃ壊れないぞ!』
拷問を受けながら、そんな声が聞こえました。
ザグッ!
『そごッ!!! やめ゛でぇっ!!!』
『あら、ここが弱いのね? じゃあ気を失ったらここを弄っちゃうわよー? 頑張って意識をしっかり保ってね♡』
ザクッ!
『ぎゃ゛あ゛ッ゛!!!』
声も、枯れ果てました。
目に映るのは、同じように残虐な非道を受けて泣き叫ぶ子供達と、下卑た笑いを浮かべ、拷問器具を持つ人たち。
聞こえるのは、笑い声と、叫び声。
『イヤだ……イヤ!!! だ、だれ、か……』
たすけて
そう何度も思いました。
少女は、こんなにも自分が弱かったことを、生まれて初めて知りました。
あれから、どれだけの月日……いえ、年月が経ったことでしょうか。
少女の心は、もう泣いてすらいませんでした。
もう、どうだっていい。
終わりにしたい。
そう思ったとき。
『ここだぞ!! 犠牲者だ!!』
突然、少女の牢に光が照らされました。
そして、次々と現れる、剣を携えた者たち。
『おい! 大丈夫か君! もう大丈夫だ! 気をしっかりもって!!』
その人たちは、王都の騎士団の人たちでした。
彼らは組織のアジトを突き止め、囚われている人々を助けにきたのです。
そこで、少女は救われました。
救われた、はずでした。
『……ここ、は……?』
少女が目を覚ますと、そこは明るい天井でした。
暗い石畳でもない。
ふかふかなベッド。
鎖で手も繋がれていない。
自由に動かせます。
──私……助かったんだ。
少女はなんと、地下に2年間もの間、捕えられていたそうです。
そして、意識を取り戻した少女が一番最初に考えたのが、ママのことでした。
ママに会いたい。
抱きしめてもらいたい。
そう思いました。
『ユノ……?』
病室の扉から、待ち焦がれていた声が聞こえました。
何年経っても忘れることはない。
少女の母親の声です。
『ママ……!?』
少女は声のする方向へと視線を向けました。
『ま……ま……?』
そこに立っていたのは、2年前と変わらない、やつれた顔の、少女の母親でした。
でも、会えて嬉しいはずなのに、少女の顔は固まりました。
『ユノ!』
母は少女へと駆け出し、思いっきり抱きしめました。
『ごめんね……! ごめんね!! ママがもっとちゃんとしていれば……!』
ごぉ゛め?んね゛え…。
──ママが、何言ってるのかわかんない……
少女の目には、大好きだったママの姿がすごく気持ち悪く、怖い者に見えました。
ママだけじゃありません。
その後部屋に来た、少女を治療してくれたお医者さん、看護婦さん。
『う゛っ……!!!』
その人たちを見ていると、震えが止まらなくなって、吐き気が込み上げてきました。
抱きしめもらいたかったのに、もう近づかないでほしい。
喋らないでほしい。
笑わないでほしい。
見ないでほしい。
姿を見せないでほしい。
気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
『う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛!゛』
少女が、どうしてこうなってしまったのかはわかりません。
少女は自分の部屋に閉じこもってしまいました。
助けられても、少女は幸せになんてなれませんでした。
これからもずっと少女は苦しみ続けることになるのでした。




