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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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看病

「きょうは、もうかえって……」


「……」


 その声は、冷え切っていた。

 6年前も、今も、聞いたことのないような声。


 確かにユノの言うとおり、風邪なのであれば僕があまりここにいることもよくないし、帰ったほうが良いのだろう。


 でも、なぜか、嫌な予感がした。


「遠慮しないでいいよ。看病くらいなんともないから」


 今、ユノを1人にしてはいけない。


 僕の心がそう警鐘を鳴らした。


「熱が下がるまでは、看病させてよ。寝れないなら、何か食べたいものでも持ってこようか? 果物とか」


「……なんで、私なんかに構うの?」


 いつものように、少しオドオドした……というか、こちらの顔色を伺った声色じゃない。


「ママに、お金でももらったんだよね? でなきゃ、こんなめんどくさい小娘に構う理由なんかないもんね」


「……そんなことないよ」


「嘘」


「ほんとだよ」


「誰があなたの言葉を信じるの?」


 その言葉は、淡々としていた。


「どうせ、いなくなっちゃうくせに」


「いなくならないよ」


 僕がそう言った瞬間、彼女の目が、僕を向いた。






「じゃあなんでっ!! あの時いなくなったのッ!!」







「……!」


 その瞳から感じ取れたのは、憎しみだった。

 そこまで言われて、僕はようやくユノが何を言いたいのかわかった。

 ユノは、6年前のことを言いたいのだ。


 僕が、何も言わずに去ったあの時。


 ユノと再会してから、その話は一度も出ていなかった。

 だから、ユノもあまり気にしていなかったのだろうと勝手に思っていた。


「さよならも言えなくて……わ、私が……どれだけ……どんな気持ちになるのかなんて、まるで想像しなかったくせにッッ!!!」


「……」


 かける言葉もなかった。

 ユノは、今でもずっと、苦しんでいたんだ。

 僕が急にいなくなったことについて。

 スカーレットの瞳に涙をいっぱいに溜めて、僕を睨んだ。


「出てって!!!」


「いやだ!」


 振り払うユノの手を僕は掴んで、離さなかった。

 彼女の手は熱かった。


「確かに……一度僕はユノを1人にしてしまった……でも!」


 ユノの才能に、僕は一度屈した。

 あまりにも眩しくて、隣に立つことが苦しくて。


 でも


 僕はユノの腕を掴んだまま、真っ直ぐにユノの瞳を見つめた。


「もう……ユノを1人にはしない!! 絶対に!」


「……!」


 子供の時は、しっかりと見ることができなかったユノの瞳。

 ユノは目を見開いた。

 涙がこぼれ落ちて、腕の力が、徐々に徐々に抜けていった。

 やがて、彼女は力無く、僕に対して呟いた。


「……勝手に、して……」


 ドサッ


「……! ユノ!」


 ユノは気を失ってしまった。

 高熱の中大声で叫んだからだ。

 とりあえず、僕はもう一度タオルを冷水で絞って、額に当てた。


 そして、僕の頭には2つの選択肢があった。


『医者に連れて行く』か、それとも『看病をする』か。


 医者に連れて行くということは、ユノを部屋の外に無理矢理出すということになる。

 でも専門知識もない僕が看病をして、もし何かの病気だったら……

 医者を連れてくるという考えは……?


 様々な考えが脳を巡る中、僕は自分で看病することを選んだ。

 

 どの選択肢を選ぶのが正解かはわからない。

 でも、もし医者に連れて行こうと、ユノを外に出したら、熱が下がったとしても『最悪の結末』になる予感がした。


 思ったより体温が高くて、冷たいタオルを当ててもすぐにぬるくなる。


 その度に、タオルを冷水へ。


 額だけでは効果は薄い。

 脇の下や太ももは難しいから、首の頸動脈も冷やす。


 もっとタオルを持ってこないと。


 タオルを冷やす。

 絞る。

 当てる。

 冷やす。

 絞る。

 当てる。

 氷が溶けたら、また補充をする。

 冷やす。

 絞る。

 当てる。


 何回も、何回も、繰り返す。


 ……


 ……


 ……


 日は、すっかりと落ちてしまった。


 指はふやけて、血が滲んでいる。

 額に手をやると、だいぶ熱は下がってきたように思える。

 でもまだ少し温かい。


 もう一度、タオルを変えようと思い、タオルを絞った。


「……ん……」


 その時、ユノの瞼が、ゆっくりと開いた。


「おはよう」


「……おはよう」


 こっちを見つめる瞳には、先ほどのような暗さや影はない。

 なんとなく、光が戻っているような気がした。

 

「少しは体調、良くなった?」


「……うん」


 ユノは頷いて、ベッドから起き上がった。


「……本当に、看病してくれていたんだね」


「ユノを1人にしないって言ったでしょ。ユノはその後気を失っちゃったから覚えてないかもしれないけど……」


「……ううん、覚えてる」


 ユノの瞳が少しだけ潤んでいるように見えた。


「着替え、持ってくるよ。あとタオルも。」


 僕はタンスから着替え一式と、新品なタオルを取り出して、ユノに渡した。


「……自分で、着替えられるから」


 少しだけ顔を赤くして、ユノは言った。


「少しだけ、外に出てるよ。着替えが終わる頃には戻ってくるから」


 下に降りると、ウララさんは僕用におにぎりを作ってくれていた。

 現状を説明して、僕がおにぎりを食べている間、ウララさんにユノ用にお粥を作ってもらった。


 お粥を持って部屋に入ると、着替え終わったユノがベッドに座って待っていた。

 だいぶ顔色は良くなったけど、まだ熱はある。

 食欲は多少戻ってきたそうだ。

 食欲がなければお粥は僕が食べようと思っていたけど、要らぬ心配だったらしい。

 ユノは無言で食べていた。

 僕も、それを無言で見つめていた。


 お粥は、ちゃんと全て食べることができた。


「どうして聞かないの?」


 お粥を食べ終わった後、ユノが僕に聞いてきた。


「なにを?」


「私が、部屋から出られなくなった理由」


「……ウララさんに言われたからね。ユノにはその話をしないで欲しいって事」


「……そっか……」


 それ以上の会話はなかった。

 でも、なんとなく居心地は悪くなかった。




 その後、ユノはもう一度眠った。


 熱は、どうやら引いたみたいだ。

 安らかな、寝顔だった。


 今日は、この部屋に泊まることにした。


 ウララさんは別室を用意すると言ってくれたけど、断った。


 ユノが次に目覚めるまで、そばにいたいと思ったから。


 彼女が目を開けた時に、少しでも、安心できるように。


 僕が手を握ると、ユノの表情が少しだけ和らいだような気がした。

 僕はそのまま、眠くなるまでずっと、ユノの顔を見続けていた。


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