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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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冷え切った声

 数日だけ、時は過ぎた。


 あれから毎日、ユノの家に通っている。

 前と同じように、ユノに魔法を教わる日々。

 でも、ユノの表情はどこか晴れなかった。

 それだけ、前回のことが尾を引いているのだろうか。

 こればかりは、時間をかけていくしかない。

 夕方、またユノの部屋を訪れる。


「ユノ、今日は特別なお菓子を持ってきたよ」


 ……


 僕が部屋に入っても、返事がなかった。


「……ユノ?」


 部屋を見渡すと、すぐにユノを発見した。


「……眠っているのか?」


 ユノはベッドで寝ていた。

 珍しい。

 でも一日中家にいるなら、生活リズムがおかしくなっても仕方ないか。


 お菓子は後で一緒に食べよう。

 テーブルに置いて、ユノが起きるまで瞑想でもしているか……


 そう思って、床に座って座禅を組もうとした、その時。


「ぅ……」


「……ユノ?」


 ユノの呻き声が聞こえた。

 まさかと思って立ち上がり、ユノの顔を覗き込む。


「はぁ……はぁ……」


 息が荒い。

 顔も赤く、表情は苦しそうに歪んでいた。


「ユノ!」


 ユノのおでこに手を当てる。


「……!」


 ユノは熱を出していた。

 それもただの熱ではない。

 尋常じゃないくらいの、高熱。


「待ってて! すぐに戻ってくるから!」


 僕は咄嗟に、部屋から飛び出した。


 ウララさんに事情を説明し、洗面器にたっぷりの水と、氷、そして清潔なタオルをもらう。


 あとは水分を取るために、大量の飲料水。


 部屋に戻ってきた僕は氷水に十分浸したタオルを絞り、ユノの額に当てる。


「ハァ……ハァ……」


「ユノ……」


 苦しそうにうなされるユノの手を握って、僕は声をかける。


 この3年間、ずっとこうだったのだろうか。


 3年間、一歩も部屋から出ない。

 そんな生活を続けていて、健康でいられるはずはない。

 体は弱くなっていく一方だ。

 この3年間で、何度体調が悪くなった事だろう。


 その度に、誰にも頼らず、自分1人でこうしてうなされていたんだ。


 僕はもう一度、ユノの額に触れた。

 さっきよりも熱が上がっていた。


 ──これは、病院に連れて行ったほうが良いのではないか? でも、ユノはずっと部屋から出られていない。そんな彼女を、果たして連れて行って良いのだろうか? ウララさんの判断を……


 そんな考えが、頭の中をぐるぐると巡る。



「う゛……う゛ぅ゛……」


「……? ユノ……?」


 ユノの呻き声が、一層苦しそうになった。

 僕は咄嗟に手を握ろうとした、その時。




「う゛ぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛!゛」


 ユノの体が、ベッドの上で跳ねた。





「いやだぁ!! やぁ゛!!! やめてぇ!!!」


「ユノ!」





 ──うなされ方が尋常じゃない!


 僕は暴れるユノの手を掴んだ。


「い、いやぁ゛!! こないで!!」


「ユノ! 大丈夫! それは夢だ! 起きて!」


 僕の手を必死で振り払おうとするが、僕も負け時と手を掴む。

 そうすると、ユノは徐々におとなしくなっていく。


「こないでよぉ……もう、やめ、てぇ……」

 

 そして、彼女は体を丸めて泣いた。

 僕は、その姿を呆然と見ていたが、すぐに我に帰り、ユノの体を揺さぶる。


「ユノ! ユノ! 起きて!」


「う……はぁ゛……! はぁ゛……!」


 僕の声が届いたのか、ユノは目を覚ました。

 それでも呼吸は荒い。


「ゆっくり息を吸って……大丈夫、今のは夢だから……」


 ユノの体を起こして、背中をさする。

 少しでも安心させるように言葉をかける。


 しばらくの間そうしていると、彼女の呼吸が、徐々に落ち着いてきた。

 でも、顔を見ると顔色は蒼白で、汗もびっしょりかいている。


 僕は瓶から飲料水をコップに注ぎ、ユノへと渡す。


「ユノ、水だよ。着替え、持ってくるね」


 あんまり女性のタンスを漁るものじゃないけど、こんな緊急事態だ。


 僕は着替えの寝巻きと、下着を持ってユノに近づいた。


「……ユノ……?」


 ユノは、先ほど渡した水を飲んでいなかった。

 僕の声にも、まるで反応しない。

 虚空を見つめている。

 その瞳は、どこまでも暗くて。

 光なんて存在しないほどの暗闇。


 先ほどの魘されようもそう……


 これは、普通の風邪ではないのではないか?


 病気……というより、もっと別の……


「ユノ……着替えを……」


 声をかけるが、動かない。


 ……仕方がない。


 汗でパジャマがびしょ濡れだ。

 このままだと熱が高くなる。


「……失礼するよ」


 僕はユノの服に手をかけ、上半身だけでも着替えさせる。

 なるべく見ないように汗を拭き、新しいパジャマを着せる。

 痴漢だの猥褻だの、そんなこと言ってる場合じゃない。


 水もほぼ強引に飲ませた。


「ほら、もう寝よう。まだ熱は高いから、ゆっくり休んで」


 そう言っても、彼女は寝ようとしなかった。

 上半身を起こしたまま、何をしようともしない。

 仕方がないので、僕は彼女の体を無理やり横にさせようと肩に手をかけようとした時、ユノの乾き切った口が、開いた。




「きょうは、もうかえって……」





「……」


 その声は、冷え切っていた。

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