詰所にて②
ユノと再会してから、数ヶ月が経過した。
だんだんと、ユノは昔の明るさを取り戻しているような気がした。
この調子で、少しでも元の生活に戻っていけたら……
「それじゃあ、僕はこれで失礼します」
今日も僕は仕事を終わらせ、足早で帰ろうとする。すると、メイナに引き止められた。
「あ! 先輩まってくださいよー! 久しぶりに飲みに行きません?」
「いや、この後用事があるから」
「えー……せんぱーい……最近付き合い悪くないっすかー?」
メイナが机に突っ伏しながら、目だけこっちに向けて唇を尖らせた。
「まぁ、仕方ないじゃないか。今日も女の子のところに行くんだろ?」
そうシュウ先輩が突っ込む。
「その言い方は語弊がありますが……まぁ、そうですね」
「くっ……恋人ができてイキイキしてるのがなんか嫌……」
「別に恋人じゃないって」
フォローを入れてくれるシュウ先輩と、ムスッとしているメイナ。
そしてイキイキしているらしい僕。
……そんなにイキイキしてるか? 僕……
「……でも、サイ先輩、他のこととかやってます?」
「他のことって?」
「趣味とか、飲みにいったりとか、パーっと遊んだりとか」
「いや……最近は全然……」
毎日ユノの家に行ってるんだから、そういうことは最近はまるでしていない……友人や同僚からの遊びやご飯の誘いも全て断っていた。
「えー!? それはよくないですよ!」
メイナがずいっと顔を近づけた。
「その人のことが大切なのはもう重々承知しましたけれど、かといってそれ以外の関係をシャットアウトするのも良くないですよ!」
「い、いや、別にシャットアウトしているわけじゃ……」
「じゃあ、最近別の人と遊びに行ったのってどれくらい前ですか?」
「……4ヶ月前くらい」
「はい!? 季節変わるくらい前じゃないですか!?」
確かに今メイナに言われて思い返してみたが、そんなにずっとユノに付きっきりだったのか。
「4ヶ月って関係深い人でも疎遠になり始めってくらい長いですよ!? っていうか、私たちとも疎遠になる気ですかー!?」
「ぐえっ! ちょ、ちょっと揺さぶらないでメイナ!」
「まぁまぁ、サイにもやるべきことがあるんだろ」
メイナにガシッと肩を掴まれて前後に揺さぶらると、シュウ先輩からストップがかかる。
「でもなぁサイ? 何をしても本人の自由かもしれないが、知人とのコミュニケーションは重要だぜ? 他の友人がいなくなるのも嫌だろ? たまにはその女の子と会うこと以外のことをした方がいいんじゃないか?」
「……はい……」
「だから今日飲みに行きましょうよ! こんな可愛い後輩が誘ってるんですから! はい行きましょ! すぐ行きましょ!」
「う、うーん……」
一応今日のお菓子はクッキーで、今日中に食べなくても良いお菓子だ。
ユノとも別に約束をしているわけではない。
行かない日があっても良いだろう。
逆にこの数ヶ月毎日通っていたことが異常だったのかもしれない。
「おいおいメイナ。あんまりサイを困らせるなよ。いきなりだし、行くとしてもまた今度にすれば……」
「……いえ、行きます」
その返答に、シュウ先輩は少し驚いた。
「いいのか?」
「向こうの家にもいつも押しかけてばかりてますからね。たまには会わない日があったほうが良いかもしれません」
「本当か? その子となにか用事があったんじゃ……」
「まぁ、別に約束しているわけじゃないので……」
僕がそう言うと、メイナが手を大きく広げて喜んだ。
「やったぁ! 久しぶりにデートですね! どこの店行きましょうかー?」
「いや別にデートじゃないから」
「えー良いじゃないですかー。こーんな可愛い後輩からのデートのお誘い、他にないですよー?」
「あのさ……他に好きな人がいるのにそういうこと軽々というの本当にやめた方がいいと思うよ?」
この子は時々本当に思わせぶりなことを言うからよくない。
それで何人の男を撃沈させていったことか。
「じゃあ逆に安心じゃないですか。間違ってもそういう雰囲気になりませんし!」
「じゃあデートって言い方しないでよ」
「あ! 浮気してる気分になるから嫌なんですね!」
「だから別に恋人じゃないって……」
何故こうも色恋沙汰にもっていこうとしているのか。
「心配ならシュウ先輩も一緒に行きましょう! これならどうですか!」
「おい! 俺を巻き込むな!」
「いいじゃないですかー。可愛い後輩に奢ると思って!」
そう言われて僕とシュウ先輩はメイナに引きずられる形で屯所を出た。
1日くらい、ユノの家に行かなくても大丈夫だろう。
そう、軽く思ってしまった。
でも、これが大きな思い違いだったことに気づいたのは、翌日にユノの家に行った時だった。




