詠唱作り
防御魔法を習い始めてから1ヶ月。
「……」
僕は息を吸い込み、防御魔法を発動する。
僕の周りへドーム状になるように。
「準備はできた?」
「うん、いつでも」
「じゃあ、いくよ」
例えるなら男性の大人が全力で野球ボールを投げた時と同じくらいの強さだろうか。
当たりどころが悪ければ大怪我をするレベルだ。
そのくらいのスピードで放たれた魔力の塊が、僕の防御魔法にぶつかる。
「……!」
バァン!!
バリアにヒビが入ったが、どうにかして身を守ることに成功した。
「うん、だいぶバリアの強度が上がってきたね」
「ふぅー……それでもヒビは入ったけどね。まだまだ実戦で使うには心許ないな」
「なるほど……それなら次は詠唱を習おっか」
詠唱。
魔導士が魔法を発動する際に発する呪文のようなものだ。
発動する魔法の精度を上げてくれる。
「詠唱無しの初心者の魔法だと、すごく弱い魔法になっちゃうから、もし強い魔法を使いたいなら必要だよ」
「そっか……でもさ、あんまり魔導士が詠唱しているの、実戦だと見たことないんだけど……」
「上級魔導士や中級魔導士の実戦だと詠唱してる暇なんてないからね。その間に攻撃されちゃうから、詠唱を省略して魔法を発動してるの。省略したら魔法の精度はかなり低くなるけど、威力より発動スピードのほうが実戦だと大事だから」
確かに詠唱というのはデカい隙になる。
相手は詠唱が終わるまで待ってくれない。
「じゃああまり詠唱を覚えても意味ないんじゃ……実戦だと詠唱してる暇ないんだよね?」
「うん、でもね? 防御魔法は攻撃魔法と違って『後詠唱』が使えるの」
「後詠唱?」
「うん、普通の詠唱と違って、魔法を無詠唱で発動した後に詠唱するの。そうすれば魔法は後から強化されるんだ」
無詠唱で発動して相手の攻撃を防ぎながら、後詠唱をしてバリアを強化するのか。
「でもやっぱり事前に詠唱した防御魔法と比べると精度は劣るんだけど……それでもやっぱり強いよ」
なるほど。
詠唱の重要性をおおよそ理解できた。
「わかった。じゃあ今日は、防御魔法の詠唱を覚えればいいんだね」
「覚える……?」
僕の言葉に、ユノは首を傾げた。
「ううん、違うよ。サイが自分で『詠唱を作る』んだよ」
「へ?」
──詠唱を、作る……?
「はい」
渡されたのは紙とペンだった。
「というわけで、今日は詠唱の『詩作り』をしよう」
「詩作り……?」
「そう。サイの防御魔法のために、サイが詠唱を考えるの」
「……」
一瞬理解ができなくて、思考が固まった。
「え!? もしかして、魔法の詠唱って、魔導士がそれぞれ作ってたの!?」
「う、うん。そっか、知らなかったんだね」
──全然知らなかった。
てっきり魔導書みたいな物に書いてあって覚えるものだと思っていた。
「詠唱はその魔法の使用者の意志を詩に込めて作るの。だから似たような魔法でも使用者によって詠唱は違うんだよ」
「で、でもさ、僕詩作りなんてやったことないんだけど……どんな詠唱になってもいいの?」
「ううん、詠唱は詩に込められた意志や想いが強ければ強いほど性能が増すの。適当に考えたら弱い魔法になっちゃうよ」
「そっか……」
それならば自分で考えなきゃいけないのだろう。
正直うまくいく気がしないのだが……
「もし全然詩が思い浮かばなかったら教えてあげるから、とりあえずやってみよっか」
「……うん、わかった」
僕は観念して机に向かった。
詠唱作りを開始して、1時間が経過した。
「全然出てこない……」
やはり僕に詩作りの才能はなかったみたいで。
何一つ降りてこない。
「詩への意味って難しいな……作詞でもしてる気分だ」
「そっか……男の子は詠唱大好きな子が多いんだけど……サイは違ったの?」
「流石にその時代は過ぎ去ったかな……」
確かに騎士学校に入学したてのころはかっこいい詠唱に少し憧れたりもしたけど。
「でも、そんなに難しく考えなくていいと思うよ。防御魔法の詠唱に込められる意志や想いって、『誰かを守りたい』とか『傷つきたくない』じゃないかな? サイはその2つだとどっちの気持ちが強い?」
「それは……誰かを守る方……かな」
「流石騎士だね。じゃあその想いをそのまま詩にしてみるといいよ。守りたいものや人を思い浮かべてみたりとか」
「守りたい……人」
「うん。サイが守りたいものって、どんなもの?」
ユノの言葉で、頭の中には自然と1人の人が思い浮かんだ。
「……」
「書けそう?」
「うん」
僕はペンを手に取る。
ペンは、さっきとは比べ物にならないくらい進んだ。
「できたよ」
それから10分後、僕の防御魔法の詠唱は完成した。
ユノは大層驚いた様子だった。
「は、早いね……さっきまで全然書けてなかったのに……」
「ユノがアドバイスをくれたから」
守りたいもの。
それが僕の中で思ったよりしっくりきた。
でもこの詠唱で上手いこと魔法が強化されると良いのだが……
「じゃあ早速、詠唱で強化した防御魔法の精度を確かめてみよう。詠唱してみて」
「……え?」
ユノの言葉に、僕は思わず身を固くする。
「そ、それって、ユノの前で?」
「え、う、うん……だって、そうしないと魔法強化できないでしょ?」
「……」
どうしよう。
ユノの前で詠唱したくない。
「……もしかして、恥ずかしいの? 大丈夫だよ。想いを込めた詩を笑ったりしないよ」
「い、いや、そういうわけじゃなくて……」
いや、恥ずかしいはある意味あってるが、決して馬鹿にされるのが恥ずかしいという意味ではない。
この場で詠唱するのが嫌で僕が凄い顔をしていたのか、ユノが困惑したように言った。
「……そ、そんなに嫌なら、耳塞いでるよ……?」
「え? いいの?」
「う、うん……別に聞かなきゃいけないわけじゃないし……」
そう言ってユノは耳を塞ぐ。
ありがたい……
僕は詠唱を唱え、防御魔法を展開する。
見た感じ、さっきまでの無詠唱の時の防御魔法と同じに見える。
本当に強くなっているのだろうか……
「じゃあ、攻撃するね?」
「うん……うん?」
てっきりいつもの魔力の塊がくるものだろうと思っていた。
ユノの手に火炎弾が現れた。
「ユノさんユノさん? その手の火炎弾は?」
「こ、攻撃、だけど……」
「なんで急に火炎弾!? 魔力弾じゃないの!?」
「だ、大丈夫だと思うよ? 詠唱した防御魔法って想像以上に強いから……」
「いやいや怖いって! 部屋の中で炎はダメでしょ!? 僕が無事でも火事になるよ!?」
「わ、私が張ってる結界内の物には、火炎耐性が付与されてるから、火事にならないよ。サイにも付与されてるから、万が一サイに当たっても火傷すらつかないけど……」
「だからと言って火炎弾を使う必要はないでしょ!? 普通の魔力弾で……」
──もしかして……
「……ユノ、詠唱教えてもらえなかったことちょっと不満だった……?」
「……じゃあ、いくね?」
ヒュン。
火炎弾が恐ろしい速さで僕へ飛んできた。
ドガアアアアン!!!
爆発音と多少の衝撃。
「「……え?」」
僕とユノ、2人の困惑の声。
僕が目を開けると、そこには傷一つついていない防御魔法。
「こ、壊れなかった……? ユノ手加減した?」
「て、手加減というか、正直ヒビが入るか破壊されるくらいの強さに調節してたんだけど……」
──待って今なんて?
「こんな強度になるなんて……詠唱に込められた想いがすごく強かったから……かな?」
「そう、なのかなぁ……?」
今まではただの魔力弾ですら一発受けたらヒビが入っていたというのに、明確な攻撃魔法である火炎弾を受けてもビクともしないほどまでに、バリアは強化されたのだ。
「や、やっぱり気になる……! どんな詠唱にしたの!?」
「ひ、秘密」
「普通に後学のために教えて!」
「絶対嫌だ!」
何回かの小競り合いの末、僕の詠唱は時が来たら教えるということになった。
ユノはその後数十分不貞腐れていた。




