表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/35

雛鳥

 その日の夜。

 寮へ帰宅後、風呂へ入って寝る支度を整えたあと、ベッドの上で使役魔法のことについて考えていた。

 どんな動物を使役するのが良いかだ。


 考えてみるけれど、無難なのは犬や鳥か。

 そりゃ僕もドラゴンとか、虎とか使役出来たらカッコいいとは思うけど。


『カサッ』


「……ん?」


 ベッドで寝転びながらあれこれ考えていると、目の端の方で何かが動いた。


「うわ……蜘蛛だ」


 夏だからか、最近虫をよく見るようになってきた。

 僕はテーブルの紙の上に蜘蛛を乗せ、外に逃してあげようと窓に手をかける。


「……待てよ? 蜘蛛……?」


 そうだ。

 蜘蛛を使役してみるのはどうだ?


 戦力にはならないかもしれないけど、偵察や潜伏能力に関しては他の動物よりはるかに優れているんじゃないか?


 犬や鳥などと違って見つかりづらいし、なによりその場に居ても何も不自然ではない。


「なにか入れられるものは……」


 蜘蛛が逃げないように、入れられる物を探す。

 空き瓶があればよかったのだが、あいにく昨日ゴミとして捨ててしまった。

 小さめの木箱に蜘蛛を入れた。


「……蜘蛛って何食べるんだろう?」


 明日ユノに相談してみよう。

 とりあえず名前は蜘蛛ゴローに決めた。




「おはようー」


 早朝。

 ウララさんからの2人分の朝ごはんを受け取ってユノの部屋を訪れる。


「ユノ、起きて起きて。もう朝だよ」


「……ぅ……ぅー……ん……」


 今日は午後勤務。

 午前中にユノの家で魔法の練習をし、お昼頃に屯所へ仕事に行く。

 こうして朝にユノを起こすのも何度目だろうか。


 最初、僕が朝に訪れた時は大層慌てて追い出された。

 それ以降朝早く行く時はユノも頑張って早起きをして僕を迎えていたのだが、彼女はどうも朝に弱いらしい。

 早々に諦めて、朝に会う時は今や僕が彼女の目覚ましをしている。


「ふぁ……おはよ……サイ……きょうのあさごはんとおやつは……?」


「今日はお魚とご飯に卵焼き。おやつにはケーキを持って来たよ」


 目が覚めていの一番に聞くことがご飯のことというのはなかなか食い意地が張っている気がするが……ちゃんとした朝ごはんを食べるのもユノにとっては稀なことだし。

 ケーキはユノの大好物。

 魔法の練習が終わったら一緒に食べるものだ。

 冷蔵庫にしまってもらっている。


 朝食を済ませ、軽く談笑をしてから今日の魔法訓練の話へ。

 そこで、僕は蜘蛛ゴローのことを思い出した。


「そういえば、ユノ、使役魔法に使う生き物のことなんだけど……」


「あ、何にしたの? 犬? 猫?」


「ううん、実はこれにしようかと思ってて……」


 僕は木箱を持ってきてユノの前で蓋を開ける。


 カサカサ……


「へ?」


 蜘蛛を目にした瞬間、ユノの顔が固まった。


「あ……」


 その固まった姿を見て、思い出した。


 ──ユノ、虫が大の苦手……じゃなかったっけ?


 そう思ったのも束の間。

 ぴょんと、蜘蛛ゴローがユノへ向かって跳ねた。


「いやぁーーーーー!!!! いや! く、くくくも! な、なんれ! いやぁとととととって!」


 大暴れだった。

 家から出ていないとは思えないくらいのでかい悲鳴をあげた。


「ごめんごめん取ってあげるから暴れないで!」


「と、とってぇ!! あ、い、いや! ふくのなかにぃ!」


「へ!?」


 服の中はまずい。

 余程の恐怖だったのか、僕がいるのなんてお構いなしに、ユノは服に手をかける。


「ちょ、ちょっと待っ……!!」


 ブルンッ


 何がとは言わないけれど、大きかった。









「ご、ごめん……ほんとに忘れてたんだ……」


「……」


 蜘蛛ゴローを箱に戻し、落ち着きを取り戻したユノだが、機嫌は元に戻らなかった。

 頬を風船のように膨らませてそっぽを向いている。


「ほ、ほら、ユノの大好きなケーキだよ? 本当は魔法の勉強が終わってから食べようかと思ってたけど……ちょっと早く食べても良いかなー……」


 ウララさんに事情を説明して、冷蔵庫からケーキをとってきた。

 ケーキでも機嫌が直らないとは、相当だ。

 いつもなら満面の笑みで食べてるのに。


「……」


 ダメだ。

 何を言っても返事をしてくれない。

 どうしたものか……と頭を悩ませていると


「た……」


 ユノが、そっぽを向きながら俯いて、ボソッと呟いた。


「へ?」


 聞き取れなくて、僕は聞き返す。

 すると、ユノはこっちを向いて言った。


「たべ……させて……」


 その顔は、熟したリンゴのように真っ赤だった。

 彼女の言葉を脳が処理するのに、少しの時間を有した。それって、あーんってことか?


「た、食べさせてって……ケーキを?」


 ユノは頷く。


「……た、たべさせてくれたら、許してあげる……」


「……」


 い、いきなりどうしたのだろうか……?


 ぐるぐると思考を巡らせていると、ユノは目を閉じて口を開けた。


「ぁ……」


「……」


 観念した僕は、フォークでケーキを一口分取り、優しく、彼女の口の中へ。


「あーん……」


「はむ……」


 口を閉じたのを確認し、フォークを口から抜き取る。


「むぐ……んむ……」


 ユノは目を閉じて何度か咀嚼した。

 顔がさっきより赤くなってる気がする。


「……美味しい?」


 ユノは無言で頷いた。

 恥ずかしいのか僕の方を見ようとはしなかった。

 目は閉じたままだった。


「ぁ……」


 ケーキを飲み込むと、また口を開けておねだりをする。


「はい、あーん……」


「あむ……んむ……」


「……」


 なんか恋人に食べさせていると言うよりは……


「んぐ、んぐ……ぁ」


「はい」


「ぁむ……んぐ」


 ヒナに餌付けしてるみたいだ。

 でも……


「……んぐ……んぐ……」


「……」


 なんだか楽しくなってきたかも。

 結局ユノのおねだりはケーキを全て食べ終わるまで続いた。






「え、ダメなの?」


 ケーキを平らげた後、蜘蛛ゴローの使役についてはユノからそう説明があった。


「……えっと、この間説明した通り、使役魔法は信頼関係を築くことが大切なの。つまり、ある程度知能をもった生物じゃないと……」


「……難しいってこと?」


「う、うん……少なくとも昆虫くらい小さな生物に使役魔法が成功した事例は聞いたことないかも……」


「そっか……蜘蛛ゴローは使役できないのか……」


 手元の箱に入った蜘蛛ゴローを見つめる。

 なんだか、すごく寂しくなってきてしまった。


「ま、まぁ……実例がないってだけでもしかしたら成功するかもしれないし……なにか奇跡でも起きて信頼が芽生えるかもしれないし……」


 そんな様子を見かねたのか、蜘蛛嫌いのはずのユノがフォローを入れてくれた。

 蜘蛛ゴローは結局飼ったままにすることに決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ