防御魔法
「だ、だいぶマナの許容量が多くなってきたね……」
またさらに月が流れた。
いつも通り、魔法の勉強は瞑想から始める。
まだ全然集中してなきゃ魔力の循環はできないけれど、それでも魔力を持ったばかりの頃と比べたら、かなり成長した実感はある。
「凄い……ぜ、全然、想像してなかった……サイの成長がこんなに早いなんて……」
「ユノの教え方が上手なんだよ。」
「ううん! こ、このスピードはきっと才能あるってことだよ!」
こんな風に褒めてはくれるけれど、実際にユノの教え方は実に的確だった。
僕が躓くと一つ一つ噛み砕いて丁寧に説明してくれるし、わかりやすい。
多分独学や他の人に教えてもらったのではこんなに成長はしなかったと思う。
「もう基礎知識くらいしかやることがないと思っていたけど……こ、これなら早めに実践をやっても良いのかも……!」
「実践って?」
「魔法を使ってみるってこと!」
「……!」
ついに、夢にまでみた魔法を使うことができる。
その事実に、僕は心を踊らせた。
過去にずっと、ユノの隣で見ることしかできなかった魔法。
その魔法を、僕が……
「さ、サイはどんな魔法を使えるようになりたいの?」
「そうだね……1番は戦場とか、もしくは街の中で犯罪者と戦う時に使える魔法がいいかな?」
攻撃魔法、補助魔法、防御魔法。
実戦で使えそうな魔法はいっぱいある。
そのうちの少しでも覚えられたら役に立つだろう。
「うーん……わ、私なりに思いつくのは何個かあるけど、でも、さ、最初に覚えるのは習得難度で決めたほうがいいかも」
確かに。
いきなり難しい魔法はハードルが高いし、簡単で便利な魔法が使えれば良い。
「でもそもそも魔法を覚えるってどうやればいいの? 初めてだからあんまりよくわからないんだけど……」
「そ、そうだよね、魔法を習得するコツは、魔法を発動した時の感覚を掴むことが大事なの」
「発動した時の……感覚?」
「うん。た、例えば『空を飛ぶ魔法』を習得するには、『自分の体が飛んでいる感覚を掴む』ってことだよ。そのために高いところから何百回もバンジージャンプをしたり、ひ、飛行動物を使役して何日も視界を共有したりして、それを1年くらい繰り返してようやく感覚を掴むの。そこに魔力を乗せて発動できるようになる……って感じかな?」
「……なるほど」
とにかくすごく大変ということはよくわかった。
「魔法1つ使えるようになるのに1年か……やっぱり難しい世界なんだね」
「で、でもあくまで難しい魔法も簡単な魔法も全部合わせて平均で1年かかるっていうだけで、もっと簡単な魔法ならもっと早く習得できるよ! さ、サイは騎士で戦うことを想定するなら、『防御魔法』とか簡単で便利かも!」
防御魔法。
簡単にいうとバリアを出す魔法だ。
相手の攻撃や魔法から身を守ってくれる。
「防御魔法って結構難しそうなイメージだけど……ユノがこの部屋に張っていた結界とかも防御魔法でしょ?」
「た、確かに結界とかになると難易度が跳ね上がるけど、ただ攻撃から身を守る程度のバリアを張る防御魔法なら簡単だよ」
「ほんと? でも……」
さっきユノが言ったとおりなら、防御魔法を覚えるには『バリアを出した時の感覚を掴む』ということだ。
「バリアを出す感覚なんてどうやって掴めば……?」
「最初の練習は、全然バリアなんて張ろうとしなくていいの。だ、段階を踏んで段々とバリアを張れるようになれば……例えば……」
ユノは本棚から一冊の分厚い本を取り出して、僕に渡した。
「そ、その本を前に掲げてくれる? 盾みたいに」
「へ? う、うん……こう?」
言われたとおり前に掲げると、ユノは多少僕から距離を取って手のひらを僕へ向ける。
「えい」
ボスッ
本に何かがぶつかった音。
ユノが魔力の塊をぶつけてきたのだ。
でも全然強くない。
ボールが軽く当たった程度の強さだ。
「い、今サイは本を使って私の魔法を防いだよね? 今度はこの本に魔力を纏わせてみて?」
「こ、こう……?」
僕は剣に魔力を纏わせる要領と同じように、本に魔力を纏わせた。
「じゃあもう一回攻撃するね……そ、それっ」
ポス……
「どうだった?」
「こっちに伝わる衝撃が少なかった……気がする」
魔力でガードしていた分、相手の攻撃を軽減することができたみたいだ。
「なるほど。最初は盾に魔力を纏わせて攻撃を防御して、慣れてきたら盾を外して魔力だけで防御するってことだね?」
「そ、そう。こんな感じで、魔力で攻撃を防ぐ感覚を掴むの。これを続けていけば、いつか感覚を掴めて、ば、バリアを張ることができるようになるよ」
……やっぱりわかりやすい。
この練習を積み重ねていけば、確かにバリアで攻撃を防ぐ感覚を掴めそうだ。
「これから毎日、私の攻撃を魔力で防ごう。こ、この方法なら、多分3ヶ月もしないうちに防御魔法を習得できるんじゃないかな?」
「おー……」
魔法を覚えるのが平均1年と考えると、3ヶ月はだいぶ早い。
「じゃああともう1個くらい覚える魔法を追加してもいいかなぁ? 他には何か便利な魔法はない?」
「あともう一個……うーん……」
少しの間、ユノは口に指を当てて考えた。
「じ、じゃあ、『使役魔法』はどうかな? これはちょっと難易度が高いけど……」
「使役魔法……? 『動物に命令することができる』魔法だっけ?」
「うん。で、でも命令するだけじゃなくて、例えば視界を共有したり、会話したり、すごく熟練者になると意識を乗っ取って動かしたりすることもできるよ」
例えば大型犬や虎、ゾウなどを使役すれば立派な戦力になる。
ドラゴンを使役するなどという伝説の使役魔法使いまでいるという噂だ。
僕にはもちろん、そんなすごいことはできないと思うけど、戦力でなくとも、小型犬や鳥でも立派な偵察役として大いに役に立つこともある。
「で、でももちろん、これは使役する動物との信頼関係ができてないと発動しないの。だからまずは魔法のためとかじゃなくて、純粋な愛情を込めて飼育するのがいいかな」
「なるほど……まぁ、ちょっと考えてみるよ」
「そ、そうだね。この魔法は信頼関係が築くまでなかなか時間がかかるから、ゆ、ゆっくりのんびりやろう。基本は防御魔法の練習をしよう」
こうして僕たちは、基礎練習以外にも実践的な練習をするようになった。
この日はその後、一日中防御魔法の練習で終わった。




