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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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距離感

「ユノー。入るよー」


「あ、さ、サイ、いらっしゃい」


 僕がユノに魔法を教わるようになってからしばらくが経った。

 最初は目隠しをして部屋に入っていたが、もうなんとなくめんどくさくなって、今はしていない。

 そのくらいの気兼ねのなさが、僕とユノの間に出来始めていた。


「今日のデザートはテーブルに置いておくね」


「うん。い、いつもありがとね。今日のお菓子は何かな?」


「今日はマカロンを作ってきたよ。キャラメルとかイチゴとかバニーユとか、他にも色々」


 僕はお菓子の箱を開ける。

 中には色とりどりのマカロンが敷き詰められていた。

 それを見てユノは喉を鳴らす。


「今食べる?」


「うう……が、我慢する……ママのご飯、食べられなくなったら嫌だし……」


 ユノの家に来るのは、基本的に仕事終わりに3時間ほど。

 魔法を教えてもらって、ウララさんの夕飯を一緒に食べて、僕が作ったデザートを食べて、家に帰る。


 ユノは、だいぶ僕に対して慣れてきたように思えた。

 目が合わなかったのが、最近は少しずつ合うようになったし、どもりも無くなってきた。


 しかし、そこで僕はあることに気がついた。


「き、今日も昨日と同じで、物に魔力を纏わせるトレーニングをやるよ」


 最近教わっているのは、剣に魔力を纏わせて、切れ味や耐久力などを強化する魔力操作の基本。

 その練習をしているのだが……


「うーん……なかなか魔力が剣に伝わらないな……」


「け、剣も身体の一部だって考えるといいよ」


 上手くできない僕を見て、ユノは僕の後ろから手を回し、僕の手の上から剣を握った。


 ──……距離感おかしくない?


 そう、ユノの距離がめちゃくちゃおかしいのだ。

 とても近い。

 体も体温が感じるぞってくらいだし、なんなら背中に柔らかな感触がある。


 ここ最近、というか、魔法を習い始めてずっとそうなのだ。

 僕なんかその気になればイチコロで倒せるからかわからないが、とにかく距離が近い。


「……サイ? ど、どうしたの?」


「いや、その……」


 ──何その質問。気付いていないのか? それともわかっててやってるのか?


 こちらは気が気ではないというのに、ユノは身体をくっつけながら質問していた。


「も、もしわからないこととか、困ったことがあったら教えるよ……?」


 あるよ。

 バリバリに困ってるよ。

 いい匂いもするし、体は柔らかいし。こっちの気にもなってほしいよ。


 気恥ずかしくてずっと言えなかったが、もうメンタルが限界で、僕は口を開いた。


「……近くない?」


「え?」


「その、体とか、顔が……」


 僕が顔をアツくさせながら言うと、ユノは一瞬ポカンとした後、自身の体と僕の体をハタと見つめた。


「……! ご、ごごごごごめん……!」


 途端。

 ユノは顔をその瞳の色と同じように真っ赤にさせた。

 急いで距離をとった彼女に僕は咄嗟に声をかける。


「い、いや、全然嫌じゃないよ」


 この反応からして、本当に気づいていなかったようだ。

 それくらい、僕に一生懸命魔法を教えてくれようとしている。

 そして、少しは僕に対して、安心感をもってくれてるってことなのか。

 そう思うと少しだけ嬉しかった。


 ──そっか。3年間誰にも会わずに1人でいたから、人との距離感がわからないんだ。


 ユノにとって、コミュニケーションは本当に久々だ。

 距離感がバグっても不思議じゃない。


 でも……


 近づかれた時に間近で見ていた、そして今現在顔を赤くしているユノの顔を見つめる。


 ──すっごく顔良いんだよな……ユノって……


 少し癖っ毛の、長い黄金の髪。

 引き込まれそうな、スカーレットの瞳。

 高い鼻。

 薄い唇。

 長いまつ毛。

 何センチか測ってやりたいくらい。


 こんな美人が部屋から出られないのはやっぱり人類の損失なんじゃないかな。


「え、えっと……ど、どうしたの……?」


「全然、なんでもないよ。続き始めようか」


 いけない。

 じっと見すぎてしまった。


 とにかく今はこの調子でコミュニケーションを取ろう。

 この超絶美人を部屋から出すために。











「「いただきます」」


 夕飯の時間になり、僕とユノは手を合わせてウララさんの料理をいただく。

 今日の夕飯はカレーライスだった。


 ユノの部屋で夕食を食べるのももう何度目か。

 こういつも夕飯をいただいていると少し申し訳ない気持ちになってくる。

 今度何か手土産でも買ってこよう。


「んー……! おいひぃ……」


 ユノは毎回目を輝かせながら、時折涙を浮かべて嬉しそうに食べる。

 そんな彼女を見ながら食べると、僕も胸がいっぱいな気持ちになる。


「そういえば」


 ユノの美味しそうに食べる顔を見ながらふと思い出したことを切り出す。


「明日は午後からの勤務で、終わるのが夜になるんだけど……ちょっと時間的にここには来れなそうかも」


 カツーン


 そう言った途端、ユノはテーブルにスプーンを落とした。


「……え?」


 時が停止したように、ユノの顔が止まる。

 こちらを見つめて、カレーを咀嚼するのもやめて。


「ど、どうしたの? ユノ?」


「あ……ご、ごめんね! お、落としちゃって……」


「う、ううん……」


 ユノはふと我に帰ったかのように謝ってスプーンを拾う。


「そ、そっか、でもしょ、しょうがないよね? さ、サイいそがしいし……」


「う、うん……こればっかりは……仕事を休むわけにもいかないし……」


「そ、そうだよね……」


 ユノは笑顔でそう言う。

 手に持ったスプーンは口に運ばれず、ずっとカレーをつついていた。


「……」


「……」


 ユノは何かを言いたげな顔をして、口を開いて、閉じてを繰り返していた。


「あ、あのさ……」


 ユノがようやく、口から声を出す。


「あ、朝……とかに来られたり、でき、ないかなって……」


「……え? 朝?」


 僕が思わず聞き返すと、ユノはしまったと言わんばかりに顔を青ざめさせて手をブンブン振った。


「ご、ごめん……! その、忘れて……サイも、忙しいのに……」


「ううん、僕は全然朝でもいいんだけど……」


「……え、え、ほ、ほんと?」


 ユノが思っていた回答ではなかったのか、目を見開く。


「ほ、本当は嫌だったり、負担だったり……」


「別に早起きくらいいつものことだし、ただ夜に来てたのがその日だけ朝になるだけだから。ユノはそれでもいいの? 朝早くに訪ねるのは少し心苦しいんだけど……」


「……う、うん! 私は……その……」


 恥ずかしそうにユノは顔を真っ赤にして少し俯いた。


「サイが、来てくれると、嬉しいから……」


「……そっか」


 そう言った彼女は本当に嬉しそうに笑った。


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