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大天才だった幼馴染に久しぶりに会ったら、見る影もないくらい心身ボロボロになっていた件  作者: 平元桜央
第一章 太陽と月

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魔法訓練開始

 次の日。


「……ふーっ」


 ユノの部屋の前で深呼吸をし、僕はギュッと目を瞑ってドアノブを握った。


「し、失礼しまーす……」


「……あ、さ、サイ、いらっしゃ……い?」


 部屋へ入ると、ポカンとしたユノの声が聞こえる。


「さ、サイ……? ど、どうして目を塞いでるの?」


「いや……昨日のことがあったでしょ?」


「昨日……あ、あ〜……」


 ユノが納得したように頷いた。

 昨日はユノが着替えている最中にガッツリ部屋へ入ってしまった。

 ユノが部屋に結界を張っている以上、ノックや部屋の外からの声は、部屋の中には届かない。


「そう。だからユノの部屋に入る時は目を瞑って入ろうって思ったんだ。ちなみに今は大丈夫? 目開けていい?」


「う、うん……大丈夫……」


 しっかり確認をして目を開けると、ユノは今日もラフな格好のままベッドに座っていた。

 この方法を使えば、もう事故でユノの裸を見ることはないだろう。


「これからもし着替え中とか、もしお取り込み中に俺が入ってきたら、声をあげて注意して欲しい。そしたら出ていくから」


「べ、べ、別に……そこまで気にしなくても……」


「へ?」


「な、な、なんでも、ない……」


 ユノは少し拗ねたようにそっぽを向いて質問してきた。

 なんだ……どうして怒ってるんだろう……?


「今日もよろしく頼むよ先生。ほら、これ今日のお菓子」


 僕は宥めるようにお菓子の入った袋をユノへと手渡す。


「あ、ありがとう……で、でも先生は照れちゃうからやめて……か、体の、調子はどう……?」


「うーん……良くはなったけど、やっぱり違和感はあるかな」


 体の中に、そして外にも、今まで感じなかった魔力という存在を感じる。

 なんだか自分の体ではなくなったような感じだ。どうしても変な感じがする。


「そ、そうだよね……きょ、今日からは、体に魔力を蓄えても吐かないようにする訓練をやろうかなって思うんだけど……どうかな……?」


「おぉ、それはありがたいね」


 ──前回は酷い目にあったからな……あんなに吐いたのは初めてだ。


「に、人間には、それぞれ魔力の許容量があるの」


 ユノは机の上に置いてあった適当な紙を手に取る。

 そこにサラサラと図を描き始めた。


「体の中に魔力を入れられるバケツがあると思ってくれた方がわかりやすいかな……? そのバケツ分は魔力を蓄えられるんだけど、それを超えると魔力酔いを起こして体に不具合が起こるの。昨日のサイの魔力回路をいじって、サイの体の中にはバケツができた状態……だね。まだ小さいけど……そのバケツを大きくしていくのが今回の魔法の練習で……」


 そこまでユノは説明をして、我に帰ったようにハッとした。


「ご、ごめんねペラペラと喋っちゃって。わ、わかりにくかったよね?」


「いいや、そんなことないよ。とってもわかりやすかった」


 魔法のことが、本当に大好きなんだなと伝わる。

 僕に教えている時も、すごく興奮してるし、どもりも少ない。


「ユノ、先生とかにも向いてるんじゃないかな?」


「そ、そう……かな……え、えへへ……」


 やはりユノに魔法を教わるのは、彼女とコミュニケーションを取る手段として悪くない。


「それで、どうやって魔力の許容量を大きくしていくの?」


「そ、それは、魔力に慣れていくしかないね。慣れる方法はいろいろあるけど、一番良い方法は、『瞑想』……かな?」


「瞑想?」


「う、うん。ただ瞑想するわけじゃなくてね? 外にある新しい魔力を体の中に取り入れながら、同時に体の中にあった古い魔力をどんどん外に出していくの」


 そう言ってユノは目を閉じると、身体の中に実際に魔力を取り入れていった。

 そして古い魔力は外へ。

 魔力を知覚できるようになったからか、彼女の体の中の魔力の流れがわかる。


「こんな風に体の中で魔力を循環させれば、体が魔力に慣れて、魔力に対する拒否反応も薄くなって、容量も増えていくよ」


「なるほど……なんか、魔法の練習って結構地味なんだね。なんかもっとこう……バンバン撃ち合うものだって思ってた。」


「さ、サイはまだそのステージは早いかな。もっと魔法を覚えられたら、そういう練習もできると思うけど」


 確かに。何事もまずは基礎練習からか。


「じゃあ、やりかた説明するから、一緒に瞑想やってみよ」


「うん」


 ユノが目を瞑るのをみて、僕も目を瞑って周囲の魔力に集中する。


「まずは魔力を体に取り込んでみて。量は……そうだね、吐く3歩手前くらい……かな?」


 ……吐く3歩手前って……だいぶ気持ち悪くならないかな?


「やってみるね」


 集中して周囲の魔力を体の中へ……


「うぅ……異物感が……」


「で、できれば我慢して……! 体が慣れれば感じなくなるはずだから……!」


 まだ2日目だからか、どうしても慣れない。

 体の中に蠢く何かを取り入れるというのは。


 次は魔力を吐き出しながら、新しい魔力を取り入れる……


「む、難しいな……魔力を吐き出したり取り込んだりはできるけど、吐き出しながら取り込むのは……」


 元からあまりマルチタスクが得意ではないし……


「こ、これも慣れで、少しずつできるようになるから、大丈夫だよ」


「ほんと……?」


「た、例えば歩くとき、無意識に手も一緒に動くでしょ? それと同じで、慣れれば無意識に吐き出すと取り込むを同時にできるようになるよ」


 なるほど。

 わかりやすい例だ。


「そうして自分が、一本の管になったように想像して……魔力を取り込み続けて……吐き出しつける……」


「……」


 魔力を吐き出して、取り込むの……自分の身体を……一本の管に……


「こ、こうかな……?」


「そうそう! 上手上手! できてるよサイ!」


「ふぅ……結構キツイね……集中しないとすぐに循環が切れちゃいそうだし、何より吐き気が……」


「これから毎日、時間を見つけてこの瞑想をやると、どんどん魔力の許容量が増えてくはずだよ!」


 これをこれから毎日か……なかなか骨が折れるな。


「わかった。時間はどれくらいが理想かな?」


「時間はそうだね……最初は2時間もやれば十分……かな?」


「え!? 毎日2時間!?」


 思ったより長時間で僕は思わず声を上げた。


「あ、で、でも! 全然無理しない程度で……!」


 ユノは僕が大声で驚いたからか、とっさに手を振って遠慮がちに否定する。

 気を使わせてしまった。


「……いや、やるよ」


「え……で、でも……サイ、お仕事で忙しいだろうし……」


「ううん、せっかくユノがオススメしてくれてるんだから。そうしたほうが魔法も早く習得できるなら、がんばるよ」


 これも自分のためだし、なによりできれば、ユノの考えや意見を否定するようなことはしたくない。


「凄いな魔法使いって……ユノももしかして毎日そのくらいやってるの?」


「え、う、ううん、私は24時間やってるよ」


「へ?」


 ──24時間? 

 聞き間違いかと思って、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「ね、寝てる時も? それってどうやって……」


「こ、呼吸するのと同じで……ま、魔導士はみんなこれを24時間やってるの……体に魔力を染み込ませないと、魔法の質が落ちちゃうから……」


 ……そんなことをしている自分が想像できない。

 魔法使いって本当に同じ人間なのだろうか?


「が、がんばってやってみよ? 慣れてくれば別の事を考えながらとか、会話しながらでもできるようになるよ……!」


「う、うん……」


 僕はもう一度目を閉じて、意識を魔力へと集中させる。


 吐く3歩手前くらいまで魔力を取り込む。

 これをキープ。

 あとはその量を維持したまま新しい魔力を取り込み、古い魔力を吐き出す。

 右から左へ。

 まるで水を取り込み吐き出すホースになったかのように。


「……」


「……」


「……」


「……」


 地味ぃ……


「さ、サイ……瞑想、乱れてるかも……」


「く……」


 結構難しい。

 魔力操作に意識を集中させないと、すぐに魔力の流れが乱れる。

 この調子だと30分できればいい方だ。


「や、やっぱり長時間は難しい……? ご、ごめんね……? さ、最初はもう少し短い時間でも……」


「い、いや!」


 せっかく僕のために色々と考えてくれているんだし。

 こうして、ユノに魔法を教わる日々の始まった。

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