代償
さっそく、僕の魔力回路に魔力を流してもらうこととなった。
「僕は何もしなくていいの? 何かすることはある?」
「う、ううん! さ、サイはただじっとしてくれれば……私が魔力を流すだけだから……あ」
何かを思い出したかのように、ユノは声を上げた。
「どうかした?」
「あ、え、えっと……この方法って、魔力を強引にサイの体に捩じ込む感じになるから、結構衝撃があって……その……」
ユノは顔を真っ赤にして、俯きながら言った。
「……ふ、服を脱がないと……服にダメージが入っちゃう……かも……」
「なんだ、そんなことか」
僕は上の服を脱いだ。
「え? そ、そんなことって……えええええええええ!?」
「え? ど、どうしたのそんな声出して」
「ど、どどどどどどどうして服を脱ぐの!?」
ユノは顔をリンゴのように赤くして、手で覆いながら大声を上げる。
「いや上半身だけだよ?」
「じょ、上半身でも問題だよ!? さ、さっき私の裸見た時サイも慌ててたじゃん!」
「で、でも男性の上半身は別に普通じゃ……水着とかそうだし……」
「そ、それはそうだけど……は、恥ずかしかったり……とか……」
ユノの声が徐々に小さくなり、その場でへたりこんでしまった。
……予想外の反応が来て困惑したけど、もしかして女性の前で上半身だけでも裸になるのって良くないか?
騎士の訓練の時は汗を滝のようにかくから、上半身裸なんて女性の前でも普通にしてたし、向こうも全く気にしていなかった。
逆だったらそれは問題だけど。
「ご、ごめん。配慮が足りてなかったね。服の上からやってもらって大丈夫だから……」
「……! あ、ま、待って!」
ユノは一度大きく深呼吸をした。
「……だい、じょうぶだから……」
「い、いや、無理しないでよ。服なんてまた新しく買えばいいし……」
「ぜ、全然無理なんてしてないよ……た、ただ……ちょっと、ドキドキしちゃって……」
本当に大丈夫だろうか? 相変わらず顔が赤いけど……目は全然合わないし……
「……無理なら無理って言ってね? 全然服着るから」
「あ、ありがと、でも、だ、大丈夫……」
僕はお願いしてユノに背中を向ける。
「そ、それじゃ、さ、さ、触るね……」
「うん、いつでもいいよ」
背中に、彼女の手が触れた。
「……」
「……」
『サリ……』
「……?」
背中をそっと撫でられる感触。
──なんだ? なにをしてるんだ? 衝撃が来ないけど、もう始まってる?
『サリサリ……』
──なんかずっと撫でてない? 儀式ってこんな感じ?
「……あの……」
『サリサリサリ』
「……」
──無言で背中を撫でられてる。何この絵。
「ユノ?」
「……! え!? な、な、なに……!?」
「いや、もう始まってる?」
「──あ、ご、ごめんね……! す、すごい筋肉してるなぁ……って……!」
「何の感想なの!?」
びっくりした。
撫でるのも何か必要なことなのかと思ったら筋肉を愛でられていた。
「え、えっとね、全然……その、気にしなくていいんだけど……」
「……?」
少しだけ、彼女の声が沈んだような気がした。
「む、昔のサイと……やっぱり全然違うんだなぁ……って……」
「……」
その声には、なんだか寂しさが含まれていた。
昔の僕と比べて、ユノも思うところがあるのかもしれない。
「確かにね。身体は大きくなったかもしれないけど、でも、僕は僕だよ」
「え……?」
「子供の頃、ずっと一緒にいた僕と同じだよ」
安心させるように、僕は言う。
「……そう……だね……」
ユノは僕の背中から手を離し、意を決したようにもう一度手のひらを背に触れた。
「それじゃあ……いくね」
「うん」
改めて、ユノが僕の背中に両手を置く。
『ドグン!』
「……!!」
体に一気に衝撃が来た。
体の中に何かが入ってきた、そんな感覚。
「ふぅ……ど、どうかな?」
「おー……!」
何かが、僕の体の中を動いているのを感じる!
「すごい……! 本当に魔力が増えたような気がする!」
「よ、よかった。成功したみたいだね。あ、これ、バケツ……持ってて……」
「え? なんで?」
ユノがそこにあったバケツを僕に差し出してきた。
「多分そろそろ……」
「え? ……! うっ!!!」
その次の瞬間、僕はたまらず口元を抑える。
「うぉああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
いきなり強烈な吐き気が込み上げ、バケツの中に胃のものをすべて吐き出した。
「ぎ、ぎぼぢわるい……」
「や、やっぱり……魔力酔いしちゃうよね……」
「ま、まりょくよい……?」
「いきなり魔力を大量に摂取すると、体が魔力異物だと思って、拒否反応を起こしちゃうの」
名前だけは聞いたことある。
駆け出しの魔導士がたまになるやつだと……初めて体験したが、まさかここまで強烈だとは。
──でも、やってもらった身だから口には出さないけど……これって副作用じゃ?
「う゛……」
もう一度吐き出す。
でもなんか全然スッキリしない。
そもそも体が魔力に拒否反応を起こしているなら、胃の中のものを吐いても治らないのは当然だ。
「こ、ごれ……いつまでづづくの……?」
「だ、大丈夫。しばらく経ったら治るはずだから……」
──しばらく……このお酒飲みすぎた時みたいな苦しみが……
「ご、ごめんね……お、落ち着くまで、横になって……」
「あ、ありが……うっ!!」
「た、たぶん、今日1日はもう無理しない方がいいかも……多少気分が良くなったら、今日はもう終わりにしよっか……」
「……りょうかい」
横になって気持ち悪くしている僕を、ユノは心配そうに見守ってくれた。




